<part.1「年末年始の閉庁期間の生活困窮者、路上生活者を支援する」を読む>
行政ではできない支援を民間で
大西:相談から見えてきたことをお話しさせていただきます。今回のプロジェクトでは、しがらみがない民間で、行政ができないことをやろうと考えました。
行政の支援は、複数人部屋のシェルターが基本で、住環境が劣悪であるケースがあります。某Y寮は10人部屋が当たり前、T区に申請に行くとナンキン虫がうじゃうじゃいる遠方の寮に入寮することになります。生活保護制度をつかっても劣悪な住環境で過ごさなくてはいけないので、これなら路上の方がいい、という方も出てきてしまいます。
また、見えづらい障害を持っている人が多いにも関わらず、専門的な相談支援を行うことができていません。水際作戦といわれますが、そういった方々を追い返してしまうこともあります。ゆえに、信頼関係の構築が行えていません。
何かのトラブル、たとえばアルコール依存の方がお酒を飲んでしまったときに、「自己責任」と捉えられることもあります。これは本来支援の不足なんです。
行政の支援は「就労自立」をゴールに設定しているので、住み込みの仕事に送り込んでいます。そうなると、不安定な仕事が中心になってしまい、路上の方がマシだ、と思ってしまう懸念もあります。
現状の行政支援という点では、支援のレベルが「生存を担保する」ところまでで、「生活していく」ことにつながっていません。また、当事者支援の支援団体と連携ができていないのも課題のひとつです。
われわれは逆のことをしようと考えて、まずは個室のシェルターを用意しました。それから、相談支援として各団体から協力をして、医療者と生活相談チームでユニットを作りました。各地で信頼を得ている団体にお手伝いをするかたちで行っています。
また、支援できないと思われるような人であっても、積極的に受け入れました。いなくなってしまうんじゃないか、お金を渡すとパチンコにいくんじゃないか、最悪路上に帰ってもいい、という前提でできることをやっていきました。
なぜこうした支援が可能だったか、ひとつには、クラウドファンディングでの経済的な支援をいただいたことです。本当にありがとうございました。もうひとつは、路上生活者支援において史上初だと思いますが、しがらみがないかたちで各団体が連携できたことです。
路上生活者支援の「前提」を整える
大西:まとめに入っていこうと思います。まず「前提」を整えることが大切です。
ひとつめは「個室シェルター」の整備です。複数人部屋、雑魚寝だと嫌だという人は多いです。手を伸ばしたらまったく知らない人に当たるというのは、誰でも嫌ですよね。また、シェルターにずっといることはできないので、早期のアパート入居への支援も必要になってきます。
もうひとつ目は「年末年始や夜間休日の生活保障の担保」です。この社会に生きている以上、いつ生活困窮するかなどはわからないわけです。もちろん夜中に公務員の人が何人も待機しているべきだと思いませんが、少なくとも生活保護に関しては夜間の受理だけでも実施し、早期の支援につなげていくべきかと思います。
また、定期的に「9時5時ではない柔軟な時間帯の相談窓口」を設置したり、困窮している人を単に待つのではなくて、「職員が路上に出て支援をおこなう体制作り」を行うべきです。
また、住み込みの就労というのは不安定な状態になってしまうので、「住まいの安定」というものも考える必要があるのではないでしょうか。こういったことを政府や自治体に求めていこうと思っています。
われわれとしては、再度、厚労省に対して交渉の機会を持とうと思っています。これを毎年民間の善意でやっていくというのは大変なので、国や自治体が何らかの責任を持ってやる体制、制度をつくるために動いていきます。
こういった活動を通年で全国でおこなえば、日本の貧困問題は解決するかもしれない。ということでぼくからの報告を終わらせていただきます。
「ふとんで年越しプロジェクト」報告会レポート
1:年末年始の閉庁期間の生活困窮者、路上生活者を支援する
2:路上生活者支援のあるべき「前提」、個室シェルター、閉庁期間の生活保障の担保
3:不十分な日本の「住宅政策」と「ハウジングファースト」という考え方
4:山谷、池袋、渋谷でホームレスの人々はどのように年を越えたのか:越年越冬活動・現場からの報告
5:ボランティア医師・看護師が見た、年末年始の路上生活者支援の現状
6:路上生活者支援の新たなキーワード「ハームリダクション」「ハウジングファースト」「ネットワーク」