1976年〜83年の軍事政権下、軍が「反体制分子」を秘密裏に監禁していた「収容所」で生まれた赤ん坊ら、500人近い乳児は、親から引き離され、養子に出されたり、売られたり、捨てられたりした。
この「軍政による組織的な乳児誘拐」の裁判が、4月に始まった。34件が審議され、300人を超える証人が出廷する。
「私は32年間、偽りの人生を送ってきた」。
フランシスコ・マダリアガは、軍諜報部員の「両親」のもとで、別人として暮らしてきた。8歳頃から始まった「父親」による暴力と、出生年が軍政期で出生地が「収容所」のあった地域だと知ったことをきっかけに、自分の出生に疑いを抱いた。
その後、軍政下で行方不明になった孫や曾孫を探す女性たちの組織の支援で、真実を突き止めた。「両親」は今回法廷で裁かれる。
実母は「収容所」で死亡したが、亡命し生き延びた実父とは、昨年再会を果たした。「それは人生最高の瞬間だった」と話す。
長い時を経て、自らと祖国の歴史の真実を求める闘いが始まった。
(工藤律子/参照:BBC Mundo, El Universal)
(2011年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第169号より)