フェイク情報に騙されない教育とは:高校生の98%がネットで真偽を見誤る/米研究結果より

 インターネットの世界は、どこに危険が潜んでいるかわからない。スタンフォード大学の応用心理学者で、ウェブ情報の真偽の判断について研究しているサム・ワインバーグが『The Conversations』に寄稿した記事を紹介しよう。

情報過多で注意力散漫になる

ウェブサイトに執筆者名が書かれていても、本当にその人が書いたとは限らない。記事の正当性を裏付ける参照リンクが付いていても、実は記事の主張とあまり関係ない内容かもしれない。「.orgドメイン」のようなアドレスが使われていても、必ずしも正規の非営利団体ではないかもしれない*1。

*1 この筆者は別記事で、年間利用料だけ払えば誰でも.orgドメインが使用可であることを指摘している。参照:Opinion: Websites Can Trick People? Really?

分野の異なるいくつもの博士号保有者でもない限り、真偽が判別しづらいサイトにたどり着いたら、「無視する」のが賢明だ。しかし、「情報を無視する」ことは、学校では教えていない。学校で教えるのはその逆、文章を最初から最後までしっかり読んでから判断を下すことで、でないと“そそっかしい人”と見なされる。

しかし、広告主、ロビイスト、陰謀論者、外国政府の策略が渦巻いているインターネットの世界では、事情が違う。学校で教わったやり方をしていては、とても身が持たない。ウェブの世界では、批判的思考(クリティカルシンキング)と同じくらい重要なのが、批判的な「無視力」なのだ。

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ウェブ上の情報を批判的に見ることを学ぶ必要がある。
Os Tartarouchos/Moment/Getty Images

スマホを手にした人間の注意力は、絶え間なく届く通知メッセージによって次々と移りゆく。こうした情報過剰は「注意力不足」をもたらす。1978年にノーベル経済学賞を受賞した故ハーバート・サイモンも、「膨大な情報の中で、注意力を効率的に配分する」方法を学ぶ必要がある、と指摘した。膨大な情報に「注意力切れ」が起き、集中するのが難しくなるのだ。現代を生きる私たちは、「情報」と「注意」の闘いに直面している。

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膨大な情報が注意力や集中力にダメージを与えかねない
bestdesigns/iStock/Getty Images Plus

ウェブサイトの真偽を別サイトで「ファクトチェック」

人はインターネット上の情報の真偽性をどのように判断しているのか、が筆者の研究テーマだ。スタンフォード大学の研究チームではこの度、米国の高校生3,446人を対象に、「ウェブ情報の評価能力」について調査を行った*2。気候変動について“事実に基づく情報を広める”と言明しているあるウェブサイトを見せ、信頼できるかどうかを判断してもらったのだ。必要であれば自由にネット検索してもよいとした。

*2 調査:Students’ Civic Online Reasoning: A National Portrait

生徒に見せたサイト:CO2 Science

すると生徒のほとんどは、指定ウェブサイトだけを開き、学校で教わったとおりのこと、つまり、サイトに書かれていることを隅から隅まで読んだ。「当サイトについて(About)」のページを開き、専門的な内容の報告書をクリックし、グラフや表をじっくり見入った。アカデミックな研究結果が巧妙に駆使されたそのサイトは、気候科学の修士号でも持っていないかぎり、なかなか説得力のあるものに見えただろう。

このウェブサイトが化石燃料業界とつながりのある虚偽サイトであることに気づいたのは、生徒のほんの一部(2%以下)だった。偽物と気付いた生徒たちは、まずウェブサイトの真偽性を確かめるため、いったん対象のウェブサイトを離れて、他のウェブサイトの情報群と照らし合わせた。だから、正しい判断ができたのだ。

サイト制作者として記載されていた非営利団体名を別サイトで検索した生徒は、こう書いた。「気候変動について意図的に人々を欺こうとしている大企業とつながりがあるサイトだと分かった」「『USAトゥデイ』の記事によると、気候変動に関する誤った情報を流布するこの非営利団体に協賛しているのは石油企業Xである」

サイトの内容やそれっぽい表現に騙されることもなく、いったんそのサイトから離れて、サイトの真偽性を評価する。この生徒がしたことは、まさにファクトチェックのプロと同じやり方だ。

ファクトチェックの専門家は、“横読み(lateral reading)”と呼ばれる方法を用いる。サイトの横に新しいウィンドウを開き、そのサイトの運営者についての情報を調べてからサイトを読み始める。まずは、そのページは読む価値があるかどうかを判断するのだ。価値があると判断できてから参考情報として読み込んでいく、そのことをプロは心得ている。

ウェブサイトの「見た目」に騙されないために

インターネットの世界に批判的思考を持って臨む大切さを学生に教える必要があり、それは可能だ。筆者が関わったノーステキサス大学の栄養学オンラインコースでは、コース開始当初、学生たちはサイトの“外観”、定評ある情報源へのリンク、科学的な研究報告書への言及、膨大な情報量などの“仕掛け”に、まんまと騙された。ウェブサイトをいったん離れて他のサイトで真偽を確かめる検索をした学生は87人中たった3人だった。

しかし授業の中で、“真偽がはっきりしない”サイトにとどまる危険性、そのサイトの真偽を判断する方法を解説した短いインストラクション動画を制作し、解説したところ、コース終了時にはクラスの4分の3が、他のサイトで検索して真偽を確かめる手法を取るようになった。これと同様の手法を教えている他の研究者たちも、同じく希望の持てる結果を得ている*3。

*3 参照:Improving college students’ fact-checking strategies through lateral reading instruction in a general education civics course(2021)

あやしい情報に騙されないためには、自分たちの無防備さを認め、謙虚であることが必要となる。すばらしい知性と批判的思考のスキルを持ってしても、現代のインターネット詐欺師による巧妙な策略から逃れられる者はいない。

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ウェブ上の情報を鵜呑みにしないスキルが大切
MoMo Productions/DigitalVision/Getty Images

真偽が不確かなサイトを基に考察を深め、自分は賢くやっているなどと思っていても、それではサイト製作者の思うつぼだ。インターネットの素晴らしい力を活用し、サイトの真偽性を確認することに少しの時間を割けば、相手の策略にはまることなく、何より大切な手段となる「注意力」を取り戻すことができる。


著者

Sam Wineburg
Professor of Education and (by courtesy) History, Stanford University

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年5月14日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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