【連載第4回】飢える者を食べさせるという「犯罪」岩田 太郎

「米フロリダ州南部フォートローダーデール海浜公園で、ホームレスに食事を配っていた90歳の慈善活動家、アーノルド・アボットさんが、警察に連行された」

飢える者を食べさせることが犯罪化されたと報じる、この2013年11月8日付ロイター電を読み、心を痛めた人は多いだろう。

ところがどっこい、アボットさんはその後も逮捕されていない。全世界の注目を浴び、当局者は手荒なことができなくなったのだ。

しかし、この条例をはじめ、「たむろ禁止条例」や「物乞い禁止条例」が全米各地の自治体で施行され、ホームレスであること自体が、さまざまな名目で犯罪化され続けている。

筆者が住むイリノイ州の大学街にある商店やレストランでは、ホームレスをすぐ通報する店もあれば、トイレの使用を黙認し、追い出さない店など、対応はさまざまだ。

路上生活者と最も直接的に接するのは商人であることが多い。できる限り、人間的な扱いをしようとする店もある。

フォートローダーデールの条例を推進したのは、政治的影響力を持つ地元商工会議所やビジネス団体だ。同情できる面もある。

ホームレスの人たちが、店舗周辺で所構わず大小の排泄をしたり、ごみを捨てたりするからだ。身なりの汚い、臭気を発する路上生活者が店の近くにいては、売り上げが落ちる。

だが、路上生活を犯罪化すると、彼らが生きるために必要な場所や食事まで奪うことになり、「すべては自己責任、弱者は生きるな」という強いメッセージを送る結果になる。

また、非人間的な対応をする商人だけを非難しても、問題は解決しない。

フォートローダーデールでは、路上生活者に230床の「ハウジング・ファースト」と呼ばれる短期のシェルターを無償で提供し、恒久的な住居に移れるよう援助する試みも始まっている。

ホームレス問題のこじらせ方は、社会の諸問題の縮図だが、そこにこそ社会全体の課題を解決するカギがある。ホームレスは犯罪ではなく、混沌とした世界を調和に導く処方箋の宝庫だから。