ウクライナ国内のホームレス支援団体はいま

 ロシア軍のウクライナ侵攻以来、おびただしい数の人々が国外に避難、住まいを失う人たちが続出している。周辺国もかつてない規模の避難民のケアに必死だが、戦地に残っている人たちはどんな状況にあるのだろうか。人道危機の前線で奔走する支援者に『ビッグイシュー英国版』が話を聞いた。(2022年3月21日発売『ビッグイシュー英国版』1505号に掲載

キエフのホームレス支援団体「Pomogi Bezdomnomu」

ウクライナの首都キエフでホームレス問題に取り組むNGO「Pomogi Bezdomnomu(英語でHelp the Homelessの意)」は、昨年の厳冬期に5人の命を救った。しかし今、ウクライナでは誰もが命の危険にさらされている。この小さな草の根団体は2月20日に設立6周年を祝った。その4日後に、ロシア軍侵攻が始まった。

「侵攻のニュースを聞き、ひどく混乱しました」共同創設者の1人オルガ・ロメンスカは言う。「今日は事務所を開けられないと言われ……これまでにもロシア軍が国境付近まで接近したことが何度かありましたが、21世紀にもなってこんな理不尽な戦争が始まってしまうなんて、とても信じられませんでした」

6年前、キエフ市内の路上生活者を助けたいと心に決めたロメンスカは、その思いをソーシャルメディアに投稿した。マーケティング畑で働いてきた彼女は「“いいね!”がたくさんつくだけ」くらいに思っていたが、友人や同僚から大きな反響があり、食料支援が始まった。初めて炊き出しをしたときは、“店じまい”しようかと思っていた頃にようやく20人ほどの列ができた。

ホームレスの人たちが宿泊施設に入れるよう資金面の援助を5年間続けてきたが、昨年11月には自前のシェルターを開設、21人が寝泊まりしていた。ロシアの軍事侵攻の直前まで、ロメンスカが率いるチームは、温かい食事や薬など路上生活の必須アイテムの配給を行っていた。炊き出しの列は以前の10倍となり、100人規模の炊き出しを毎週月曜に実施、ある土曜日には約200人に達した。当事者にシェルターの運営サポートの仕事を斡旋したこともある。

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2021年11月にキエフ市内に開設されたPomogi Bezdomnomuのシェルター。Credit: Pomogi Bezdomnomu

このような活動を6年続けてきた今、ロメンスカ、そして彼女が支援する人たちの暮らしは危険にさらされている。ロシア軍の砲撃が続き、地上軍が接近するなか、シェルターには今も14人が生活しているが、路上生活者の支援活動は中断を余儀なくされている。街が破壊されている今、屋外での活動は危険すぎるからだ。キエフの米大使館によると、北部チェルニヒウでパンを求めて並んでいた10人が銃撃されたという。

「食料配給を中断せざるをえなくなったのは、団体の設立以来初めてのことです」とロメンスカ。「戦時下の運営など誰も経験がありませんし、ボランティアの中には家族を避難させた人たちもいます。コロナ禍でも止まることのなかった配給活動が、今はできない状況です。支援を届けることができず本当に心苦しいです」

ロシア軍の侵攻前、ウクライナ国内のホームレス状態にあった人の数は正確にはわかっていない。ウクライナ・ソーシャルファンド・パートナーシップなど複数のNGOの概算では2015年時点でおよそ20万人としていたが、当時からこれは実際よりも少ないと見られていた。失業率約10%、貧困ライン以下で暮らす人が約150万人の、ヨーロッパの貧しい国のひとつであることを踏まえると、その数はもっと多いはずとの見立てだ。

2014年のロシアによるクリミア半島併合とドンバス地方での紛争により約150万人が家を失い、ウクライナは世界最大の国内避難民を抱える国のひとつとなった。そして今回のロシア軍侵攻により、家を失う人が続出、膨大な数の人が国外に避難している。国内でも国外でも人道的危機にあり、ロメンスカたち団体スタッフはこの事態への適応を求められている。

「今はキエフの街を守ってくれている人たちへの食料配給をすすめています。私たちが支援してきた一番弱い立場にある人たちへの援助を打ち切らなければいけないのが、何ともやるせないです」と言うロメンスカ。「少しでも援助を再開できるよう、活動の再編成をすすめています。少なくとも、シェルター運営の支援、家を失った人たちへの食料配給を何らかのかたちで早急に再開させたいと思っています」

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 キエフのホームレス支援団体Pomogi Bezdomnomuは現在、ウクライナ兵士たちに食料を配給している。
Credit: Pomogi Bezdomnomu

デポール・インターナショナルのウクライナ支部

世界的な慈善団体デポール・インターナショナルの勇敢なスタッフたちも、ハリコフとオデッサでシェルターを運営している。国内で2番目に大きな都市ハリコフでは、戦争開始から爆撃が続く。ウクライナ支部の理事を務める神父ヴィタリー・ノヴァクは、危険と隣り合わせの状態ながら、国内各地から届く支援物資を積んだトラックを運転するなどして、救援対応にあたっている。「2週間前まで、ウクライナのいくつかの都市でホームレス支援を行っていたのに、今や国内の至るところにニーズがあり、私の生活はすっかり変わりました」と話す。

「戦時下では、まずは安全に過ごせる場所、そして食料、飲み水、医療物資が必要です。爆撃にさらされている都市に残っている人すべてが日々刻々、そうしたニーズに直面しています。何が必要か、というレベルではなく、何もかも足りていません」

デポール・インターナショナルが手に入れたリソースは今、ウクライナ避難民に集中的にまわしている。事態がますます悪化し、支援を必要とする人が日ごとに増える中、緊急暖房施設の資金調達、路上生活者への食料提供、そしてアウトリーチ要員との接触をすすめている。「ウクライナ東部の戦闘地域を中心に、できるだけ多くの人が安全な場所に移れるよう指揮しています。ハリコフの地下鉄構内には数千人が身を寄せて2週間になります。彼らをできるだけ手助けしたいと思っています」とノヴァク。

国境近辺で活動するデポール・インターナショナルのスロバキア支部

デポール・インターナショナルは、ウクライナからの避難民が20万人超押し寄せているスロバキア国境付近(キエフから約800km)でも支援活動をしている。スロバキア政府は、避難民は全員、有効なパスポートがなくても入国を認めると発表した。しかし、一気にさばけるはずもなく、国境付近には長蛇の列ができたと語るのは、デポールのスロバキア支部の副所長ユライ・バラットだ。「まともなトイレもなく、子ども連れの人たちは特に気の毒でした。雨が降っていなかったのがせめてもの救いですが、凍えるほどの寒さの中で長時間待たなければなりませんでした。特に初日は、国境まで長距離の移動をした後、10〜12時間待ちでした。順番を抜かされたらと気が気でなく、トイレに行くのも、食べ物をもらいに行くのも心配しながらといったようすでした」

デポールとしては、スロバキア国内のホームレス支援事業から人道支援に切り替えることを求められた。つまり、数日おきに国境を越えてウクライナ国内に行き、支援物資を運ぶということだ。

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ホームレス支援の慈善団体ディポール・インターナショナルはウクライナに支援物資を届ける活動をすすめている。Credit: Depaul International

バラットが率いるチームでは現在、ウクライナからの避難民に「スロバキア版ハウジングファースト」を適用するという長期的ソリューションの取り組みもすすめている。デポールでは、コロナ禍の支援の一環で、住まいを提供するモデル構築に取り組んできたのだ。

しかし、モデルが確立しているフィンランドなど諸外国と比べると、スロバキアの社会システムは「路上生活者の支援体制が整っていない」ため、そのプロセスはむずかしいとバラットは認める。「私たちは社会事業団体であって人道支援を行う団体ではありませんが、今、その変革をすすめているところです」

「コロナ禍では、そもそものホームレス支援事業に全力を挙げられない状況が続きました。ようやくもとの事業にも手をつけられるようになってきたかと思っていたところに、この戦争が始まったのです。戦争開始から数週間が経った今、デポールでは人道支援部門を立ち上げ、人材募集もすすめています」

「デポールのスタッフは創造的で、危険をともなう活動にも積極的です。ホームレス支援にもある程度の危険がともないますが、それが私たちの得意としてきたことです。なので、ウクライナへの物資運搬を担当してくれる人を探すのも、それほどむずかしくありませんでした。行ける人はいるかと聞くと、手を挙げてくれる人たちがいるんです。個人的にもよく知っている人たちです。デポールとして、こういうかたちの支援ができて光栄です」

この戦争があとどれくらい続くのかは分からない。戦争によるはかりしれない惨禍が続く。だが、これまで路上生活者の支援に尽力してきた人たちは、その支援の輪を広げる挑戦をしている。ウクライナは何もあきらめていない。「ウクライナに残っている人、武器を手に闘っている人たちはあきらめたくないのです。すべての人が結束し、母国を守るためにできることに力を尽くしています」とノヴァクは言う。「揺るぎない信念のもと、ホームレスシェルターや支援サービスの運用を続け、安全を守る支援を続けています。そうした人を支える活動がかつてないほど重要性を増しています。万策が尽きるまで、私たちはこの地を去るつもりはありません」

ロメンスカもこう繰り返す。「ウクライナ軍は十分に戦える力を持っており、国防軍はしっかり組織化されています。だから私たちは、ウクライナの独立、民主主義を守り抜き、敵国が侵略をあきらめさせるとの思いを強めています」

支援の方法

・デポール・インターナショナルでは、支援物資はすでに大量に届いているため、ウクライナ支援の活動資金として現在は寄付金のみを受け付けている。
https://int.depaulcharity.org/fundraising-for-depaul-ukraine/

災害緊急委員会への寄付

https://www.dec.org.uk/appeal/ukraine-humanitarian-appeal


By Liam Geraghty

Translation by Sergei Vasin
Courtesy of the International Network of Street Papers / The Big Issue UK bigissue.com @BigIssue








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