園芸家、柳生真吾さん「冬の雑木林は、枯れ木や枯れ草の集まりだと思ったらオオマチガイ」

冬の雑木林、命の神秘に出会い、春の訪れを想像する

東京から車で約3時間。八ヶ岳南麓大泉村にある「八ヶ岳倶楽部」に柳生真吾さんを訪ねた。晴れた日には八ヶ岳や富士山が間近に見えるここは、真吾さんの父で俳優の柳生博さんが約30年前、荒れ果てた人工林に手を入れ、雑木林に戻すところから始めたもの。今では四季折々の美しさを見せるこの雑木林に、ギャラリーとレストランを併設し一般に開放している。

柳生真吾さん

冬の“スッピンの林”を知らないと、本当の林を知ったとは言えない

まずは柳生さんと一緒に雑木林を歩いてみることにした。葉が青々と生い茂る夏や、紅葉に彩られた秋の風情とは異なり、冬の雑木林は閑散として静まり返っている。

「冬の雑木林は、枯れ木や枯れ草の集まりだと思ったらオオマチガイ(笑)。よく観てください。花の芽がここに出ているでしょう」と柳生さん。確かに枝をじっくり観察してみると、そこにはしっかりした突起が付いている。

「一つの枝には、花の芽と葉の芽の2種類の突起がついているはずです。それはレンゲツツジの芽。丸いほうが花の芽で、細長いのが葉になります。花や葉のつぼみは秋にはもうできあがっているんですよ。

そっちにあるグレムリンみたいな顔をしている芽はムシカリ。耳の部分が葉の芽で、顔の部分が花の芽です。毛を生やすことで寒さを防ぎ、外敵から身を守っている。どれも実に個性的で観ているだけで楽しいでしょう。落葉樹は葉っぱをすべて落として、小さな芽にすべての栄養を詰め込んで厳しい冬を越すんです」

(ムシカリ)

冬の雑木林には、新しい命の芽がたくさん隠れている。「冬は、飾らない“スッピンの林”が見られるまたとない機会」だと柳生さんは言う。

「スッピンの林とつきあわないと、本当の林を知ったとは言えないと思うんです。葉がない分、林の骨格がはっきりとわかる。葉や花ではなく、木肌や芽を見ただけで、何の木かわかるようになると、冬の散歩もぐっとおもしろくなりますよ」

冬の雑木林を歩くことで命の神秘に遭遇し、春の訪れを想像する楽しみを味わうことができる……凍てつく冬も億劫がらず、屋外に一歩足を踏み入れることで、新しい発見があるに違いない。

真冬の「八ヶ岳倶楽部」は、最低気温がマイナス10度を下まわる日もあるという。

「そんな時はやっぱり外に出るのは辛いですよね。だから僕は自分なりに気持ちを高めることにしているんです。かっこいいダウンジャケットを着て、おしゃれな長靴を履いたりしてね……。道具とか形って結構大切なんですよ」

もう一つ、柳生さんにとって欠かせない道具がデジタルカメラだ。

「自然をじっくり観察するには、デジカメが一番。僕はよく写真を撮るんですが、カメラを持ってファインダーをのぞくと“何か探さなきゃ”という意識がムクムクと出てくる。“カメラの眼”になるから、同じものが違って見えてくるんですよ」

 寒い冬、だからこそ、デジカメ片手に屋外に出てみてはどうだろう。

後編へ続く

柳生真吾(やぎゅう・しんご)
1968年東京都生まれ。玉川大学農学部卒。10歳のころからほぼ毎週八ヶ岳に通い、父の雑木林作りを手伝う。大学卒業後、生産農家「タナベナーセリー」での園芸修行を経て八ヶ岳へ移住し、雑木林を核としたギャラリー&レストラン「八ヶ岳倶楽部」を運営。2000年からはNHK『趣味の園芸』のメインキャスターを務めるほか、全国各地で講演活動なども行っている。著書に『柳生真吾の八ヶ岳だより』(NHK出版)、『柳生真吾の、家族の里山園芸』(講談社)、『男のガーデニング入門』(角川書店)などがある。

(2007年1月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第65号 [特集 冬、満喫—冬ごもりレシピ]より)