「男らしい」「女らしい」脳は、幸せでない確率が高い? 二人に一人は中性的な脳を持つとの研究結果

 広告表現から職場での役割まで、いたるところで男性と女性は根本的に違うが前提とされ、「男性は火星、女性は金星から来た」と比喩する本もあるほどだ。

その一方で、いわゆる「男性的」「女性的」な特徴が混じり合っている中性的な人たちがいることも分かっている。「心理的両性具有」と呼ばれるこの性質は、認知の柔軟性、社会的能力、そして精神面での強さに優れ、うつ病や不安障害といった精神疾患にかかる可能性が低いことが知られている。また、高い創造性を発揮しやすいとも報告されている*。



*参照:Psychological androgyny and creativity: Dynamics of gender-role and personality trait

では、脳との関係はどうなのだろう? 男性と女性の脳がどの程度違うのか、科学者たちは長い間議論を重ねてきた。その違いぶりを報告する文献がたくさんある一方、違いはわずかなもので、両者の分類は決して絶対的なものではないと主張する研究者もいる。

両性具有的にふるまう人たちは、もともと備えている生物学的な性質に逆らい、脳がどちらの性にも寄らない行動を取っているということなのだろうか?ケンブリッジ大学臨床神経心理学教授バーバラ・ジャックリン・サハキアンをはじめとする筆者らが実施し、 2021年1月に科学ジャーナル『Cerebral Cortex』で発表されたばかりの研究*では、中性的な脳が存在し、しかもそれはかなりよくあることだとの結果が示唆された。


*参照:The Human Brain Is Best Described as Being on a Female/Male Continuum: Evidence from a Neuroimaging Connectivity Study

脳の性別、いわゆる「男らしい」「女らしい」が4分の1ずつ、残りは「どちらでもない」

ところで、いわゆるステレオタイプ的な「男性像」「女性像」と言えば、すぐにイメージが思い浮かぶだろう。男性は、動揺しても感情を表に出したり泣いたりしないとされ、タフで、決断力があり、理性的で、地図を読むなどの空間視覚能力の高さも期待されている。女性は、より感情的で、世話焼きで、言語能力が高いとされている。

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Dina Mariani/iStock-photo

こうした典型的イメージは、そのまま社会的な規範や期待に落とし込まれている。そして、多くの人は他人からよく思われたいものなので、それらを受け入れている。ある少女が誰かから自己主張するのは無礼で見苦しいと言われたら、そうしないよう行動を改めてしまうかもしれず、ゆくゆくは将来のキャリア選択にも影響するかもしれない。大人の女性が、やりがいはあるが危険とされる仕事(軍や警察など)に就こうとすると、家族や友人からいい顔をされないかもしれない。

私たち人間は精神的に、典型的な「男性像」と「女性像」のどちらかに分類されるのではなく、そのあいだの次元のどこかに位置していると主張する研究*がある。だとしたら、その人たちは脳も行動もより「両性具有的」となるのだろうか?

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*参照:Black and White or Shades of Gray: Are Gender Differences Categorical or Dimensional?

この点を実験するため、前述の筆者らによる研究では脳画像と機械学習アルゴリズムを用いて、それぞれの脳の連続性を図示した。すると、男性と女性の脳は似てはいるが、脳内の領域間の結合性に違いがあることが確認された。

この結果を用いて、9,620人の被験者(男性4,495人、女性5,125人)の脳を分類した。その結果、脳は両極に分かれるのではなく、その間の範囲全体に分布していることが明らかとなった。サブサンプル*のうち、約25%が男性に、25%が女性に分類され、残る50 %はその範囲内の「両性を備えた脳」に分布していた。


*マスターサンプルから小規模調査のために抽出された標本。

さらに、この中間に分類された「両性具有」の人々は、両極に位置する人たちより、うつ病や不安障害などの精神疾患を患った割合が少ないことも分かった。

これらの発見は、脳の両性具有性を示す神経画像は存在するという斬新な仮説を裏付けることとなり、心理的両性具有と同じように、脳の両性具有も精神面に良い影響を及ぼしている可能性を示唆している。

なぜ両性具有が恩恵をもたらすのか

絶えず変化し続ける地球環境に順応し、新しい知識を学ぶため、私たちは身のまわりの世界に注意を向けなければならない。そして、精神の健康、柔軟性を持ち、さまざまな戦略を用いて生きていかなればならない。両性具有的な脳を持つ人はこうした能力で有利とされており、生命力が強いとされている。

なぜそうなるのか? 約2万人を対象に78のサンプルを取り出してメタ分析を行った研究*では、これまでいわゆる「男性的」とされてきた特徴を持つ人たち(他人を頼らない、女性を支配的に扱うなど)は、そうでない人々よりも精神科的症状(うつ病、強い孤独感、薬物依存など)が多いことが明らかになった。また、他者とのつながりが弱く、疎外感も強かった。


*参照: Meta-Analyses of the Relationship Between Conformity to Masculine Norms and Mental Health-Related Outcomes

典型的な「女性」であろうとする人々も代償を払っている。男社会だからといって自分の望む仕事をあきらめる、または家事のみを強いられているかもしれない。両性具有的な女性なら、そこまでジェンダー的規範に影響されないのではないだろうか。

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脳の両性具有レベルは人生の過程で変わりうる

とはいえ、両極にいる人たちに希望がないわけではない。脳はある程度変化させられるのだ(可塑性がある)。両性具有的な脳がつくられるのは、おそらく遺伝的なものと環境的なもの両方の要因、およびその両方が作用し合った結果である可能性が高い。今回の研究でも、脳の両性具有レベルは人生の過程で変わりうると述べている。

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Photo by Bret Kavanaugh on Unsplash

脳の両性具有性は生きていく中でどのように変化するのか。教育などの環境的要因がどれくらい影響するのか、さらなる調査が必要だ。両性具有の脳がもたらす精神衛生上のメリットを踏まえると、学校や職場でより良いパフォーマンスを上げ、精神的幸福度を高めていけることになる。ジェンダーの極端なステレオタイプに陥らないよう、子どもたちには成長に合わせてバランスよく機会を与えていくことが必須となるだろう。

By Barbara Jacquelyn Sahakian,
professor of clinical neuropsychology at the University of Cambridge

Christelle Langley,
postdoctoral research associate in cognitive neuroscience at the University of Cambridge
Qiang Luo
associate principal investigator of neuroscience at Fudan University
Yi Zhang
visiting PhD candidate at the University of Cambridge

Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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