再生可能エネルギーへの転換は避けられない。でも地球の危機を押し留めるのに間に合わない?

気候変動は、今なお意見が二分する問題の一つかもしれないが、専門家によれば、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換は世界中で加速しているという。風力の発電量が増加し、アメリカでは今や9000万世帯以上に供給するのに十分な電力量を発電している。

また、中国では現在、ウィンドファーム(集合型風力発電所)による発電量が原子力発電所の発電量を上回っており、石炭の利用は頭打ちになるとみられている。電気自動車は今後、今よりはもっと気軽に買えるものにはなるが、再生可能エネルギーをもっと気軽に利用できるようにするには今以上の速さで促進する必要があると専門家や推進派は指摘する。

「再選を願う政治家が、石炭、石油、天然ガスとのつながりは自身の政治生命を揺るがしかねないと考えるようになる日は遠くないだろう」と、環境保護団体グリーンピース・アメリカのカイル・アッシュは言う。

気候変動は、今なお米議会が真っ二つに分かれる問題の一つかもしれない。しかし、共和党は断固として認めようとしないが、専門家によれば、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換は既に本格化してきているという。

ワシントンに拠点を置く米民間シンクタンクのアース・ポリシー研究所は新刊の中で、太陽光発電(PV)パネルの価格が(2009〜2014年でそれまでの4分の3の、1ワット当たり70セント以下に)急落したおかげで、PV業界が年50%成長したことを明らかにしている。

風力発電量に関して言えば、過去10年で年間20%増となり、アメリカでは今や合計36万9000メガワット――9000万世帯以上に供給するのに十分な電力量を発電している。中国では現在、ウインドファーム(集合型風力発電所)による発電量が原子力発電所の発電量を上回っており、石炭の利用は頭打ちになっているとみられている。

「ウインドファームとPVシステムは、再生可能エネルギーの成長を支え続けるだろう」と、アース・ポリシー研究所の新刊『大転換』(The Great Transition)の共著者マシュー・ロニーは説明している。「コストも下がり続けているおかげで、この2つは既に定着している。“燃料”はどこにでも、ふんだんにある」

国連の潘基文事務総長が提案した国際的なイニシアチブ「万人のための持続可能なエネルギー」と、新たな開発目標が実現される日も遠くはないだろう。そんな中で、資金提供者も政治家も、こうした実証済みのクリーンなテクノロジーの大幅改善に目を向けている。

「太陽光発電のメリットの1つは、世界中の送電網の平均的コストの競争力を著しく上げているだけではなく、今なお電気のない地域に住んでいる13億人の人々の多くに経済的な意味を生むことだ」と、ロニーは言う。

本書は、現在、70カ国が固定価格買取制度を導入していることも指摘している。固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーの生産者と長期契約を結ぶことで再生可能エネルギー技術への投資を促す政策だ。

また、20数カ国がRPS制度(再生可能エネルギー利用割合基準。電気事業者に対して、再生可能エネルギーによる発電を一定割合以上利用することを義務付けた制度)を採用し、37カ国が再生可能エネルギーの生産者や投資家に税控除を行い、40カ国がカーボン・プライシング(二酸化炭素[CO2]に価格をつけること)を実施するか、導入を計画しているという。

アメリカでは、石炭の依存度は2007〜2014年で21%減少した。また、全米の石炭発電所の3分の1以上が既に閉鎖しているか、閉鎖を予定している。

しかし、環境NGOのグリーンピースや市民環境団体からは、エネルギー業界はCO2の回収・貯留(CCS)を推進しているが、それは利己的な見せかけだという批判が上がっている。CCSとは、発電所などの大規模な排出源から排出されるCO2を大気中に拡散させないよう分離・回収し、地中に貯留することを指すが、グリーンピースはこれを「CO2回収詐欺」と呼んでいる。

グリーンピースが行った最近の分析では、オバマ米政権は、推進している「上述のすべての」エネルギー戦略の一環としてCCSを支持するとしながら、政府独自の試算として、CCSのコストは、太陽光発電比ではCO2を1キロ回収するのに40%近く増え、風力発電比では125%増、地熱発電比では260%増になると発表している。

「ご都合主義のオバマ大統領が誠実であるなら、再生可能エネルギーを支持することが大統領選に勝つ戦略だったと認めるべきだ」と、グリーンピースUSAの議会担当幹部、カイル・アッシュは手厳しい。

「彼らには本腰を入れて取り組む気はあるのか? アメリカの競争力とエネルギー自給に本当に関心があるのか」とアッシュは問いかける。「オバマ大統領と米議会は、エネルギー生産に関しては、再生可能エネルギーが未来に対する唯一の道であることを認める根拠を十分に揃えていない。

政治家が心から再選を望むのであれば、石炭、石油、天然ガスとのつながりは自身の政治生命を揺るがしかねないと考えるようになる日が近くやってくるだろう」とアッシュは言う。

米環境保護庁(EPA)が提案したCO2の規制では、新設された石炭発電所はCO2を回収しなければならず、また、CO2を使用する場合は原油の増産のためでなければならない。CO2を圧入すると、油田から抽出される原油量が増すためだ。

しかし、グリーンピースは、CO2は貯留するよりむしろすぐ油井に戻されてしまい、アメリカのすべての大手発電所のCCSプロジェクトは、分離回収したCO2を原油抽出業界に販売することのほうが主な目的になっていると主張する。

「私たちには、自分たちに味方してくれるデータや技術、気候科学があるだけではなく、国全体としても、水圧粉砕法(によるシェールガス開発)やタールサンド、石炭輸出、そして時代遅れの業界がしがみつこうとしている方法に反対する人々が増えてきている」とアッシュは言う。

「CCSは、石炭を政治的に手厚くもてなそうとする最後のあがきだ。石炭業界は劣悪な労働環境で、環境にも大変な悪影響をもたらすことはよく知られている。私たちが今すぐ手厚くもてなすべきなのは石炭業界の労働者と環境だ」

オバマ政権は、環境団体からは、少なくとも問題は認識しているということでは評価を受けてきた。グリーンピースもその中に含まれている。オバマ大統領は、今年のアース・デーに動画で声明を発表し、「今日、地球にとって気候変動より大きな脅威はない」と明言した。

難問は、ほとんどの科学者が指摘しているように、再生可能エネルギーへの転換が、2020年までに気温の上昇を2度以内に食い止めるのに間に合うかどうかだ。2度以上気温が上昇すれば、地球は壊滅的な未来を迎えるかもしれない。

「世界の再生可能エネルギーの採用は、5年前に誰もが予想していたよりは速やかに、正しい方向に向かって進んでいるが、このレースはまだ決して終わっていない」とロニーは言う。

「カギを握るのは、輸送部門に電力を供給して石油の利用量を減らすことだ。しかし、電気自動車(EV)の利用は、大きな影響力を生むほどの速さではまだ進んでいない」

ロニーは、スイスに拠点を置く世界的な金融機関UBSが、EVの大部分の価格は2020年までには半分に下がり、EVは従来の自動車と十分に対抗し得る存在になると主張していることを指摘した。

「その時点で、ガソリンで走る車よりEVのほうが気軽に買えるよううになり、年間で最大2400ドルものガソリン代が浮くようになると言われている。さらに、気候変動を手に負えないレベルの一歩手前で押し留めるようにエネルギー転換を進めるには、カーボン・プライシングが最も効果的な方法になるだろう」とロニーは言う。

「明るいニュースもある。それは、中国を含めて現在、約40カ国がキャップ&トレード制度(排出量取引制度。各企業のCO2排出量に上限を設定し、超過・不足分を公開入札で売買する)や炭素税を通してカーボン・プライシングを導入するか、導入を検討していることだ。

アメリカで国を挙げてのキャップ&トレード制度が2016年に始まれば、世界のCO2排出量のおよそ4分の1に価格が付けられることになる。十分とは決して言えないが、幸先はいい」