【連載第12回】車中泊さえ禁止するロスの条例 岩田 太郎

そのホームレスの芸術家は2011年のある日、自分の「家」である車の中で雨宿りをしていた。

そこへ住民の通報で警官が現れ、運転席に座っているだけでも、「車を住居とすべからず」とする条例に違反するとして逮捕し、車も没収した。

ロサンゼルス市の芸術家村であるベニスビーチでの出来事だ。

同市の5万4千人のホームレスのうち、5千人が3千台の車を家代わりに生活する。

彼は連邦裁判所に訴えたが、下級審で敗訴。日本の高裁に当たる巡回裁判所に上訴し、2014年6月に逆転勝訴した。

判決は「条例には、車中で飲食をしたり、持ち物があるだけで『車両を住居としている』と解釈できる曖昧さがあり、貧者と裕福な者に平等に適用できない」として、条例は違憲だとの判断を示した。

だが、ベニスビーチの住民が「判事たちは、車中生活者が所かまわずごみを捨て、ケンカを始めたり、勝手に住民の土地に侵入する問題と直接向き合わなくてもいいから、こんな判決を下すのだ」と抗議した。

住民組織の代表は「精神病の人や犯罪予備軍が、玄関の前に駐車して暮らしていても、何もできないなんてバカげてる」と訴える。

突き上げを喰らった市は現在、曖昧さをなくした車中泊禁止の新条例の市議会通過を狙う。

車中生活者の市に対する訴訟を引き受けたキャロル・ソーベル弁護士は「車上生活者の大半は、中流の人が失業したり、不況で家の差し押さえを受けたケースが多い」と解説。

「市はまず慢性的な路上生活者や帰還兵のホームレスに優先的に住居を提供しなければならず、以前住居のあった車中生活者は2年の待期期間を経なければ、ホームレス向け住宅に入居できない」という。

市のホームレス対策費は年間1億ドル(約120億円)だが、そのほぼすべての87%が逮捕など警察出動に使われ、路上・車中生活者を追い詰めるものばかりだ。

取り締まり費用の100億円を住宅提供や雇用創出に使うという考えは、誰の頭にも浮かばない。

創意工夫の欠如ではなく、貧者・弱者への悪意ある政策としか思えない。