先進国の一つである英国で、約4割の女の子が生理用品を買えずにトイレットペーパーを代用したことがあるという調査結果が出た。
4割の女の子がナプキンにトイレットペーパーを代用
セリア・ホドソンがパートナーと別れたのは、一番下の子どもが生後2ヵ月の時だった。気がつくと、子どもたち3人は小学生へと成長し、給付金をもらうシングルマザーとして子育てに苦労する自分がいた。
「まったく別の人生が始まりました」とホドソンは語る。住宅支援で住む場所を指定され、食料引換券で子どもに食べさせるものも限られた。「お金がないひとり親は、自分で物事を決めたりコントロールすることができなくなります。子どもは我慢を強いられ、低廉なものしか与えられず、その恥ずかしさはおそらく一生トラウマになるでしょう」
似たような状況で生きる女性たちが、スーパーのレジで合計金額が所持金を上回ってしまったことに気づいた時の気持ち、そして帳尻を合わせるために何を犠牲にするかをホドソンは知っている。「母親として最初に棚に戻すのは自分のもの、たとえばシャンプーや生理用品です」
生理期を靴下や小さな布でしのぐのは、親だけの話ではない。子どもたちが成長し物心がつくにつれ、親を気遣うようになるからだ。「経済的負担をかけたくないがために、生理中であることを親に言わない10代の少女もいます」とホドソン。「彼女たちは友達にナプキンをもらったり、残り3個しかないタンポンを12時間も入れっぱなしにしたりします。これらはすべて自尊心に影響するでしょう」
実際、国際NGOプラン・インターナショナルが17年に英国で調査した結果によれば、生理用品を買うお金がなくトイレットペーパーを代用したことがある女の子(※1)は4割にのぼる。7人に1人が生理用品の購入に苦労したことがあり、貧困状態にある4人に1人が生理期間に学校を欠席したことがあるという調査結果も出ているほどだ。
※1 調査は14~21歳の女の子を対象に行われた。
こうしたことから2018年1月、ホドソンは2人の娘とともに「ヘイ・ガールズ」を設立した。娘たちとの会話で出てきたアイディア、「一つ買って、一つ寄付」モデルで生理用品を販売する社会的企業だ。同社の生理用品は現在、英国全土にある大手スーパーのチェーンで500店舗以上、184の生協で販売されている。200を超える協賛団体の協力も含め、これまで学校やフードバンク、DVシェルターなどに670万個以上が寄付された。
セリア・ホドソン、娘のベッキーと、ボランティアの女の子たち 写真提供: Hey Girls
英国でも生理の話はタブー。
起業から約2年ですでに数千人の生活を改善
「生理貧困にまつわるキャンペーンの多くはチープな生理用品を配布していますが、それではまるで女の子たちに『あなたの価値はこの程度』と言っているようなものです。お金がない人は単に今すぐ生理用品を買えないというだけで、その人が高品質のナプキンを使うべきでないということではありません。私たちはみなさんがスーパーで買ったものとまったく同じものを寄付します。それは、高品質のナプキンをどんな人にも使ってほしいからです」
英国では、生理用品にかかわる支出はひとり1ヵ月あたり10ポンド前後(約1400円)といわれ、付加価値税(消費税)として5%が課税されている。ナプキンなどが生活必需品にもかかわらず課税されているこうした実情には世界各国で反対運動が起きており(※2)、「男性の問題であればもっと早くに政治家たちが取り組んでいたかもしれない」という声もある。近年は社会の関心も高まり、自主的に税金を負担するスーパーも現れている。
※2 反対運動で生理用品にかかる税は「タンポン税」と呼ばれ、カナダやインドなどでは消費税が廃止された。
しかしホドソンは「1ポンドが払えない時は、95ペンスだって無理なんです」と言う。「女の子たちは貧困状態への劣等感に加え、生理という他人に言いづらいことで悩んでいるから助けを求めにくい。英国でも生理は社会でタブー視されてきた話題です。地球上の半分は女性で、誰もが女性から産まれてきているのに――。生理は女性にとって“普通のこと”という意識を社会全体、男性にももってもらい、この当たり前のことで苦しんでいる女の子たちがいることを伝えたい」。そう話すホドソンは、父親が娘と生理について話ができるようにする教材を公開するなど、性教育事業にも力を入れている。
一箱あたり3.25ポンド(約470円)で販売されている「ヘイ・ガールズ」の生理用ナプキン。平均的な商品価格より1ポンドほど高い 写真提供: Hey Girls
起業したばかりの頃、ヘイ・ガールズの商品は竹とトウモロコシ繊維でできた生分解性の生理用ナプキンだけだった。その後、100%オーガニックのタンポン、生理カップ、そして最近ではサトウキビから作られたコンポスト化可能なアプリケーター(通常はプラスチック)のタンポンなどを発売し、環境に配慮した生理用品を推進している。
洗って繰り返し使える生理カップ
ホドソンの目標は生理貧困の根絶だ。難題に聞こえるが、起業から約2年ですでに数千人の生活を改善させ、彼女らの自尊心を回復させてきた。「毎月訪れる数日間のスティグマ(恥辱)は、積もり積もってしまうものです。以前はできなかった生理中のやりくりが今はできると思えるだけで、女の子たちにとっては大きな力になると思うのです」
※「ヘイ・ガールズ」は、スタートアップの社会的企業に融資する「ビッグイシュー・インベスト」の支援を受けている
(Dani Garavelli, The Big Issue UK & Tony Inglis, INSP / 編集部)
参照:Independent
※上記の記事は2020年1月15日発売の『ビッグイシュー日本版』375号からの転載です。
THE BIG ISSUE JAPAN375号
https://www.bigissue.jp/backnumber/375/
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