【連載第14回  米国・路上から】米上院で働くホームレス   岩田 太郎

米上院は、議事堂の食堂で床掃除をして働く下請け労働者が生活していけるだけの給料を支払っていない。

黒人掃除夫チャールズ・グラデンさん(63)の週給は360ドル(約4万3千円)であり、月給換算ではドル高の現在でさえ17万2千円くらい。グラデンさんは、この薄給のほぼすべてを3人の娘や孫に与えてしまう。

そして驚くなかれ、世界一豊かな米国の連邦議会で働く彼は、持病の糖尿病の医療費がかさんで家を失い、過去5年の間ホームレスなのである。

慢性の病を患いながら一所懸命働き、夜は首都ワシントンの市バスの屋根付き停留所で寝ている。

グラデンさんは「ホームレス・シェルターは危険だから、いやなんだ。糖尿病の治療薬であるインシュリンを、ハイな気分になるために盗む奴らがいてね」と語る。

彼の境遇が主要メディアに取り上げられるようになって、真っ先に立ち上がったのは高給取りで億万長者が多い上院議員や下院議員たちではなかった。

まず、議事堂で働く一般の職員たちが数ドル単位でグラデンさんに寄付をするようになった。

報道に心を痛めた、90年代を代表するR&Bグループ、ボーイズ・II・メン(Boyz II Men)のメンバー、ネイザン・モリスさんは一般の寄付を募って1万2千ドル(約150万円)を集め、その金額と同額のお金を自費から拠出して2万4千ドル以上をグラデンさんに手渡した。

一部は彼のアパート入居に使われる。

だが、グラデンさんは厚意に感謝しながらも、それらが「一時的な止血策に過ぎない」という。

なぜなら、対症療法は病根である、連邦政府の下請け労働者の低給を根治できないからだ。真の解決策は、人々が人間らしい生活ができる昇給しかない。

グラデンさんの問題に、どの議員も介入しなかったことは、問題の根深さを象徴している。

国民の代表であるはずの彼らは、今や大企業や多国籍企業の代表者となり、民衆の生活向上より、企業や投資家の権利拡大にしか興味がない。

グラデンさん自身は、労働者がよりよい待遇を要求すべきだと述べている。