巨匠アラン・メンケン、実写版『リトル・マーメイド』の音楽制作を語る

アラン・メンケンという名前を聞いてピンとくるだろうか。長く子どもたちに愛される映画サントラを数多く生み出した男だ。1980年代以降、『美女と野獣』『アラジン』『リトルマーメイド』などディズニー音楽をいくつも担当し、エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞すべてを獲得するなど、銀幕の裏で輝かしい功績を挙げてきた。そんな彼の“マジック”がまたもや、ディズニー最新作で発揮されている。


地上世界に憧れる人魚姫が主人公の1989年の大ヒット映画『リトル・マーメイド』に、21世紀風のアレンジをほどこし、実写版としてリメイクされた。2008年のブロードウェイ・ミュージカルなど、『リトル・マーメイド』は何度かアレンジ作品が制作されてきたが、今回のリメイクを「感情が揺さぶられる経験」とメンケンは表現する。

キャストには、人魚姫アリエル役にハリー・リン・ベイリー、海の魔女アースラ役にメリッサ・マッカーシー、アリエルのお目付役カニのセバスチャンの声優にダヴィード・ディグスなど。「実写版の最初のバージョンを見て、『パート・オブ・ユア・ワールド』が流れたとき、ただただ我を忘れてうっとりしました」と、ニューヨークのスタジオから取材に応じたメンケンは言う。

「いつも彼のことを思い出しますね」とは、当時の共同制作者で1991年に他界した作詞家ハワード・アッシュマン*1 のことだ。「ハワードは、自分たちがやろうとしていることを、音色面でも曲の構造面でも見事に解決してくれる本物の天才だった。『リトル・マーメイド』は見てもらえたけど、『美女と野獣』や『アラジン』の完成版を見届けることなく、この世を去ってしまった」と、共に作業に励んだ若手時代を懐かしむ。


*1 アラン・メンケンとともにディズニー映画の黄金期を支えた作詞家、プロデューサー。41歳で他界。

アッシュマンと一緒に手がけた最初の作品は、1982年にオフ・ブロードウェイで上演されたホラーコメディ『リトルショップ・オブ・ホラーズ』だ。そして二人にとって最初のディズニー作品となる『リトルマーメイド』では、「アンダー・ザ・シー」でアカデミー賞歌曲賞を受賞。「信じられないくらい強烈で、ワクワクする、驚異的な作業だった」と振り返る。

実写版制作について、「私は(旧作の)精神の継承者として舞い戻ってきましたが、その一方で、新しいメンバーと組み、監督の構想に合うようオリジナル曲をアップデートできて幸せでした」と語る。ロブ・マーシャル監督の構想には、オリジナル楽曲「パート・オブ・ユア・ワールド」「キス・ザ・ガール」「アンダー・ザ・シー」の刷新とともに、新しく3つの楽曲制作が含まれていた。

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実写版『リトル・マーメイド』でアリエル役を演じたハリー・リン・ベイリー。
Photo courtesy of Disney. © 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

今回メンケンがタッグを組んだのは、リン・マニュエル・ミランダだ。ブロードウェイ・ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』『ハミルトン』の制作・出演、ディズニー映画『モアナと伝説の海』や『ミラベルと魔法だらけの家』の楽曲制作で大活躍中の作曲家だ。「それぞれのスタイルの愉快な融合により、互いのミュージカルの知識や感性が一体感をもたらした」と言う。

新曲には、アリエルが恋心を抱くエリック(ジョナ・ハウアー=キング)が歌うバラード「まだ見ぬ世界へ」、アリエルが地上に上がったときに初めて味わう気持ちを歌った「何もかも初めて」、ふたりの得意分野がいろんな度合いで発揮されている。カモメのスカットル(声優はオークワフィナ)とセバスチャンが、王子が誰と結婚すべきかについてやりとりするシーンで流れる「スカットル・スクープ!!」では、メンケンが曲を提供し、ミランダがラップをつけた。「本当に素晴らしい時間でした」とメンケン。

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作曲家アラン・メンケン、実写版『リトル・マーメイド』の曲付けの現場にて。
Photo by Giles Keyte. © 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

今回のタッグには大きな意義がある。というのも、メンケンは姪と同じ小学校に通っていたミランダ少年のことを記憶していたのだ。「リン・マニュエル・ミランダという男の子の話をよく聞いていたし、彼が持っていたポスターにサインしたこともある。そもそも忘れにくい名前だしね」とにやりと笑う。「あれから長い年月が経ち、世界を揺るがす音楽家が登場した。実写版に驚くほどのエネルギーを注ぎこんでくれた彼だけど、私にとっては、あの頃のかわいい少年のままだよ」

「マーシャル監督は映画芸術に大きな影響力を持っている。リメイク作品を作るうえで、音楽家である私たちのスキルを存分に活用する。過去の作品のクオリティに自信を持ちつつ、助言を喜んで受け入れる、そうすることでまた新たな作品が生まれるんです」。この活力こそマーシャル監督の肝であり、メンケンが「いまの時代の精神」と呼ぶものを反映した作品にもなった。ジェンダーや同意をめぐる昨今の問題意識を踏まえ、「キス・ザ・ガール」「哀れな人々」の歌詞もアップデートした。

73歳を迎えたメンケンだが、『魔法にかけられて2』(2007年公開の『魔法にかけられて』の続編)や『ヘラクレス』(1997年公開のディズニーアニメのミュージカル版)のリメイクにも取り組んできた。『ヘラクレス』はニュージャージーでのプレビュー公演(2023年2〜3月)を経て、ブロードウェイで上演される予定だ。

アニメから舞台、映画まで、時代を超えた名作を生み出してきた音楽家メンケン。輝かしい実績を振り返り、「私の作品の多くが “第二の人生”にめぐまれた。それがディスニー作品に関われることの醍醐味です」と笑う。「ディズニーが過去作品の新バージョンを作りたいと考えたなら、『やろうと思っているんです』なんて控えめなトーンではなく、『さあ、やるぞ!』となりますからね」

By Debbie Zhou
Courtesy of The Big Issue Australia / International Network of Street Papers

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『ビッグイシュ―日本版』457号にリン=マニュエル・ミランダのインタビュー記事
https://www.bigissue.jp/backnumber/457/








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