「体験して、販売者の気持ちや実情を理解したかった。彼らの物語を伝え、社会の関心を引き、行動を促せたらー」

6月21日は英国ウィリアム皇太子の誕生日。2022年6月に雑誌『ビッグイシュー』に寄稿したエッセイを紹介しよう。


母に連れられてホームレスシェルターを初めて訪れたのは、11歳の時でした。母は、彼女ならではの方法で、世間から見過ごされ、正しく理解されていない問題に光を当てようとしていました。我が国の首都ロンドンで『ビッグイシュー』が創刊されたのは、その2年前です。同誌は、増える路上生活者に対し、ある解決策を提案しました。自ら雑誌を売ることで、彼らが合法的な収入を得られるようにしたのです。

あれから三十数年。この分野で数え切れないほどのチャリティ団体が立ち上がり、飛躍的に成長する姿を目の当たりにしてきました。私自身、いくつかの団体を後援する栄誉に浴しています。この期間、英国中でさまざまな取り組みがなされてきました。大きな効果を発揮したものもあれば、うまく機能しなかったものもあります。この中で群を抜く知名度を誇り、明らかな成果を上げているのがビッグイシューです。そのソーシャルビジネスモデルにより、のべ10万5000人の販売者が1億4400万ポンド(約235億円)を超える売り上げを得て、自活する手段を手にしました。

このような経緯を見ると、ホームレス問題はいくつもの課題をクリアしてここまで前進してきたことがわかります。しかし「この問題は根深く、対策は限られている」という意見は今でも少なくありません。また、物価高の影響で暮らしが圧迫され、ホームレス問題を取り巻く状況に陰りが見られることも気がかりです。

すべての決着を一度につけることはできませんが、ホームレス問題はどうすることもできない現実ではなく、解決できる問題です。ただし、それには継続的な取り組みと包括的な支援のネットワークが必要です。

ありがたいことに、才能と思いやりにあふれた有志が、不安定な状況の人々を粘り強く支援し、必要に応じたチャンスを提供してくださっています。また、英国中の人々が、日々の生活の合間にビッグイシューを買ったり路上で暮らす人に寄付をしたりと、小さな親切を実践してくださっています。

私はビッグイシュー販売者の立場を体験して、その気持ちや実情を理解したいと思いました。そして、本当に目から鱗が落ちるような経験になりました。運の良いことに、デイブと私が同誌を販売したのは、6月の晴れた暖かい日。街の人々はおなじみのこの顔に気づき、それぞれの時間を割いて声をかけてくれました。しかし、ビッグイシュー販売者のほとんどは、寒い冬を含め、年間を通して働き続けます。また、行き交う人々は見向きもしないことがほとんどです。

明るくひょうきんでありながら働き者のデイブは、誰もが積極的に励ましたり支援したくなるような人物です。ところが、路上では素気なく無視されることも少なくありません。ビッグイシューの販売は、デイブたち販売者が自立・自活できるような、そしてデイブによると、自尊心を取り戻せるようなシステムです。ただし、これには私たちみんなの協力も必要です。システムをうまく活用するためには、周りが販売者の存在に気づき、見過ごさず、支援しなければなりません。

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今これを読んでいるあなたは、デイブのような販売者に会い、この雑誌を買うこと、つまり支援することを選んでくださったわけです。そのような小さな親切を行うことで、変化が生まれます。どうかその親切を続けてください。同じような親切をするように、身近な方々にも伝えてください。みなさんが(ビッグイシュー販売者のユニフォームである)赤いベストや、支援を乞うメッセージを書いた紙、小銭すら入っていないカップを持つ人に気づいてくださるよう願っています。

私の役目は、あらゆる社会的立場の人々に会い、さまざまな人生の物語を知ること。非常に恵まれた立場であり、光栄だと感じています。誰もがこのような機会を得られるわけではありません。

また、私ではホームレス問題を主張するのにふさわしくないと思われるかもしれませんが、彼らの物語を広く伝え、社会の関心を引きつけ、行動を促すために、この立場を使うべきだと考えています。40歳という年齢を迎え、より一層こうした活動に励みたい。解決できるこの問題に光を当てるため、これからもできるかぎりのことをしていくつもりです。

 何年か経てば、母が私にそうしてくれたように、(長男の)ジョージ、(長女の)シャーロット、(次男の)ルイを注目すべき支援団体に連れていきたいと思います。問題を解決するためには、まず実情を知ること。これこそが、母が本能的に悟っていたことであり、私がいつも大切にしていることだからです。(Prince William/INSP/The Big Issue UK)

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