タイムトラベル、記憶除去の施術、カウントダウン——時間を旅する映画たち



『バック・トゥ・ザ・フューチャー』






世界で一番有名なタイム・トラベラーといえば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の高校生、マーティ(マイケル・J・フォックス)だろう。

ブラウン博士が愛車デロリアンを改造してつくったタイムマシンに乗って、30年前の世界に来てしまった。博士を訪ね「君が作ったタイムマシンで1985年から来た」と言っても、なかなか信じてもらえない。「1985年の大統領は誰だ」に「ロナルド・レーガン」と答えると、「あの俳優が?」とますます疑われてしまう始末。ばったり出会った母親は、まだ10代。マーティに一目惚れし、猛烈アタックを繰り返す。父親になるはずのジョージに惚れてもらわないと、自分が生まれない! 

「量子論的な揺らぎが作り出した時空のゆがみを何かの方法で拡大させることができれば」(理論物理学者ソーン)、「2本の宇宙ひもが光速に近い速さで反対に動いている時に、その周りを1周すれば」(物理学者ゴット)、その可能性があるといわれるタイムトラベル。とはいうものの、時間は1本の糸のようなもの。過去をいじれば、当然現在も変わってくるというタイムパラドックスがそこに横たわる。



『エターナル・サンシャイン』





一方、つらい今を経験するくらいなら、いっそ過去を全部消してしまったらいい、というのは『エターナル・サンシャイン』のクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)とジョエル(ジム・キャリー)。ある日、ジョエルは1通の手紙を受け取る。「クレメンタインはジョエルの記憶をすべて消し去りました。今後、彼女の過去について絶対触れないようにお願いします。ラクーナ社」。別れた恋人が、自分との記憶を消したというのだ。それなら自分も、とジョエルもラクーナ社を訪れる。

睡眠薬を飲み、記憶除去の施術を受ける。まずは、二人の最後の記憶。猜疑心に満ち、怒鳴りあい、すれ違いの日々。そして、徐々に記憶が巻き戻り始める。一緒に見た星空、出会いの日…。人はまったく過去にとらわれず生きていけるのだろうか? できたとしても、それは幸せなのだろうか?



『THE 有頂天ホテル』






毎年、暮れが近づくと、「今年はこれができなかった」「来年こそはあれをしたい」と、改めて過去と未来に思いを馳せる。三谷幸喜監督作品『THE 有頂天ホテル』も、あと2時間で元旦という、時間の境目が舞台。汚職事件に手を染めた国会議員(佐藤浩市)、シンガーソングライターという夢をあきらめ、故郷に帰る決意をするベルボーイ(香取慎吾)、別れた妻と鉢合わせで思わずかっこいい嘘をついてしまうホテルの副支配人(役所広司)。さまざまな「あの時」と「これから」への思いが絡み合い、いよいよカウントダウンが始まった。

今年ももうわずか。タイムマシンはまだないけれど…私たちの想いは過去と未来を行き来する。

(八鍬加容子)





(2006年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第63号 [特集 鮮やかな時間をあなたのものに—時の贈り物]より)





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