ビッグイシューが買える宮崎県のオーガニックカフェ「E Village」。地域の旬の食材で作られたランチから、環境問題・フェアトレードに想いを馳せる

通常はホームレスの人たちが路上販売している雑誌『ビッグイシュー日本版』だが、ショップやカフェなど人の集まる場所であれば、ホームレスの人でなくともビッグイシューを販売できる「委託販売制度」がある。

宮崎県で唯一この制度を利用して販売しているのが、オーガニックカフェ「E Village」だ。店主の菊池香寿美さんに、店に込めた想いや委託販売の様子についてお話を伺った。 

産業廃棄物処理施設の建設をめぐる議論が、お店を開く原点

宮崎県小林市にあるオーガニックカフェ「E Village」に一歩足を踏み入れると、まるで百貨店のように整然と、想いを込められた商品たちがレイアウトされている。霧島連山の麓で採れる、無農薬・農薬不使用の薬草各種。天然酵母パンに、地元宮崎の大麦粉ーー。
衣料品・雑貨コーナーを覗くと、インドのリサイクルサリーで作った色とりどりのバッグにオーガニックコットンで丁寧につくられた洋服たち、優しい色合いのみつろうキャンドルも顔を覗かせる。

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百貨店のような店内

店主の菊池香寿美さんが「E Village」を開店したのは2008年のこと。その原点は20数年前の産業廃棄物処理施設の建設をめぐる議論だったという。地域の人々は賛成派と反対派が分かれ、住民投票が行われることに。
結果は反対派が過半数を占めたものの、“こういった施設は人間がゴミを出す生活をする限り、どこかには作らなければならない”とされ、住民投票には法的な拘束力がないなどの理由から施設は建設された。

「それまで環境問題について何も知らずに生きてきたので、『これは大変な問題だ!』とそこで初めて気づいたんですよね。そこから、足元から暮らしを見直してみたいと、ゴミを出さない暮らしについて考えていろいろ実践を始めました。これが面白かったんですが、実際にはビニールに入っていない野菜のばら売りはなく、“ごみを買いたくなければ自分で作るしかない”と母に教わりながら畑を始めました。自分で作れば無農薬ででき、子どもたちには自然で安心な野菜を食べさせたいなという気持ちがふくらみ、食への関心がわいていきました」

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店主の菊池香寿美さん

ランチの主役は、完全無農薬・無化学肥料の旬野菜

そんなある日のこと。家業で営んでいる鯉料理のお店の縁から、ある空き店舗を紹介してもらった。調理師学校に通っていた経験や、家族の農業の経験などから、この空き店舗の紹介をきっかけに、環境や食について見直せるお店をできないかという思いが後押しされ、「E Village」が誕生。

カフェで提供されるのは、自家栽培を中心に、地元農家さんから届く完全無農薬・無化学肥料の旬野菜が主役のランチ。化学調味料や冷凍食品は一切使わず、ひとつひとつがすべて手作りで、塩、醤油、味噌のシンプルな調味料だけで旬の野菜を味わってもらう。

「地元以外からは仕入れていないので、今収穫できるものでしか作れないんですよ」と笑う菊池さん。でも、「小麦や菜種も植えているので、自給率は高いですよ」と語る自慢の逸品だ。

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自給率の高いランチBOX
(返却容器は550円、紙BOXは600円・・・目標はすべて返却容器又は持参容器で販売することという)

レンタルスペースでは映画の上映会や講演会なども行なっている。

「先日は、ずっと環境問題に取り組まれてきた80代の山田征さんという方をお招きして講演会をしました。元京都大学原子炉実験所助教で評論家の小出裕章さんにも来ていただいたことがあります」と語る。

『ビッグイシュー日本版』のことは以前から知ってはいたが、宮崎では販売拠点がないので、東京などに出かけた際に買い求めていた。だが委託販売制度ができたことを知り、「ぜひ!」と申し込んだという。

これまでお客さんからの反応が高かったのはオードリー・ヘプバーン(430号)や又吉直樹さん(431号)が表紙の号。「私自身は、437号の特集『プラスチックフリーな生き方へ』が興味深かったですね。お客さんにもぜひ中身を読んでほしいなぁと思って、カフェが満席の時にそっとお出しして読んでいただいたりしています」

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ビッグイシューの意義も手書きポップで記されている

週末には九州一円からお客様が

お店を開く原点となった環境問題への関心は今も持ち続けている。「企業や行政に働きかける大掛かりな運動ではありませんが、エコラップの普及やプラスチックフリーな暮らしの提案など自分たちでできることをしています。一人一人の意識が変わるには時間がかかりますが、法律でレジ袋有料化が決まれば多くの人がマイバッグを持つようになったように、今必要なのは“土に返らないプラスチックや有害物質の廃出を抑制する法律”です。小さな声ですが言い続けたいと思います。

「お店をオープンしたことで、いろんな人が来てくださるようになったことはありがたかったですね。ランチを食べに来てくださって、玄米や有機野菜を食べることで食の見直しにつながったり。そこから、店内にあるフェアトレード商品なども見ていただいて、興味関心が広がっていけばいいなと思っているんです」

週末には宮崎市内だけではなく、熊本や鹿児島からもお客さんが訪ねて来てくださるという。「こんなに同じような志を持つ人がいるんだということを知ることができたのは、何よりの喜びでしたね」
丹念につくられた料理をきっかけに、今日もまたオーガニックカフェ「E Village」では人の輪が広がっている。

(文章:八鍬加容子、写真提供:E Village)


オーガニックカフェ E village
〒 886-0008
宮崎県小林市本町19
TEL: 0984-24-0425
https://www.cafe-evillage.info/


ビッグイシューの委託販売制度について
  https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/