「私たち」が歴史を塗り替えていく〜世界の市民運動のうねり〜(2/2)

前編を読む

議論が苦手な日本人

オランダ在住15年になる私が、日本に行く度に肌で感じるのは、日本人は、議論が苦手ということだ。

議論をしようとすると、自分が否定されてると勘違いし、防御的になってしまう。そこにはなぜか、人から違う意見を言われること=否定されることという、変な図式が存在するようにみえる。

日本人が議論出来ない理由として、教育方法にも問題があるだろう。日本の義務教育では自らをプレゼンしたり、公の場で日常的に意見を言う場をほとんど与えられたことがないから、そのまま自らの意見を人前で言う経験のないまま、大人になってしまった。

私の友人に聞いた話だが、オランダで行われたIT分野の国際コンファレンスで、世界中の技術者が集結したそうだ。ほとんどの国の参加者が2~30代の若い技術者で、皆どの国もプレゼンも上手く、2~3カ国語以上は普通に話せたそうだが、日本の技術者だけが年配で、プレゼンにも慣れていないから戸惑い気味、英語も話せないので、通訳を付けていた唯一の国だったそうだ。

オランダの子どもたちは、教育スタイルに関わらず、小学校のときから人前でプレゼンさせられるのが一般的だ。語学も早い時期からマルチ・リンガルが当たり前で、オランダ語+英語、ドイツ語やフランス語を学ぶ。さらにオランダではアメリカのカトゥーン・チャンネルが、ドイツのような吹き替えではないため、幼い頃から非英語圏であるのに、日常的に直接英語を見聞きしている。そのためか、オランダ人のコミュニケーション能力は、イギリスやフランスやドイツなどの大国よりも、平均して高いと一般的に言われている。

一方、非英語圏でありながら、経済大国であるフランスやドイツなどでは、国民の数が多く、メディアにも予算があるため、マスメディアで放映するテレビ番組などでは、一般的に吹き替えが行なわれている。フランス人やドイツ人で英語が苦手な人が多いのは、吹き替えの影響が大きいと思われる。

国際社会において、議論が苦手だからといって、それを避けることはデメリットである。これは日本の市民運動にも言えることで、議論を避けていることから、様々な問題が引き起こされている。

日本独自の白黒をつけない「曖昧さ」は美しい文化だと思うが、国際社会においては理解されないことが多い。公の場ではしっかりと議論が出来る明確さを身につけ、個人レベルの対話では曖昧さのニュアンスをうまく残すことができれば、日本はより魅力的な国になれるのかもしれない。

モンサント反対デモ行進

前編」でも紹介した「モンサント反対」デモ行進は、5月26日、世界規模で行なわれた。 6000人以上の人たちが、オランダ・アムステルダムに集結し、世界36カ国、300都市と繋がった。

2004年、フランスの農業従事者が「農作業中に除草剤を吸入したために健康を害した」として、米モンサント社を相手取り、損害賠償を求めた。昨年、裁判所は原告の主張を認め、賠償請求を認める判決を下した。

参考:米モンサントの除草剤訴訟、原告勝利で賠償命令 フランス 国際ニュース : AFPBB News

この判決以降、欧州ではさらに安全な食を求める声が加速し、消費者が積極的に、非モンサント&非遺伝子組み換え食品を選択する流れが確立された。 これらのことは、欧州のみならず、世界的な影響を与える可能性のある判決となった。

そして、ついに米モンサント社は、ヨーロッパで遺伝子組み換え作物の種子について、新規承認を得るためのロビー活動を行わないことを決定した。

参考:Monsanto gives up fight for GM plants in Europe | Business | DW.DE | 31.05.2013

このモンサント社の決定は紛れもなく、ヨーロッパ各国で広く情報を共有し、地道な市民運動を継続してきたからこそ、その成果が顕在化された例のひとつだ。

これまでとこれからの市民運動

「アラブの春」に始まり、現在のトルコの暴動、20万人にも拡大したブラジルの反政府デモまで、世界中で巻き起こっている市民運動のうねり。これらの市民運動が日本の市民運動に与えている影響は大きいだろう。

原発問題など、ある1つのイシューについて、インターネットを通じて、フェイスブック、ツイッターなどのSNS、ビデオ共有アプリVine, YouTubeなどのソーシャル・メディアを駆使し、情報をシンプルかつ出来るだけ広く共有する。あらゆる手段を使って共感を得た市民が瞬時に繋がり、気軽に市民運動に参加できるメリットは、世界各国における現在の市民運動の特徴でもある。

個人発信が可能なSNSやソーシャル・メディアを駆使することで、市民運動の主催者は、運動の目的を誰にでもわかりやすいように顕在化させることや、参加者とのコミュニケーション、また、どのようなかたちで市民運動を継続させていくのか、ということが常に問われる。

現在日本では、反原発運動に加え、主に在日韓国・朝鮮人への民族憎悪の横行に対抗する反レイシズム運動が活発化している。この日本の反レイシズム運動の中心的役割を担っているのは、「レイシストをしばき隊」と、反レイシズム署名活動や「仲良くしようぜ」のプラカードを沿道で掲げる「プラカ隊」、 「友だち守る団」などである。

これらの市民運動のうち、継続されている運動に共通して言えるのは、「わかりやすくシンプルなシングル・イシューであること」「デモや抗議の手法がバラエティに飛んでいること」「市民が自発的に動き、主催者と参加者の壁が薄いこと」「主催者・参加者を問わず、それぞれがフェイスブックやツイッターなどのSNSで、自分の意見と立場を明確にしていること」、そして「非暴力主義を貫いていること」が挙げられる。

インターネットやSNS、ソーシャル・メディアのお陰で、市民運動へ参加することがもはや特別なことではなく、日常生活の一部となってきている。これまで市民運動に関心のなかった、いわゆる無関心・ノンポリの若い世代も、今までとは違ったやり方で、確実に市民運動に取り込んでいる。

今後、日本の市民運動の最終ゴールがどこに行き着くのか、というビジョンを、国内のみならず、世界中のあらゆる場所のあらゆる世代で、広く共有していくことが、運動を拡大・継続させるための要となっていくだろう。これらの動きは、日本発の市民運動が、世界の市民運動のうねりを作る、きっかけともなり得るような、可能性を大いに秘めている。

日本の一般市民が世界の市民運動に影響を与えるような、歴史を塗り替える日がくることを信じてやまない。

タケトモコ
美術家。アムステルダム在住。現地のストリート・マガジン『Z!』誌とともに、”HOMELESSHOME PROJECT”(ホームレスホーム・プロジェクト)を企画するなど、あらゆるマイノリティ問題を軸に、衣食住をテーマにした創作活動を展開している。

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