(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)




長い生命力をキープする二つの循環




13p


石油製品に替わってすべての製品の材料になれる植物、その秘密は何でしょうか? 

人間も含めて、すべての生命体(有機体)はCO2からできあがっています。この有機体が生命を持ち、個体としての姿を現わし消えるまでの長さを比べてみましょう。

草の場合は発芽して成長して枯れるまで約1年。人間の場合は生まれてから85年で、だいたい寿命が尽きます。ところで、樹木に寿命はあるのでしょうか? 屋久杉のように7千年も生きる樹木がありますね。樹木にも寿命はあるのですが、数百年も生きるうえ、地中で百年から千年単位の時間をかけて解体されていくという、人間の一生をはるかにこえる長い循環サイクルを持っています。

循環サイクルの視点から、物を燃やすことを考えてみましょう。草は仮に燃やしても、CO2に戻るまでの1年の循環サイクルをそんなに縮めることにはなりません。ところが、樹木を燃やせば、その数百年の循環サイクルを途中で断ち切って、一気にCO2に戻してしまうことになります。樹木がCO2を固体(樹木)化している時間や土壌中に滞在している時間を極端に短くしてしまい、気体で存在するCO2を増やしています。

樹木はずっと同じ場所に立ち続け、枝を茂らせ幹を太らせていきます。どのように栄養分を吸収しているのでしょうか?

彼らは、二つの循環を持っています。

樹木が生きていくのに必要な栄養分は、土壌の中のマグネシウム、リン、カリ、窒素など。水に溶けたこれらの養分は根元から吸い上げられて、生命を営む細胞の要素となります。


13p 小循環

動けない樹木は自分の立っている場所で、じっとしたままで持続的に栄養分を取れないと生きていけません。そこで、落葉樹は秋に、常緑樹は常に、土壌から吸い上げた栄養素を葉っぱに移動させ、地上に落とすのです。土壌の中で落葉は微生物によって分解され、樹木はこれを再び栄養分として吸い上げます(小循環)。

落ち葉は樹木にとって身体の一部で、栄養源となるご飯のようなもの。ごみではありません。


スクリーンショット 2012 10 22 10 21 13

もう一つは、樹木の中心部(幹)をめぐる循環(大循環)です。樹木を輪切りにしてみると、樹木の樹皮の内側に0.3㎜ほどの幅の形成層と呼ばれるところがあります。この形成層の内側と外側の両方で、新しい細胞が生み出されてきます。実はこの内側の細胞は数ヶ月で死んでしまって、樹木の幹(心材と辺材)に蓄積されていきます。こうして樹木の幹は歳月とともに太っていくのです。しかも、この幹の部分は、空気中のCO2と地下から吸い上げる水から「光合成」によってつくられたもの。炭素と水素と酸素が99%を占めています。

だから、樹木の幹を山から切り出しても、森林の土壌を持ち出したことにはなりません。しかし、山から切り出す以上、植物に依拠して地球に生きる人間は、その樹木の循環サイクルの長さに匹敵する時間、切り出した樹木を使うことをルールにしたい。それができれば、持続的な循環ループが回復できるのです。




第3幕へ




イラスト:トム・ワトソン