羊も草を食む、のどかなキャンプ場
美しい星空が話題のキャンプ場「里山CAMPUS」
南信州・阿智村にある「里山CAMPUS」は、伊那谷と木曽谷をつなぐ標高1100メートルの山間にある自然豊かなキャンプ場。星の観察に適した場所として環境省が認定するなど、満天の星空が話題を呼び、遠方からも多くの人々が訪れる。
満天の星空
そんな自然豊かなキャンプ場で、『ビッグイシュー日本版』が置かれているのはなぜなのだろうか。そもそも、二川さんとビッグイシューとの出合いは?
東京で演劇をしていたが、長野に移住
二川さんは、東京出身。父が所有する笹塚の小劇場を拠点に、アイヌ神謡などの朗読劇やひとり芝居を続けてきた。演劇バトル「E-1グランプリ」で優勝経験もあるという。
東京では、路上の販売者から雑誌『ビッグイシュー日本版』を買う知人が複数おり、自分も気にはなっていたもののどう声をかけたらいいのかわからず、当初はなかなか買えなかったそう。
「新宿など、いろんなところで販売者さんを見かけていたのですが、何度もあきらめては通り過ぎて。でも、買ってる人はカッコイイなという想いもあって。あるとき思い切って買ってみたら平気になって、気になる号があれば買えるようになりました」
そんななか、2011年に東日本大震災が起こったことをきっかけに、お姉さん夫婦が長野へ移住し、パン屋を始めた。
パン屋さんを営むお姉さんご夫妻
またその頃、演劇活動の拠点であった劇場のあるビルの耐震強度が基準に満たず、取り壊しが決まった。それを機に「次の活動の拠点は、東京でなくてもいいのかも」、「地方で生きる糧を持ちつつ、好きなことをやれたら」という思いが湧き、阿智村の地域おこし協力隊として移住を決めた。
「消費」ではない商品を取り扱うことで、日常に変化をもたらしたい
その後村から募集があったこともあり、お姉さん夫婦が「里山生活」という会社を立ち上げ、キャンプ場運営にかかわっていく。
「地方と都市をつなげていけたら」という想いを込め、キャンプ場直営の売店には、自家製酵母・信州産小麦・地元の名水で作られたパン、キャンプでも使える自然食品、地域の工芸品などが並ぶ。
自家製酵母と信州産小麦、地元の名水で作られたパン
「自然を求めてキャンプ場に来て、どこでも買えるモノを“消費”して帰っていくというのはどうなのかな、と他のスタッフとも話していて。“何かを壊すもの”ではなく、“自然にやさしく、持続可能なもの”を置きたいと思っています。ここに置いてあるものをきっかけに日常生活も少しずつ変わってもらえたらいいなと思っているんです」
そんな願いを持って運営していたところ、自然食品などの卸し会社「がいあプロジェクト」を通して、『ビッグイシュー日本版』の委託制度を知る。
「お店でも販売できるんだということを知って、すぐに検討をしたんですね。ビッグイシューについて気にはなっているけれど、(以前の自分のように)なかなか販売者さんから買えず、雑誌を手に取ったことのない方にも、私たちのお店でビッグイシューに触れることで、街に戻った時に販売者さんから買いやすくなったらなぁという思いもありました」
ほどなくして、「里山CAMPUS」の店内に『ビッグイシュー日本版』が登場するようになった。
『ビッグイシュー日本版』も販売されている店内
「ここで委託販売を開始したのが、ちょうどソロキャンプの号(390号)だったので、『おお、キャンプ特集だね』と言って手に取ってくださるお客さんもいました。だるまちゃんの号(412号)も人気でしたね」
「私の周りには、ホームレスの人たちのために炊き出しのボランティアをやっている人たちもいたんですが、“すごいなあ”と見ているだけでした。でも自分がほしいと思う雑誌を買うだけで、自分もそのような活動に“ちょこっと参加”できるというのは、楽になったというかホッとしたという面もあるんです。このお店も、そういうきっかけの場になっていたらいいなと思います」
委託販売に携わってから、『ビッグイシュー日本版』をきっかけにお客さんと話をする機会が増えた。興味を持つ人は、アンテナを張っている人たちが多いと感じるそう。
「誌面でも環境について特集が組まれていたりしますし、キャンプにやってくる人たちとの興味とも合っているんです。誌面の内容が入口となって、興味を惹かれたことについて自分で学びを深めていけるんですよね」
「半里山生活・半演劇生活」を続けていけたら
そう語る二川さんは、今も演劇の活動にも携わっている。「私自身は一人芝居で『劇団ムカシ玩具(おもちゃ)』として活動しています。年に数回、お招きいただいてアイヌの人たちの物語とか、震災で残された動物たちの物語などを上演するツアーを行っています。ライフワークですね」
二川舞香さん
「もともと東京で劇場をしている時も、地方から来ている仲間たちが“演劇では食べられない”といって、夢を諦めて地方に戻っていく姿をずっと見てきたんですね。それで、地方でも活動ができたらいいんじゃないかなというのはいつも心にありました。“半農半X”*じゃないですけど、まさに半里山生活・半演劇生活というか、そういう生き方もいいんじゃないかと。キャンプ場、店をしながら自分たちのしたいこともやる。東京で無理だからといって、ぶっつりすべてが切れちゃうんじゃなくて、継続してやっていけたらいいなと思っているんです」
*『半農半Xという生き方』の著者・塩見直紀氏が提唱する“自分や家族が食べる分の食料は小さな自給農でまかない、残りの時間は「X」、つまり自分のやりたいこと(ミッション)に費やす”というライフスタイル。
(文章:八鍬加容子、写真提供:里山CAMPUS)
ビッグイシューの委託販売制度について
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/