(2013年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 214号より)
毒性強いプルトニウム900キロを輸送中
船は4月17日にフランスのシェルブール港を出港した。希望岬を経由しオーストラリアの南側を通って、日本に到着するのは6月中旬のようだ。地球の3分の2を回る長い航海になるのは、攻撃の恐れを避けてパナマ運河やスエズ運河あるいはマラッカ海峡などを通らないからだ。シェルブール港での写真を見ると燃料の輸送容器は3つ見える。
燃料は20体なので容器は1つで十分だが、襲われた時の用心にダミーを乗せる。船は機関銃を装備し、武装した兵士に守られて、しかも相互に護衛しながら2艘でやってくる。向かった先は関西電力の高浜原発だ。
たった20体の燃料のために、これだけ物々しい警備が必要なのは、これがプルトニウムを混ぜた燃料だからだ。20体の中に約900キログラムのプルトニウムが含まれている。この燃料から核兵器への転用はそれほど難しくないとされている。
プルトニウムを混合している燃料はMOX燃料と呼ばれている。原発の使用済み燃料の中にわずかに含まれている(0・8パーセント程度の)プルトニウムを取り出して燃料に使用する政策を、日本では50年代に定めた。ところが、頼みの綱の高速増殖炉が開発できない。実用2段階前の原子炉「もんじゅ」で1995年に火災事故を起こして以来止まっている。そこで普通の原発で使用しようというプルサーマル計画が進行していた。
プルトニウムはウランよりも核分裂しやすく、制御棒の効果が悪くなるなど、事故時にいっそう危険が増すとされている。
原発はもともとウラン燃料用に設計されたのだから、使うのも燃料全体の3分の1以下。福島第一原発の事故時、3号炉で使用されていたが、この燃料は10年以上も前に運ばれて貯蔵されていたものなので事故に大きな影響を与えなかったとされている。運んだばかりの燃料だったら事故はいっそう深刻になっていたかもしれない。
プルトニウムは毒性が強く、もしプルトニウムが環境に飛散することがあれば、避難対象の範囲は少なくとも4倍に拡大しなければならないだろう。
関電は、福島原発事故を他人事に考えているようだが、事故を真摯に受け止め、プルサーマル利用をやめるべきだ。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)