井上英之さんが紹介するアメリカの「社会的企業」(1/2)

ゲーム感覚、オシャレ、カッコよさ…。ミッションの素晴らしさだけではないアメリカの社会的企業

日本の若手ソーシャルベンチャーの育成に取り組む、井上英之さん(慶應義塾大学総合政策専任講師)が紹介する、アメリカの注目すべき社会的企業。

途上国の小さなビジネスに、先進国の個人が融資

「あっ、すごい! すごい!」

ノートパソコンの画面を見ていた井上さんが声を上げる。

「このニューヨークのジュアンさんは、今までに貸したお金が91%も返ってきてますね。アゼルバイジャン、メキシコ、エクアドル…。お金の貸し方をみると、どうも彼女はアゼルバイジャンに思い入れがあるみたいですね」

そう言って井上さんが夢中でページをめくるのは、途上国の小さなビジネスにオンライン上で小口融資(マイクロファイナンス)する「Kiva」(サンフランシスコ)。井上さんが今、最も注目している社会的企業の一つだ。

Kivaのホームページには、お金を借りたい途上国の人たちの顔写真やローン希望額がズラリと並ぶ。これまでに目標資金の何%が集まっているかも、メーター表示で一目瞭然。お金を借りたい人のほとんどが途上国の屋台など小さなビジネスだが、ジュアンさんのようにお金を貸したい人は、この異国情緒溢れる写真を見ながら気になる人をクリックする。すると、その人の家族構成や生い立ち、さらには今どのようなビジネスをし、借りた資金で何がしたいのかなどのライフストーリーを読むことができるため、それらの情報をもとにお金を貸す人を決めていくのだ。

貸与額は最低25ドルから。「JO-URNAL(日記)」というページには、借り手がそのお金でどんなビジネスをしたのか近況報告も書かれており、それを国籍も年齢もまったくバラバラの複数の貸し手たちが画面上でコミュニティを形成し、コミュニケーションしながら見守る、という仕組みだ。

「バングラデシュの貧困者に無担保・低金利で融資するマイクロファイナンスでノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行。その手法を採用する各国の金融機関と連携し、ネット上で借りたい人と融資したい人を1対1で直接つないでいる。貸す方にすれば1回の外食分程度の額だから、いろんな人に分散投資している人も多く、融資というよりもゲーム感覚。サイトもミクシィなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のようなコミュニティ感覚で、おもしろがりながら遠い国の誰かの小さなビジネスを応援できる。先進国と途上国の貧富の格差をうまく利用した社会的企業です」と井上さん。

どこの誰に使われているのかがわからない街角の寄付募金などに比べ、目の前の困っている人を直接応援することができ、中間組織のコストに使われる心配もない「透明性」が多くの人の支持を得ている、という。

これまでに世界約4万人が途上国の約5千人に総額330万ドルを貸付け、返済期間は平均1年、滞納率10%、返済率は実に100%近くをキープしているといわれる。

同じような仕組みは、ほかにもある。「プロスパードットコム」の場合は、途上国支援ではなく、「離婚の訴訟費用がほしい」など先進国の日常的な借り手のニーズも書き込まれ、金融機関を介さずにお金を借りたい人と貸したい人を直接結んでいる。

「いずれの場合も、安い利率で預金を集め、本当に借りたい個人には高い利子をつけて貸さない従来の銀行を飛ばして、借りたい・貸したい個人をつないでしまう、という発想がある。社会や世界のために何か自分ができることで貢献したいと個人が考えた時、身体と時間を使って奉仕するボランティアは大変だけど、小額のお金なら労力がいらない。こんなお金の使い方は、自分が支援したい応援したい社会に継続的に加担することができる民主的な最も身近な投票行為なんです」と井上さんは説明する。

後編「デザインや言葉の力で共感を生み出すアメリカの社会的企企業」へ続く

(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)