職場のいじめから人間不信に陥りホームレスとなった販売者が、貧困をテーマにした神戸市のセミナーで出張講義。協働の可能性を探る

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動への理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。 

 
今回の訪問先である、神戸市所管の「協働と参画のプラットホーム」は、行政・NPO・地域団体・企業・学生など、人びとが協働を通じて新たな価値を創造する無料レンタルスペースとして発足。「NPO法人しゃらく」が企画運営し、さまざまな社会課題について、多様な人びとが連携し、行動するきっかけとなるセミナーやワークショップを開催しています。


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今回の「貧困」をテーマにしたセミナーの1つを、ビッグイシューがゲスト講師として受け持たせていただき、ビッグイシュー日本のスタッフ吉田耕一と、販売者の勝俣さんがお話をしました。

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ホームレスの人も即日始められるビッグイシュー販売の仕事

まずビッグイシュー日本のスタッフ・吉田から、ビッグイシューの仕組みについて説明。

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ネットの求人情報などを見て、たとえばアルバイトに応募するとします。応募には履歴書や保証人が必要だったり、給料支払いは勤務後1ヶ月以上先になったりしているところもあります。
これらは多くの人には問題のないことかもしれませんが、ホームレス状態の人にとって自立への大きな障壁となっています。

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そこでビッグイシューは、ホームレス状態の人がその日から雑誌販売の仕事を始められる事業を15年前から開始。

350円の雑誌「ビッグイシュー日本版」を販売すると、1冊あたり180円が販売者の手に入ります。はじめの10冊無料でビッグイシューから提供され、この10冊が売れれば3,500円の収入になります。その後はそれを元手に1冊170円で仕入れをして、自分で販売するということを繰り返し、それぞれの自立へ向けたアクションを起こしてもらいます。

このようにビッグイシューは、ホームレス状態になった人へ、「寄付」ではなく、仕事を作って提供することで自立をサポートしています。

自己肯定感が低い日本の若者

自分で決めてチャレンジすることで、生きる力を取り戻すことを「セルフヘルプ」と言います。自己肯定感を高め、ホームレス状態の人が自立するためにはとても大切なこと。しかし、いまの日本の若者は自己肯定感が低いと言われています。

内閣府の調査では、1週間のうちに「悲しいと感じたことがある」、「憂鬱だと感じたことがある」と答えた若者の割合が、いずれも他の国の若者と比べて高く、「将来への希望を持っている」と答えた割合は、各国の中で最も低くなっています。

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パワポ2

編集部補足:日本の若者は諸外国と比べて,自己を肯定的に捉えている者の割合が低く,自分に誇りを持っている者の割合も低い。
特集1 自己認識|平成26年版子ども・若者白書(全体版)- 内閣府のサイトより引用

「包摂的な社会」=誰もが生き生きと暮らせる社会

ホームレス問題だけでなく、自己肯定感の低い若者たちの問題、そして子どもや独身女性、母子家庭の相対的貧困率の高さという問題。こうした排除や貧困の社会を放置してしまうと、社会全体へさまざまな格差が大きく広がっていきます。

イギリスの学者リチャード・G. ウィルキンソンが『格差社会の衝撃―不健康な格差社会を健康にする法』(池本幸生・他訳、書籍工房早山、2009年)で述べているように、経済的な格差の広がりを放置した社会の行く末は、健康水準が低く、凶悪事件が増加、過当競争が生まれ、貧困層に限らず社会のあらゆる所得層に強いストレスのかかる、生きづらい社会となって自分の身に振りかかることになります。

ビッグイシューは、「排除ではなく包摂的な社会」をテーマに、みんなが生き生きと暮らしていける、生きやすい社会を目指して取り組みをおこなっています。

職場のいじめから孤立しホームレス状態へ ― 販売者・勝俣さんのお話

続いて、「三宮オーパ2・ダイエー神戸三宮店前」と、「ポートライナー三宮駅改札前」で販売をしている勝俣さんが、ホームレス状態になるまでの体験を話しました。

※参加者のひとり、@yuichiho さんの実況中継Tweetとともにご紹介します。

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勝俣さんは東京都北区出身。
サラリーマンとして家電量販店に勤めていたときに、会社の同僚や上司からいじめ・嫌がらせを受けてしまいます。

人間不信になった勝俣さんは会社を辞め、コンビニのアルバイトとして働きますが、そこでまたもトラブルに。

親類とは長らく疎遠になっていて、このようなつらいときも相談したり、助けを求めたりできる人がいなかったそうです。

八方塞がりで思いつめた勝俣さんは自ら命を絶とうと、富士山麓の青木ヶ原の樹海へ足を踏み入れます。

樹海で何日もあてどなく過ごしていたとき、人骨や置き去りになった荷物などいくつも目にしたそうです。

勝俣さんは、泥や木の根っこで足を取られながら、何も考えられず飲まず食わずで1週間近くもさまよった頃、突然どしゃ降りの雨に遭います。

もうどうしようもなくなったと感じた勝俣さんは、それ以上先に進むことをあきらめ、どうにか樹海を脱出して駅にたどり着きました。

大阪まで来た勝俣さんは、しばらくのあいだネットカフェを拠り所としていましたが、やがて所持金が少なくなり、公園で野宿という困窮生活。

そんな折に立ち寄ったネットカフェでビッグイシューのことを知り、ビッグイシュー日本の大阪本社事務所へ。それから以後は販売者となり、現在も自立を目指して販売に携わっています。

参加者が質問「ビッグイシューの販売で大変なこととは?」

みなさんから質問をしてもらい、勝俣さんが回答していきました。

Q.販売で大変なことはありますか?
環境に左右されることが多いということです。
特に今年(2018年)は6月の大阪府北部地震も影響がありましたし、7月の西日本豪雨と9月初めの台風とか、とにかく販売に立てなかった日が多かったのが悔しいですね。

6月の地震のときは3日間販売できませんでしたし、7月の大雨のときは5日間も立てなくて、さすがにつらかったです。そのあと晴れた日が続いたんですが、暑すぎたのか、販売数はかなり少なかったですね。

Q. 販売で気をつけていることは?
服装ですね。清潔感を大事にしています。販売については、売れ行きによって販売時間を延ばしたりもします。目線の配り方も気をつけています。

Q. どんな方がビッグイシューを購入していますか?
中高年の方から若い人までさまざまです。
映画の特集号などは若い女性の方も買って行かれる方が多いです。もしバックナンバーにご希望があればお取り寄せもできます。

Q. 販売をしていてよかったと思ったことは?
1日20部くらい売れると、自分でも驚きますがやっぱり嬉しいですね。
手作りのお弁当や、牛丼の差し入れなどいただくこともありまして、そんなとき、お客さんのその温かい気持ちが嬉しいです。

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最後に今回のまとめとして、ビッグイシュー日本スタッフから、ホームレス支援や課題解決へ向け、みなさんに起こしていただきたいアクションについてお話ししました。

SNSで記事の感想や、イベントの開催や感想の発信のほか、あなたの会社やグループに雑誌を持ち寄ってシェアしたり、お近くの図書館にリクエストしていただくことも大きな支援のひとつになります。

みなさんが持っている得意な技術をビッグイシューに提供する、「プロボノ」としての支援も現在いただいています。具体的なものとしては、ビッグイシューをアピールするステッカー、チラシなどの販促物デザイン制作や、ウェブ分析やリサーチなどでもサポートしていただいています。

セミナー終了後も、ビッグイシュー日本がおこなう支援や雑誌の内容、ボランティアについてなど、参加者のみなさんとスタッフ、そして勝俣さんとのお話は尽きず、またテーブルに並べられた本誌を何冊も手に取って、購入されていく方たちもいらっしゃいました。

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それぞれの参加者が「具体的なアクション」を取るきっかけになったのであれば幸いです。

勝俣さんの販売場所
三宮オーパ2 ダイエー神戸三宮店前(午前10時~午後1時ごろ)

 ・ポートライナー三宮駅改札前(午後2時半~午後7時半ごろ)

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小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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