中国では過去最高気温を記録(2023年7月に52度)し、米国の広範囲で高温に関する警告・注意報が、ヨーロッパでも「ケルベロス高気圧」や、とりわけ南欧エリアには「カロン高気圧」が大きな脅威をもたらしている。欧州の保健機関が先週発表した推計によると、欧州では、2022年に発生した一連の熱波により6万人以上が熱中症で亡くなり、とくに死亡率が高かったのはイタリア、ギリシャ、スペインだった。
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世界に広がる致死的な熱波
ビーチや川遊びに繰り出すなど、たくさんの人が楽しみにしている暑い夏。だがその暑さが、今や命を脅かすレベルになっているのだ。「多くの人が熱波への備えができていない」と科学者たちは指摘する。米国航空宇宙局(NASA)によれば、この40年で猛暑による負担が倍増しているという。とくに湿度の高い地域では、熱と湿度が組み合わさると湿球温度*1 が35°C以上になり、人間の体は熱を取り除けなくなる。つまり、世界中で頻繁に起きている激しい熱波の際に、エアコンや扇風機などの冷房器具をすぐに利用できない人は、命を落としうる。
* 1 温度計の球部を湿った布で包んで測定した温度で、汗が蒸発する際に感じる涼しさの度合いを表す。
インドからイランにかけてのような、これまでも暑かった地域の住民はとくに危険な状態にさらされている。その一方で、米国の太平洋岸北西部のように涼しいとされてきた場所に暮らす人々も、熱波の危険性を十分に理解していない、または冷房機器を準備できていないなどのリスクがある。実際、2021年の激しい熱波では、ワシントン州だけで112人が、カナダを含む広範地域で1400人が命を落とした。
海面温度上昇により限界に達しつつある熱の吸収能力
温室効果ガスの継続的な放出に新たなエルニーニョ現象が組み合わさることで、「今後数年間で地球上の気温が未知の領域まで押し上げられるだろう」と科学者たちは予測する。世界気象機関(WMO)のペッテリ・ターラス事務局長も7月下旬、「温暖化にともなって頻発している異常気象が、人々の健康や生態系、経済、農業、エネルギーや水の供給に大きな影響を与えている」と述べた。
地球規模で起きている猛暑、その主因は気候変動にある。洪水から暴風雨、干ばつに至るまで、気候変動は世界各地にさまざまな異常気象を引き起こし、なかでも顕著なのが猛暑である。2023年4月、インド、バングラデシュ、ラオス、タイは記録的な熱波に見舞われたが、「その発生率は気候変動によって30倍になっている」と、世界気象分析(World Weather Attribution)グループの科学者は述べる。
家庭、車、世界経済を動かすために石油や石炭、天然ガスを使い続ければ、放出された温室効果ガスが地球を覆い尽くし、太陽エネルギーが大気中に閉じ込められる。これまでは、閉じ込められたエネルギー(熱)の約90%は海に吸収されて気温上昇を抑えてきたが、その海面温度も観測史上最も高いレベルに達している。そのため熱の吸収能力が限界に達しつつあり、大気中にこもる熱がますます増え、さらに気温を押し上げる可能性がある。
猛暑が山火事などほかの自然災害を引き起こす
石油、石炭、天然ガスの消費が続き、熱波が激しさを増し続ければ、酷暑で人が住めなくなる地域も出てくるだろう。そうなれば大勢の人が移住せざるをえなくなり、暑さから逃れ切れない大勢の人が命を落としてしまう。
また猛暑は、水不足、深刻な干ばつ、山火事、自然破壊など、ほかのかたちの災害にも拍車をかける。農業者など屋外で働く人々にとっては、ますます過酷な労働環境となるため、経済にも打撃を与えるだろうし、農作物の不作が、世界的に増え続ける飢餓に、さらに追い打ちをかけるだろう。
熱波に名前、授業時間のシフトなどの対策を
いま大切なのは、熱波が命にかかわるレベルになっているとの認識を高めることだ、と医師や科学者たちは口を揃える。ハリケーンや台風などで実施されているように熱波にも名前をつけて、脅威の大きさを人々に伝えるべきと提案する研究者もいる。
勤務時間や学校の授業時間を涼しい時間帯にシフトする、労働者が十分な休憩時間を確保することも、命を救うことになる。自宅や職場を涼しく保つため、建物の屋根を白く塗り替えるなど、簡単かつ低コストな対策も考えられるだろう。
また、人々が簡単に冷房を利用できるようにすべきだが、エアコンの電力使用量は大きい。二酸化炭素排出量の多い発電を使い続けると、さらに気温を押し上げうる。風力発電や太陽光発電など二酸化炭素排出量の少ない発電方法を取り入れるとともに、消費電力の少ない冷房手段を見つけ出す対策も求められている。
By Laurie Goering and Jack Graham
This article first appeared on Context, powered by the Thomson Reuters Foundation. Courtesy of the International Network of Street Papers.
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