日本には公営住宅が圧倒的に不足している:日本が抱える住まいの貧困(3/4)

part2を読む

入居倍率400〜800倍の公営住宅

藤田さん:
ほっとプラスの藤田です。埼玉県で困窮した方の支援をしています。不安定就労の人たちが増えています。特に若年層は5割が不安定就労、賞与もない、昇給も難しい、という状況で働いています。

家賃負担をどう考えるか、というテーマでいうと、私たちは相談に訪れる人たちに、家賃負担の割合を聞いています。「12万円しか収入がない」というケースでは、そのうち半分が、約6万円もの家賃を払っていたりする。

埼玉県では住むだけで精いっぱいという2LDKの家でも、家賃8万円します。生活保護申請などをしていますが、極めて高い家賃負担になっていることを実感します。公営住宅で1〜3万円程度に住めれば、生活保護も不要になるのではないでしょうか。

家賃負担に苦しむ方々が次々と相談に訪れる。できるかぎり支援を行っているが、公営住宅も減っています。ホームレス状態の人に公営住宅の申込みをするが、当たらない。400〜800倍となっている地区もあります。

公営住宅は、4回5回申請しても通らないという人たちばかり。住宅政策を変えていかないとどうしようもない。保証人が立てられないがために物件を借りられない、というケースも多い。

民間市場だけに任せると、障害者の方々などが住めるバリアフリー住宅が用意されにくい、という問題もあります。

精神障害がある方などは、隣りの声が聞こえると落ち着いて眠れない、という声もある。住宅上の問題から精神状態が不安定になるという相談者がかなりの割合にいる。簡易的な住居ではない対策も必要だろう。

刑務所からの出所者の相談・支援もやっていますが、住宅費が払えないがためにホームレス状態になる人たちが多い。そのうち一部が、万引き、無銭飲食をしてしまっている。

家賃負担が軽ければ、低賃金でも暮らしていけるはずなのに、住宅費が払えないがためにアパートを追い出され、罪を犯さざるをえない、という人たちがいます。

出所者の多くが居住先がなく、「再犯をして刑務所に戻りたい」という人たちが多い。私たちのところに来る人のなかにも、NPOがなければ刑務所に戻っていくような人たちがいます。

犯罪やワーキングプアなど、ほとんどの社会問題は、住宅政策の転換を求めているのでは。社会問題は住宅問題から発生しているのでは、と感じています。

貧困ビジネスの温床となる、日本の不完全な住宅セーフティネット

川田さん:
大分大学の川田です。私からは住宅のセーフティネットの変遷についてお話をしていきます。

2006年には住生活基本法が制定され、ストック重視・市場重視が掲げられ、2007年には住宅セーフティネット法が制定されました。住宅セーフティネット法は①公的住宅の供給促進、②民間賃貸住宅への円滑な入居促進を掲げている。

住宅セーフティネットの考え方は、公的住宅、住宅手当、公的家賃保証、公的扶助などがあります。

日本では、公営住宅は供給量が絶対的に足りていません。管理戸数は217万戸、募集戸数は9.7万戸で、10年で半減しています。全国平均倍率は8.9倍。都心部になると東京では30倍、人気地区では数百倍となっています。

ヒアリングした母子世帯のお母さんなどは100倍くらいの倍率だった。5年で12回申し込んだが、入居できない。なかば宝くじのような状態になっています。

公営住宅には、地域が偏在している、老朽化している、福祉世帯の集住によってコミュニティが弱体化する、自治体の裁量の拡大によってお金が掛かる公営住宅への関与低下といった問題がある。

つづいて生活保護の住宅扶助。これも簡単に受給できるものではない。住宅扶助の問題点は、質の保証がないこと。一般的に住宅手当は住宅の水準が設定されている。世帯規模などに合わせて面積や設備などが要件になっているが、住宅扶助にはそれがない。

そのため、貧困ビジネスにつながっている。劣悪な物件なのに住宅扶助の上限ギリギリに設定している、という問題があります。生活保護については、今後受給額の見直しもあると思われます。

住宅支援給付について。離職者向けの住宅手当で、日本初めての家賃補助制度。しかし、支援策としては後退しています。問題点としては、認知度が低い、初期費用を捻出する仕組みがない、離職者のみが対象、受給期間が短い。

日本のセーフティネットは、住宅市場をこぼれ落ちた人を救う仕組みとしては、限定的です。穴がある制度になっています。こぼれ落ちた人々が、脱法ハウスなどの貧困ビジネスを頼らざるをえなく、居住権、生存権などが侵害された状況にある。

公的な家賃保証がないことも問題です。賃貸契約をする際に保証人がおらず、それで契約できないという人が増えています。その点からでも、公的家賃保証が課題になっていると思います。

法律が「理念」に留まっている

佐藤さん:
大阪市立大学の佐藤です。テーマは「住宅政策の再構築に向けての課題について」です。所得の低い高齢者が増えていることが問題になっており、これも大きな課題だと思われる。

生活保護、公営住宅制度の改善と、それ以外の第三の道を安定的なシステムとして構築できるのか、これも論点です。

社会福祉依存型ハウジングの増加。川田先生からもご指摘があったが、生活保護受給者向けの民間賃貸市場が形成されてしまっている。

こちらの図をご覧下さい。大きくは、ヒト(コミュニティ)、モノ(居住空間の質)、カネ(住居費負担)の三点から整理できるのではないか。身元保証人問題、収入の減少、低家賃住宅の減少、家賃負担率の上昇など。

こうした問題を解決するために住宅関連の法律改正が進んでいるが、プレーヤーは民間であることを前提にしており、理念を掲げているものに留まっている。実態として見ると、理念は反映されていません。

本来なら悲鳴を上げなければいけないのは自治体であるはずなのに、そこが声を挙げている状態になっていない。自治体や地域が声を挙げ、それを受け止める仕組みが必要。セーフティネットをもう少し予防的に展開していく方策が必要ではないか、と提案しています。

part4に続く