100万円で家を建てる!小笠原昌憲さんに聞くセルフビルド(1/2)

小笠原昌憲さんに聞く伝統的な在来工法のセルフビルド

やんなきゃ損。100万円で家は建てられる。
自分でやったという達成感が宝。

小笠原昌憲さんは、2間×3間(6坪)の家なら、1人の手でおよそ1ヶ月、100万円ほどの予算で建てられると語る。それも、日本の伝統的な在来工法で。小笠原流セルフビルドの極意とは?

小笠原昌憲さん

在来工法、1〜2分で要領はつかめてしまう!

目が覚めると、バスから見える景色が一変していた。高層ビルの立ちならぶ東京からたった1時間半ほど離れただけなのに、あたりはすっかり緑の輝きに包まれていた。田んぼには水が漲っていて、7月に近づく日差しが、若々しい稲葉をさんさんと照らしていた。

ここは千葉県大多喜町。森の緑と田畑に囲まれた静かな農村には、心地よいウグイスの鳴き声がときおり届く。気分もなんだかのんびりしてきた。こんな自然のなかへやって来るのは久しぶりのことだ。

なんでも「100万円で家がつくれる」と聞きつけて、それなら実物を見てみたいとここまでやって来たのだが、バス停まで迎えに来てくれた小笠原さんは自宅へ着くなり、まず木材が置かれた作業場へと案内してくれた。

「ここにさ、墨で印がつけてあるでしょう? ここに穴を開けるんだよ」
 おもむろに機械の説明が始まる。
「じゃあ怪我しないように。がんばってね!」
 それだけ言い残すと、養鶏業を営む小笠原さんは、そのまますーっと鶏の卵を取りに出かけてしまった。
「えっ? これを一人でやれってことなんですか?」

とり残された自分の眼の前に、木の棒が1本、そしてカクノミと呼ばれる機械だけがぽつんと置かれている。どうしたらいいんだろうとしばし呆然となるが、さっき聞いた説明自体はかなり単純なものだった。機械を木にとりつけて、レバーで挟むように固定し、同じようにレバーでドリルの位置を微調整しながら、スイッチオン。これだけである。

とにかくやってみようと機械を動かし始めると、ものの1〜2分で要領はつかめてしまった。あっという間に穴が開いてしまう。カクノミの振動と木の香りがなんとも心地よく、やっているうちに楽しくてたまらない気分になってきた。

頃合いを見計らって戻ってきた小笠原さんは、それに組み合わせる木材を持ってきて、穴にかぽっと嵌めてみせる。

「これだけなのよ。あとは同じように木を切ったり、穴を開けて、組み合わせるだけ」

うーむ。これなら自分にもできるではないか。そんな驚きとともに「簡単ですね!」と声を上げると、小笠原さんが嬉しそうにニッと笑った。

材料費だけなら60万円で6坪の家が建つ

木材で組み立てる2間×3間(6坪)の家ならば、たった100万円で建てられる。そんな小笠原さんの言葉にはどうしても「本当にできるんですか?」と訊ねる声が後を絶たない。

「できるよ。本では100万円としているけれど、実際は60万円だよ。よく見ればわかるけれども、100万円という数字は道具代も全部入ってだから。普通、家をつくりました。いくらかかりましたって、材料費だけでしょう?」

材料費だけなら60万円ですか……。もしかして、そんなに安く家が建てられるのなら、今までの私たちはお金を使いすぎていたことになりません?

「でしょ? だから家をつくるのを覚えた人は、家を財産だとは思わなくなっちゃう。それよりも車買うのをためらうよ。100万円の軽トラでも、10年後にはそれと同じ金額を維持費につぎ込んじゃうからね。200万円だよ? 豪邸ができちゃうよ」

実際、100万円でできる2間×3間の家づくりはセルフビルドの基本を知るための第一歩でしかない。小笠原さんが住んでいる自宅はそれをこえるはるかに大きいものだが、それでも「家の大きさで値段はあんまり変わらないんだよ」。

たった数百万で建てたはずの家が、査定額では何千万もの代物に変わる。まさに目から鱗のセルフビルド論だ。

「もちろん500万円のシステムキッチンを入れなきゃヤダっていうなら話は別だよ。だけどそれは趣味の世界だから。お金のある人は使ったらいい。でも、蛇口を1個入れれば台所はできちゃう。5千円ぐらいのレンジを買ってきて、プロパンのガスを5千円で買ってくれば、1万円でも煮炊きはできちゃうの。それで使っていてちょっと不便になってきたらまた別につけ足す。それはもうやる人の自由。どうにでもふくらませていけばいい。とにかく基本の基本、それは100万円でできるんだよ」

お家の自慢したい部分を尋ねてみると、すぐに「トイレだね」と返事。のぞかせてもらうと、木の温かみがある、確かにおしゃれなトイレがあった。まだ内装の途中だという和室には囲炉裏があって、その周りには自家製の梅酒が並んでいる。リビングとキッチンのあいだには、ちょっとしたカウンターバーも構えていた。

「今のところはね、生活するうえで不便なところはなんにもないよ。自分の生活に合わせて作ったからね。みんな買った家に合わせて自分の生活を変えるからストレスがたまるんだよ。朝起きて、夜に寝るまでどうやって動くか。何を持って、どこに動かすか。春夏秋冬、今だったら梅干をつけるとか梅酒をつくるとか、そういう作業をどこでやろうかとか、そういうことを考えて間取りを決めればいいのにね」

後編<素人でも家が建てられる。小笠原流・在来工法(2/2)>に続く

(2007年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第76号より)