トランプ政権のホームレス対策:根拠なき迫害で状況が悪化する可能性

ハウジングファースト施策*1 の否定、路上生活を犯罪として取り締まる、住宅支援プログラムの削減……共和党が過半数を占める議会に支持された第二次ドナルド・トランプ政権発足に伴い、ホームレス当事者ならびに困窮者支援関係者らの懸念は尽きない。

*1 ホームレス状態にある人たちに最初に住まいに入居させ、その後で精神疾患や薬物依存など個々人が抱えている問題の改善に取り組む施策。

トランプ大統領は第一次政権下で、エビデンスに基づくハウジングファースト施策を否定し、低所得者支援プログラム反対派の人物にホームレス対策を任せた過去がある。最近のトランプ大統領の発言ならびに「プロジェクト2025」の提言内容を踏まえると、第二次政権下ではさらに思い切った施策が取られると考えられる。トランプ政権はこれからの4年間でホームレス問題にどういった施策を取りうるか、その方針転換がワシントン市民ならびにアメリカ人全員にどんな影響を及ぼしうるかーー公表されている声明や過去の政策決定を基に、ワシントンD.C.のストリートペーパー『ストリートセンス』誌が考察した。

カリフォルニア州ロサンゼルスの道端に立つホームレスのテント。/iStockphoto

複数のテント村を郊外に移設し、半永久的なテントシティの建設を主張

ホームレス問題に関するトランプ大統領の発言は、テント村に関するものが多かった。路上生活者の存在が人目につくことを非難し、テント村ごと郊外に移設するよう訴えてきた。直近の大統領選挙戦では、ホームレス対策は政治問題だと繰り返し訴え、民主党基盤の都市の市長を非難した。

アメリカファースト政策研究所(AFPI)1 主催のアメリカファースト・アジェンダサミット2022で行われたスピーチでは、ワシントンDCのテント村は諸外国のリーダーたちに「悪い印象」を与えていると攻撃し、「郊外にある大規模な安い土地」を使って半永久的なテントシティの建設を提案。「ホームレス状態にある人たちを移さなければならない」と息巻き、強制移住を支援すると述べた。2023年の大統領選の動画2 でも、「都市部での野営を禁止」し、テントシティに人々を強制移住させ、「この禁止令に従わない者は逮捕されるだろう。だが、社会復帰したい者には治療やサービスを受ける選択肢を与えよう――多くの者は望まないだろうが、我々は選択肢を与える」と述べている。

*1 トランプ大統領の政策アジェンダを推進するため、2020年末に米テキサス州の富豪3人によって結成された非営利シンクタンク。
*2 Agenda47: Ending the Nightmare of the Homeless, Drug Addicts, and Dangerously Deranged

まだ全米レベルでの野営禁止令の実施には至っていない。ワシントンD.C.の影の上院議員アンキット・ジャインいわく、この施策には議会法の制定が必要だろうという。連邦政府レベルで禁止令を発するかどうかにかかわらず、トランプ大統領の物言いや政策提言が全米各地に及ぼす影響をホームレス支援関係者たちは懸念している。

米国ホームレス法センター(NHLC)でコミュニケーション・ディレクターを務めるジェシー・ラビノビッツが特に懸念するのがテントシティ計画で、ホームレス状態にある人々をかき集めて、国営の収容施設に送り込むようなものだと非難する。「人々を強制的に野営地に送り込むと何が起きるのか、すでに多くの事例を国内でも世界的にも目にしてきました。うまくいったためしがありません。あいにく現政権は、ホームレス問題の本質的解決に関心がなく、不遇な立場にある人々を分断しようとしています」

Photo by Madi Koesler

ホームレス状態を犯罪とみなす動きの加速化か

全米ホームレス連合の事務局長ドナルド・ホワイトヘッドは、トランプ大統領の発言は、米最高裁の2024年の判決3 を受けて加速している、ホームレス状態を犯罪とみなす動きをさらに促すのではないかと懸念している。この判決により、地方自治体はテントや毛布など身を守るものを持って野外で寝ることを禁止する法案を可決できるようになった。「すでに政府内部では、ホームレス状態にある人たちを非人間的に扱う、あるいは犯罪とみなす動きが確認されていて、全米規模でこうした禁止令が出されるおそれがあります」。米最高裁の判決以降、全米で100以上の都市が野営禁止令を出したことが、米国公共ラジオ放送(NPR)の分析で分かっている4 。「トランプ大統領の発言は、こうした動きを1000倍にも強めるでしょう」

*3 2024年6月、最高裁は「グランツパス市対ジョンソン判決」で、野営禁止条例を支持する判決を出した。
*4 100-plus cities in the U.S. banned homeless camping this year. But will it work?

トランプ大統領は、連邦レベルでの方針変更に加えて、アメリカ合衆国国立公園局(NPS)の監督を通じて、ワシントンD.C.の野営地に直接的な影響を及ぼすことができよう。ワシントンD.C.内で野営できる緑地の大半は連邦政府の土地で、連邦政府機関であるNPSが管理している。NPSによる野営地閉鎖にトランプ大統領が介入するかどうかは不明だが、これまでのトランプ大統領の発言を踏まえると、野営地閉鎖が増える可能性を支援関係者や地域リーダーらは懸念している。

NPSはバイデン政権下でもワシントンD.C.の野営地をいくつか閉鎖した、とラビノビッツは指摘する。2023年以降、NPSは市内の公園(ロック・クリーク公園、マクファーソン広場、フォギーボトムの政府の土地など)から野営地を撤去させる方針を取り、野営していた少なくとも2人を逮捕した。「NPSはバイデン政権下でもホームレス状態にある人たちにかなり厳しく対応していました。その厳しさがさらに増すのではと懸念しています」とラビノビッツ。

ワシントンD.C.のミューリエル・バウザー市長がトランプ政権のホームレス施策に協力的な姿勢を示せば、連邦政府の土地と市の土地の両方で野営地の撤去が増える可能性もある。トランプ大統領と面会したバウザー市長は、「トランプ大統領も私も、ワシントンD.C.を世界で最高の、最も美しい街にしたいと考えています」との声明を出した。「私には『ワシントンD.C.政府は、トランプ政権と共に、ホームレス状態の人たちを公園から締め出します』と言ってるようにしか聞こえません」とラビノビッツはこぼす。

野営地の閉鎖は間違いなく破壊的で衝撃的だとホームレス当事者たちは言うが、市による閉鎖ではまだ、前もって文書による通知があるなどの手続きが取られている。野営地の住人には数週間前に通知し、ケースマネジメントやシェルターを提供することを定められているのだ。しかしこれは、連邦政府の土地には必ずしも当てはまらない。「ワシントンD.C.政府による閉鎖はNPSよりも計画的で、支援サービスの提供などを伴うものでした。今後、この違いが問題となるでしょう」とジャイン上院議員は言う。

ホームレス問題への有効解決策に理解のない人物が対策にあたった第一次政権

ホームレスに関する閣僚理事会(ICH)は、ホームレス問題対策に責任を有する連邦政府機関だ。トランプ大統領は第一次政権ではロバート・マーバットを理事に任命した(現政権ではまだ理事を指名していない)。マーバットはホームレス状態に陥るのは個人の問題とみなし、ホームレス状態にある人を助ける最善の方法は住む場所を提供することだというホームレス支援関係者の間で一般的な考え方に反する施策を取った。

マーバットは任期中、その方針や発言について、ホームレス支援関係者や専門家からの厳しい批判を浴びた。NPRとのインタビューでは、ホームレス支援に当てられる資金の93%は「アルコール、薬物、売春」に使われていると語り、この数字を裏付ける調査があるのかと追求されると、「私たちはたくさん調査を行いました」と述べるだけで、具体的な情報は何も言わなかった。物乞いをしている人たちが収入の大半を食べ物に使っていることは、研究で示されている。ICHの理事を務めるまで、さまざまな都市で「ホームレス・コンサルタント」をしていたマーバットが推進したのは「ハウジング・フォース(Housing Fourth)」と呼ばれる戦略で、まず最初に住まいをあてがい、それから精神疾患や薬物依存など身辺支援サービスを提供する「ハウジング・ファースト」の逆を行くものだ。住まいをあてがわれる「前に」、薬物依存や精神疾患の問題に対処することを強いるのだが、ホームレス撲滅のための全米同盟によると、ホームレス状態にある人々のうち、薬物依存は7人に1人、深刻な精神疾患は5人に1人で、大多数はそうした問題を抱えていない。過去数十年、慢性的にホームレス状態にある人たちに対して連邦政府が取ってきた施策の核はハウジング・ファーストで、その有効率は90%だった、とホワイトヘッドはいう。

現トランプ政権はハウジング・ファースト施策への攻撃を強めている。これまでの施策により国内のホームレスが18%増加したと訴えているが、実際は全米各地で手頃な価格帯の住宅が不足しているためだとラビノビッツは指摘する。「ホームレス状態にある人々が増えているのは、ハウジング・ファーストがうまくいかなかったからではありません。議員たちが、すべての人が住まいを確保できるようにするという任務をしっかり果たせていないことが原因です。なのに、データに裏付けられ、各地で成果を上げているプログラムに責任を転嫁しているのです」。トランプ大統領が再びマーバットのような役立たずで、ラビノビッツいわく「残酷な」施策を取る人物ではなく、「ホームレス状態にある人々たちに配慮する人」であってほしいとホワイトヘッドは願っている。

By Franziska Wild
Courtesy of Street Sense / INSP.ngo

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