分断と差別乗りこえるフォーラム いまだ、つくられない子ども被災者支援の「方針」求めて
5月11日、福島市の福島大学で、「原発事故子ども・被災者支援法 福島フォーラム」が開かれた。出席した被災者やパネリストらは、昨年6月に成立した被災者を支援する「原発事故子ども・被災者支援法」(※)の基本方針の早期策定を求め、意見を交換した。
福島県南相馬市原町区で暮らす高村美春さん(「南相馬 花と希望を育てる会」代表)は、「南相馬市で生活していることで、『あんた、原発容認なんでしょ』『あんた、子どもを殺したいんでしょ』と、なぜ被害者同士が痛めつけ合わなければならないのか。今は見えない戦争の状態で、心が殺されている」と発言し、「こうした分断をなくすためにも、差別なく被災者を支援する法律として『原発事故子ども・被災者支援法』による、迅速な被災者支援が必要」と訴えた。
「原発事故子ども・被災者支援法」は、国・政府の基本的な考え方を示した理念法(プログラム法)だ。被災者の避難、在留、帰還をそれぞれ尊重しつつ、子どもの健康被害防止に取り組むとされ、具体的な施策は、別途、政府が地域住民の意見を反映させた基本方針を策定して進めることと定められた。
ところが、いまだにこの基本方針が策定されず、同法による具体的な被災者支援策が実行されていないのが現状だ。この日は、そのほかの被災者からも苦悩の声が相次いで出された。
福島県二本松市から一時、子どもと一緒に山形県に避難した安斎牧子さんは、「避難生活が始まり、生活が180度変わった。子どもたちが夜泣きをしたり、うなされたり、父親と一緒にいたいと意思表示するようになって、子どもの気持ちに寄り添いたいと福島に戻った。私たちの声が生かされて、支援法の中身が一日でも早く決まることを期待している」と自身の経験を語った。
有機農業をしている菅野正寿さん、北海道に家族と避難している中手聖一さん、栃木県から愛知県に子どもと避難している井川景子さん(原発事故被害者支えあいの会 あゆみR.P.Net)も、早急な基本方針策定と施策の実施を求めた。
原子力規制委員会の被災者健康管理検討チームメンバーで、福島県医師会副会長の木田光一さんや、福島市出身で「よりそいホットライン」の社会的包摂サポートセンター代表理事熊坂義裕さんらも支援の必要性を述べた。
(文と写真 藍原寛子)
※正式名称:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律
(2013年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 216号より)
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