(2007年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第76号より
人は“家づくりの本能”をもつ
「僕らより縄文時代の人のほうが冴えてた」と語る建築家の鈴木明さん。
家づくりの本能を忘れた現代人に、セルフビルドの小屋作りの楽しさを語る。
標準の発想を捨てるところから始まるセルフビルド
芝生の上には、うず高く積まれた新聞紙のブロック。ドームのような形をしたその山の中に、子供が一人消えていった!
実はこれ、鈴木明さんの小屋作りワークショップの作品だ。建築家は小学生などの子供たち。12段に積み上げられた1・5トンの新聞紙、その「秘密基地」の中で、ご満悦の様子だ。植木鉢がサッカーボールのように幾何学模様に組み立てられた小屋では、ひょこっと顔を出しピースサインしている子もいる。
鈴木さんは、大学で建築を学んだ後、建築関係の雑誌編集に8年間携わった。誌面をつくるために「毎月15〜16軒の建物を見てきたので、8年で1000軒くらい見てきたと思います。それで、若気の至りでだんだんと『日本の建築おもしろくないなぁ』と思ってしまったんですね」と笑う。
海外で建築を見歩き、ロンドンのAAスクールなど教育現場を訪れる日々の中で、ワークショップの構想が湧き上がり始めた。
帰国後まず始めたのが、若手建築家を対象に、ピーター・ウィルソン、ナイジェル・コーツ、ザハ・ハディド、アルビン・ボヤスキーなど有名な建築家を招いてのワークショップ。できあがった作品を前に「この作品をつくった目的は何?」と参加者に聞いても、みんな黙りこくってしまったことにショックを受け、「子供の頃から建築を教えたい」と切実に感じた。その経験が目黒区美術館のキュレーター、降旗千賀子さんとタッグを組んだ、「子供たちとともに家をつくる」ワークショップにつながっていく。
建築を子供に教えるにはどうすればいいのか。小難しいことの羅列よりも実物を作るほうがおもしろいにちがいない。それは、建築家の限界、利用者の立場のデザインというものを少しずつ感じ始めた時期でもあった。
「例えばトイレ一つにしてもね、研究は実験室っていう限られた状況で考えるから、『標準のウンチの仕方はこう』っていうところからしか始めようがないわけなんです。本当は一人ひとり方法は違うわけじゃないですか。でも、『標準化の仕方なんてわからないよ』っていうところからは絶対始まらないわけなんです」
「標準」から始まってしまう建築には、大事な何かがかけ落ちてしまうのではないか、そう考えた鈴木さんは「セルフビルド(自分でつくる)の家」にたどりついた。現在のワークショップでは、新聞紙、ベニヤ、竹、水道管など、身近な素材で小屋作りをする。ごみのように置かれていた物が自分たちの空間を構成していくプロセスに、大人も子供も目を輝かせる。
土地の風土や気候、生き方をも雄弁に語る家たち
世界には、ユニークなセルフビルドの家がたくさんある。例えば、北米先住民イヌイットのイグルー。雪と氷に覆われた一面真っ白な世界で、彼らは氷をレンガ代わりに積み上げ、猟のための小屋を作る。
ボリビア南西部、アンデス高原のチリとの国境に近いチパヤ村の家や、ペルーのチチカカ湖近辺に住むケチュア族の家は芝でできている。原っぱに円を描き、外側の芝を剥ぎ取りブロックにして積み上げたものだ。セルフビルドの家々は、身近な素材で作られているため、その土地の風土や気候を雄弁に語る。
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