政府の原子力政策の検討の場である原子力小委員会が6月25日に開催された。私も22人いる委員の1人として参加した。テーマは原子力政策の現状と核燃料サイクルの確立に向けた取り組みだった。
(この記事2024年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 484号からの転載です)
建設中のまま経年劣化が進む
青森・六ヶ所再処理工場
核燃料サイクルとは何か。原発を運転すると使用済み核燃料が出てくる。これに含まれるプルトニウムとウランをその他の放射性廃棄物と分離して(再処理)、燃料として再び利用するというものだ。さらに高速増殖炉という特殊な原子炉が開発できれば、燃料としてプルトニウムを使いながら、プルトニウムを増やすことも可能になる。日本はまだ1基の原発もなかった1956年の時点で、核燃料サイクルの確立を目指す方針を示していた。以来70年近く、巨額の費用と時間を投じて、その「夢」を追い続けてきた。だが、高速増殖炉の開発は頓挫し、1993年の着工から30年以上たつ六ヶ所再処理工場(青森県)もいまだ建設中のままだ。
6月の原子力小委員会では経済産業省から六ヶ所再処理工場の運転延長の可能性について説明があった。従来40年とされてきた運転期間の延長を視野に入れているようだ。六ヶ所再処理工場は着工から26回の完成延期を繰り返しながら運転できず、一部では設備の経年劣化すら始まっている。あまりにも現実離れした話に唖然とする。
米国は日本の核武装を懸念
日本は核兵器の縮小に反対
六ヶ所再処理工場で分離されるプルトニウムは核兵器にも転用ができる。そのため、この施設は国際原子力機関(IAEA)の監視のもとに置かれている。それでも諸外国は日本が核兵器を開発するのではないかという懸念を持っている。その代表格は米国だ。たとえば2016年、当時のオバマ政権は核兵器の役割の低減を検討していた。核兵器で攻撃を受けた場合のみ核兵器を使う、というものだ。その際、ケリー国務長官らは、米国の核抑止力に不安をもった場合、米国の核の傘の下にいる日本が核武装する可能性を示唆したと報じられた。日本政府はこの核兵器の役割低減に反対していた。
日本側も米国の懸念を認識し、利用すらしている。外務省北米局長や国連大使などを歴任し、安全保障や軍備管理などの交渉に長年携わってきた佐藤行雄氏は著書『差し掛けられた傘』(2017年、時事通信社)で「日本の核武装の可能性についての外国の懸念は払拭し切れるものではない。また、米国については若干の懸念が残っていることも悪いことではないとすら、個人的には考えている。米国が日本に核の傘を提供する大きな動機が日本の核武装を防ぐことにあると考えるからだ」と記している。つまり、米国側に日本の核兵器開発懸念を持たせることで、米国の核政策に影響力を及ぼし得る、という見方だ。
外務省は「唯一の戦争被爆国として、『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会による核軍縮・不拡散の議論を主導」していると言う。だが、実際は核兵器の役割縮小にすら反対して米国に働きかけている。そして、米国側が日本の核武装を懸念する背景には日本の核燃料サイクル政策がある。
来年で被爆から80年を迎える。核をめぐる緊張が高まる中、核兵器を持たない日本が核兵器廃絶に何ができるのか、真剣に考える必要がある。私たちは政府(外務省)が描く自画像とはまったく違う日本の現実の姿を直視しなければならない。そうしなければ核兵器廃絶という夢の実現は遠のくばかりだ。
松久保 肇(まつくぼ・はじめ)
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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