「70年代のヒッピーなんて、自分で家を建てて村まで作っていた」(2/2)

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「70年代のアメリカのヒッピーなんて、自分たちで家を建てて村までつくっちゃいましたからね」。

その名も、ドロップアウトした連中による「ドロップシティ」は、既存の社会の枠組みに飽き足らなかった若者たちによるコミュニティだ。「より少ない資源でより効率的なデザイン」を提唱した建築家バックミンスター・フラーに多大な影響を受けた西海岸のヒッピーたちによる、生活に根ざしたムーブメントとなった。

この頃出版され大いに話題になったのが『The Whole Earth Catalog』(全地球カタログ)。アップルコンピュータのスティーブ・ジョブスも愛読者の一人として知られているこのカタログは、衣食住においてつくってもらったものを消費して満足するのではなく、自分の生活は自分でつくり上げるという時代の機運を反映している。

70年代に入ると、セルフビルドの家は、その土地の風土や気候のみならず、自分たちの生き方をも雄弁に語るようになった。

小屋を建てて遊ぶ本能の回復へ

一方、21世紀の日本に住む私たちの住む家は、どうだろう? 住まいづくりを人任せにした結果、私たちは「家づくり」という本能を失い、そのつくり方まで忘れてしまったようだ。

「日本でも、縄文時代なんかは、大工さんも建築家もいないから、絶対セルフビルドの家にみんな住んでいたはずなんです。これは、僕にとって励みになりますね。僕らより縄文時代の人のほうが冴えてたなんて楽しいじゃないですか」と鈴木さんは愉快そうに笑う。

「例えば、ここにペットボトルがあるな、レンガしかないなっていうところで悩みに悩んで家をつくってみると、大昔の人たちと気分を共感できるんじゃないでしょうか。自分でつくってみる体験をして大昔の人の家を改めて見ると、その知恵に感動できるし、時代をこえて共感できるんじゃないかと思うんです」

身近なもので、と空き瓶や空き缶で家をつくってしまった人もいる。1960年代、ハイネケンビール創始者の孫、アルフレッド・ハイネケンは、バカンス先のカリブ海の島に自社製ビールの空き瓶があちらこちらに転がっているのが気になって仕方なかった。

そこで考えたのが、空き瓶を使って家をつくれないか、というもの。こうして「ワールドボトルプロジェクト」が始動した。また、大阪にある民族学博物館では、増岡巽さんが1万個以上の空き缶で作った家が展示されていた。

鈴木さんも2005年冬から、群馬県にある赤城山頂の大沼で、ワカサギ釣りを始めた。もちろん、釣りを楽しむための小屋も氷上に作った。「海でも山でも、ゆったりした楽しみ方ができるような、小屋を建てて遊べるような場所があってもいいんじゃないかな。そういうのが文化として出てきてもいいんじゃないかと思うんですよね」

本能を取り戻すためのセルフビルドの小屋作りは、私たちの生き方をも考え直す機会になるのかもしれない。

(八鍬加容子)
写真提供:鈴木明
photo:中西真誠

すずき・あきら
1953年生まれ。武蔵野美術大学院造形研究科、修士課程修了。新建築社編集部などを経て、現在神戸芸術工科大学教授。著書に『子どもとあそぶ家づくり』(建築・都市ワークショップ)など。
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