第二次トランプ政権の反移民政策がホームレス問題にもたらす影響

トランプ大統領は第二次政権スタート以来、移民の抑制および強制送還を目的とした数々の大統領令に署名している。その最たるものが「米国民を侵略から守る大統領令(Protecting the American People Against Invasion)」なる大統領令14159号で、「即時強制送還」を広く適用し、法的な在留資格がない、または申請中の人にも、就労許可を認めない措置を取ろうとしている。こうした反移民政策は、亡命希望者や正式な書類を紛失してしまった移民、一時的な移民資格しか持たない人たちに大きな影響を及ぼす。住まいが定まらず、ホームレス状態にある人たちにはとりわけ強烈な課題を突きつけている。

「聖域都市」への連邦政府からの補助金打ち切り

この大統領令の前には、ワシントンD.C.のような「聖域都市*1」への補助金が打ち切られる措置が取られた。これを受け、ワシントンD.C.の福祉局は在留資格についての情報収集を始め、その情報を連邦政府と共有するつもりなのかと問うと、市長執務室の広報担当から書面で次のような回答が寄せられた。「ワシントンD.C.は現在も、そしてこれからも、誇り高く、インクルーシブな都市であり続ける。私たちはこうした問題に賢明かつ戦略的に対応するつもりだ。私たちの価値観はこれまでと変わらず、その価値観を守ることへのコミットメントも変わらないと改めて申し上げたい」

*1 移民や難民の受け入れに寛容な都市のこと。ワシントンD.C.は、2020年の市議会の決議によって聖域都市としての地位を確立している。

参考記事:移民の人権を守る「聖域都市」は米国精神の体現。連邦政府と闘い、非正規滞在者を平等、公正に扱う|ビッグイシュー・オンライン

反トランプの看板。就任式の2日前、米国サンフランシスコ・ミッション地区にて。

移民関税執行局(ICE)の強制捜査の範囲を拡大

トランプ大統領はまた、バイデン政権時に導入された、教会や学校など「保護されるべき場所」を移民関税執行局(ICE)の強制捜査から守る指令を撤回した。全米ホームレス連合のエグゼクティブディレクターを務めるドナルド・ホワイトヘッドは、こうした捜査がまかり通れば、宗教施設を拠点に活動するシェルターや食事提供プログラムに影響を与え、強制捜査の対象になってしまうと懸念する。

ホームレス状態にある人々は法的支援サービスを利用した何らかの保護を得ることが難しいため、拘束や強制退去を受けるリスクが非常に高い、と語るのはワシントンD.C.の非営利組織「リーガルエイドDC」のディーパ・ビジュプリアだ。移民の法的支援サービスディレクターを務める彼女いわく、「(ホームレス状態にある人は)即座に拘束され、強制退去させられる危険性がもっとも高い人たちなので、在留資格をきちんと調べて、移民保護を申請できるようにすることがきわめて重要です。多くの人は、自分がどのようなサービスを受けられるのかがよくわかっていません。特に住まいのない人は、無料の法的支援サービスを見つけることすら難しいでしょう」

ホームレス状態の人々に、より厳しい措置

トランプ政権下での政策変更は、市民としての法的資格や永住資格があっても、それらの証明書を失くしてしまった人々にも影響する。ホームレス状態にある人や住まいが不安定な人は、何度も暮らす場所を変えたり、野営地の閉鎖を経験する間に、大切な書類を失くしてしまうことが少なくない。「合法的なグリーンカード保持者でありながら、盗難や紛失によってカードを所持していない人たちがいます。以前はそれでも問題になりませんでしたが、最近はそんな人たちもが移民当局に拘束されうるという話が聞こえてきます」とビジュプリアは言う。

弁護士は一般に、移民当局の職員が訪れた際には、司法令状がない限りドアを開けないようアドバイスするが、ホームレス状態にある人々には、家のドアのような物理的に身を守ってくれるものがない。何らかの法的地位をもつ人にとっては、書類を提出することが身を助けるかもしれないが、法的地位がない人の場合はそうはいかない。

そのような人は黙秘権を行使できる、とビジュプリアは話す。「組織、とくに強制執行を受けるリスクのある組織は、あらかじめ計画を立て、自分たちにどのような権利があるのかを知っておくことが本当に重要です」。支援サービスの提供者もまた、移民当局が訪れた際にどのように対処するかを考えておくべきだという。

リスクの高い人々にとって今できる最善のことは、移民資格の調査(スクリーニング)を受けることだとビジュプリアは強調する。リーガルエイドDCでは、毎週月、火、木曜に事務所で無料のスクリーニングを提供している。「できるだけ早くスクリーニングを受け、救済措置があることを確認してください。申請すれば、何らかの保護が受けられる可能性がありますから」

トランプ大統領は毎日のように大統領令を出し続けているが、それらの政策変更が具体的にどのようなスケジュールで実施されるのかはまだ不透明だ。1月23日、米議会上院の銀行・住宅・都市問題委員会は、スコット・ターナー氏の任命について、上院本会議での投票にかけることを決定した。(補足:その後、スコット・ターナーが住宅都市開発長官に任命された)。

「議員は誰もが安全に暮らせる世の中を作るのが仕事」

トランプ大統領と共和党議員が、公的支援プログラムの削減、ハウジングファースト施策の停止を打ち出すなか、ホームレス支援者たちは選挙で選ばれた両陣営(民主党と共和党)の議員にしっかりと責任を果たすよう働きかけを続けている。「トランプ政権であろうと、カリフォルニア州のニューサム知事(民主党)政権であろうと、ホームレス状態にある人々を施設に強制収容するなど到底受け入れられません」と全米ホームレス法律センターのコミュニケーションディレクターを務めるジェシー・ラビノウィッツは訴える。「解決策は収容施設ではありません。誰もが安全な場所で暮らせる社会となるよう、市、州、連邦レベルの選挙で選ばれた者たちがしっかりと自分たちの仕事を果たすことです」

By Franziska Wild
Courtesy of Street Sense / INSP.ngo

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