「被害者感情」と「加害者支援」 ~恵まれた環境から見えてきた矛盾~(イノシシ)

編集部より:元受刑者でブロガーのイノシシさん。自らの経験から考える「加害者支援」に必要な事、そして「被害者感情」との矛盾についての文章です。(提供:けもの道をいこう ~元受刑者が実名起業するまでの記録~

「犯罪、やったもん勝ち」

こんな社会って、誰だっておかしいと思いますよね。

僕もおかしいと思います。

そんな誰でも分かる当たり前のこと。

しかし、世の中というのは矛盾で溢れているもので…

最近シリーズでお伝えしている「イノシシ獄中記」。

この中でも特に島根あさひ社会復帰促進センターに関する記事の数々を見て、こう思われた方は多かったはず。

「犯罪を犯したくせに、なんでこんな恵まれた環境で生活しているの?」

普通に考えたらそうですよね。

私自身、島根あさひの環境は嬉しい反面、どこか違和感を感じずにはいられませんでした…。

加害者はほとんどの場合がやがて出所します。

これは紛れもない事実。

被害者からすると、

「自分、もしくは自分の大切な人を傷つけた人間がのうのうと社会復帰して生活している。」

それだけでも耐えがたいことなのに、

「そんな人間が”刑務所にいる間すら”恵まれた環境で生活している。」

なんてなったら、もう腸煮えくりかえって頭おかしくなりそうになっても不思議じゃないと思います。。

もし自分に大好きな彼女ができて結婚し、本当にカワイイ子どもができたとしたら?

そしてその子どもがレイプされたら?

そしてその犯人がのうのうと生活していたら?

……。

想像の範囲でしかありませんが、正直「殺意を覚える」だけではすまないと思います。

これは、いくら口で「罪を憎んで人を憎まず」と言っても、どうしようもない感情、感覚なんじゃないでしょうか?

じゃあ、そこから

「厳罰化!加害者(元受刑者)排除!」の方向に突き進んでいったとするとどうなるか?

その結果は、正直やってみないと分かりません。

なので、ここからは僕の完全なる主観です。

僕の考えは、

「犯罪が増える」

です。

理由を説明します。

《厳罰化の抱える課題》

(※ここでは「犯罪防止」ではなく「再犯防止」の観点から話を進めていきますので、あしからず。)

前提として、「再犯の防止」には「就職」が重要です。

元受刑者の有職者と無職者の再犯率を比較した場合、その差は5倍というデータもあります。

そして、「就職」には①本人の意志 ②周囲の理解 ③本人の能力 の3つが必要。

①は大前提。これが無い人は、論外です。正直、僕もどうしていいのか全く分かりません。「どうしても全体の数%は出てくる存在」として割り切るしかないのかと…。

③にアプローチしているのが「刑務所内での職業訓練」ですね。

そして、実際に多くの元受刑者が②でつまづきます。

(参考記事:元受刑者の就職 ~経歴詐称は避けられない?

では、これらのことに先ほど述べた「厳罰化」を適用するとどうなるでしょう?

②に関してはますます遠のいていくのは目に見えています。「自業自得だから仕方無い。」という。その通りなんですけどね…。

③についても、「職業訓練なんて持っての他だ!他に国民の税金の使い道があるだろうが!」となりそうな気がしてなりません。

そう、完全に「元受刑者の出所後の就職がより困難になる。」んです。

「は?お前がやったことだろうが!」

もちろんです。それは事実。

だけど、そうした「ごく当たり前の考え」が広まっていくとどうなるか?

「再犯率が高くなる」

んです。

「元受刑者支援への理解・支援が縮小」→「元受刑者の就職難を助長」→「再犯率が高くなる」

という…。

なので私は一概に「厳罰化」には賛成できません。

ただ、「じゃあ、そうやって恵まれた支援を受けた人間がみんなちゃんと更生するの?」

って話にもなってきますね。

これも本っ当に難しい問題で…。

《加害者支援の課題》

私自身、受刑生活を通して色んな受刑者(=加害者)を見てきました。しかも、私が主に接してきたのは「かなり恵まれた施設で過ごす、比較的罪名が軽く刑期の短い受刑者たち」です。

そんな中でも、やっぱりいるんです。

「どうしようもない人達」

がね。

「集団強姦とか面白そう~、出たら一回はやってみたいな~」なんて言ってるヤツ、島根あさひにも普通にいましたよ。

心底ゾッとしましたね。

「こいつアタマ大丈夫か?」って。

ここまで酷くなくても、私の独断でいけば

「全体の80%以上はいくら恵まれた環境を与えられても変わらない」

と思います。

結局は、「やる奴はやる」し「やらない奴はやらない」的なとこもあるのが事実。

だから私は刑務所で行われている「職業訓練」とか、出所後の「受刑者支援」っていうのは「全員には効果が無い」と現時点では結論づけています。

でもそれはイコール意味が無い、ってことじゃありません。

「這い上がろう。やり直そう。」としている加害者(受刑者)、いわゆる「やる奴」には効果がある。

と思っているから。

かくいう私も意志が弱い人間です。

島根あさひが独居ではなく雑居であれば、周囲に影響されていた可能性も大いにあります。これから記事にしていきますが、教育プログラムの中でも大きな気づきや学びを得たことがありました。そういった意味で、島根あさひの環境や教育の取組みには非常に感謝していますし、これからも続けて欲しい。

《見えてくる矛盾》

これって、突き詰めていくとある所に行き着くんです。

「被害者感情(社会感情)と加害者支援の矛盾」

という点に。

どういこうことかというと、

「被害者(もしくは社会)から見れば、加害者を厳しく罰したいというのは当然の心理」

だけど、

「厳しく罰すると、さらに犯罪(加害者)が増える可能性がある」

なので、

「被害者から見れば”何で?!”と思うような加害者支援が行われている。」

という矛盾。

「社会の合理性を考えれば正しいが、心情的には納得できない。」

とも言えるかと。

冒頭に書いた

「犯罪、やったもん勝ち」の社会はおかしい!

ということはみんなが分かっているはず、

なのに

「犯罪を犯したくせに、なんでこんな恵まれた環境で生活しているの?」

という状況が現実としてある。

これこそ、この矛盾の1つの例。

以上が僕が島根あさひ社会復帰促進センターという「恵まれた環境を通して見えてきた矛盾」です。

「どうしようもない人間にもチャンス(恵まれた環境)を与えるの?意味無いのに?」
「じゃあ、他のやる気のある人間はどうする?その判断は誰がどうやってするの?」
「そもそも被害者と加害者が本当に和解し合えるとこなんてあるの?」

色んな問いが今も自分の中でうずまき繰り返されている状況…。

正直、自分の中でもこの問題に対する「解」は出せていません。

なので、現時点での自分の考えをまとめておきます。

《まとめ》

・被害者(もしくは社会)からすれば、「加害者は厳しく罰せられるべき」というのは当たり前の感情。

・しかし、それを実行すると「社会全体の犯罪が増加する」という矛盾が生じる可能性がある。

・なので、加害者に対してある程度の「社会の理解・支援」というものが必要。

・ただ、加害者は「①這い上がろうしている(更生しようとしている)人間」と「②どうしようも無い人間」の2パターンに大きく分けられ、支援や恵まれた環境は①のタイプにのみ効果があり、②にはほとんど無い。

・だからといって「理解・支援は無駄」ではなく、まずは①の成功事例を積み重ねていく方向性で進んでいくべき。

・そうすることによって、加害者側の中間層(周囲に影響されやすい層)によい影響を与えて、広げていく。

・それが現時点でにおける「被害者・社会」と「加害者」の両方にとっての最善の選択肢ではないか。

・そして、まずは自分自身がその「成功事例」となるように生きていく。

以上です!

今日は島根あさひでの経験を通して感じた違和感に、自分の考え乗せて書き殴らせてもらいました。

いつも以上にまとまりの無い文章になってしまいスミマセン。

何かご意見、質問あればコメントにて受け付けます。

それでは今日はこの辺で。イノシシでした!!

【イノシシ獄中日記】はこちらから読むことができます。