厚労省がウェブサイトにアップしている「世代間格差の正体~若者って本当に損なの?」というマンガに批判が殺到しています(参考リンク:ツイッター検索)。
「今の若い世代が豊かに暮らしている」?
個人的に資料のなかでまず気になったのは、「今の若い世代が豊かに暮らしている」という点。
そのおかげで今の若い世代が豊かに暮らしていることを考えると
受け取る年金に差があったとしてもそれだけで若者が損とは言えないと思いませんか?
登場人物の女性は「確かにあたしたち好きな大学に行かせてもらってるしなあ」と納得しています。
が、そういった恵まれた人もいる一方で、奨学金の返済に苦しんでいる方々も増えています。生活に困窮している若者が増加していること、申請すれば保険料の減免も可能であることについても、ぜひともマンガ内でアナウンスしてほしかったところです。
「結婚してたくさん子どもを産めばいいのよ」?
また、「結婚してたくさん子どもを産めばいいのよ」という発言も気になるところです。
マンガの中では「これからの日本を支える若い人達が 安心して子どもを生み育てられる社会にすることも必要ですね」という発言もありますが、感情的には「無茶を言わないでください」と言いたくなってしまいます。
この発言に関連して、日本は諸外国に比べて「家族関係支出」のGDPが低いことも知られています(内閣府サイトより)。調査『若者の住宅問題』では、低所得であるがゆえに実家を出られない若者が数多くいることもわかりました。首都圏では待機児童の問題も根深く、若者が「結婚してたくさん子どもを産む」ことができる社会には、まだまだ程遠いといえるでしょう。
違和感を抱く一方で、「世代間格差」という観点で「老人=悪」という反発感情を抱くことは避けなければいけない、という文脈には同意できます。若者VS老人、という対立軸を描いても、明るい未来は描けない気がします。
すでに多く語られていることですが、経済成長・人口増を前提にした制度設計からバージョンアップすることが求められているのでしょう。このマンガをきっかけに、年金制度、社会保障制度はどうあるべきかの議論が進むことを期待します。
最後に、「少子高齢化、ライフサイクルと公的年金財政」などの研究がある中田大吾さんのツイートも転載させていただきます。考えを整理するよき材料となるかと思います。
厚労省の香ばしい漫画 http://t.co/hlmTH1Wv5o が絶賛炎上中のようだ。忙しいのでスルーしようと思ったが、ここはひとつ、部分的にではあるけども、擁護するツイを残しておこうかと思う。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
@dig_nkt 厚労省の主張をざっくり咀嚼すると、1)長寿の保険としての機能を忘れないで、2)金額ベースの世代間格差の議論だと厚生ベースの議論が抜けおちるじゃない、3)賦課方式=世代間扶養よ、4)子ども産もうズラ、の四点かと思う。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
@dig_nkt これらのうち、1)と2)については同意できる。余命の不確実性に対してリスクシェアリングを行うのは年金制度の主要機能だ。また、いわゆる世代会計が金額ベースでパワフルな議論を展開するのに対してダイアモンドらが厚生水準で議論すべき問題だね、という批判を昔からしている。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
@dig_nkt では、だからといって金額ベースの格差が無視できるか、と言われると、そういうことでもなく、特に、保険料負担が「税の楔」として影響をあたえる場合には、これは問題視されるべき問題といえる。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
@dig_nkt 3)の賦課方式=世代間扶養というレトリックだが、私にはこれは受け入れられない。賦課方式はあくまで年金のファイナンスの一手法であって、これを世代間の扶養という特定の価値観で語ることは、無用な価値観の対立を煽ることになってしまう。この意味で避けるべき議論だ。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
@dig_nkt 4)の子ども産もうズラ、には、何もいうことはない。先ずは厚労省の男の役人たちが、夕方早くに帰宅して、率先して子育てすることを期待したい。
— 不確実性下の中田大悟 (@dig_nkt) 2015, 1月 14
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