金持ちや教授の息子が、ホームレスに「身を落とす」こともある。
2013年12月に77歳で病死したアル・ゴールドシュタイン氏は、過激路線を追求して競合誌に勝ち、1970年代と80年代に売り上げ部数を伸ばしたポルノ雑誌『スクリュー』の創刊者だ。
暗殺されたケネディ元米大統領のジャクリーン元夫人を「脱がせる」など、話題に事欠かなかった。
そのようにして儲けた(正確には搾取した)お金で彼は富裕層が好んで住むフロリダに豪邸を建て、億万長者として贅沢な生活を送っていた。
だが、性産業の多くがインターネットに移行する波に乗り遅れて事業負債が膨らみ、03年に自己破産した。
翌年に家を失った元ポルノ王は、一時的にホームレスシェルターに住み、次いでファストフード店の裏に駐車したクルマの中で生活した。以前の行状からすれば、自業自得と言われてもしかたない。
彼が追い詰められホームレスになる前に助けてくれる人はいなかったようだ。
友人たちは、ゴールドシュタイン氏が羽振りのよい時は仲よくし、落ちぶれた途端に離れていった。芥川龍之介の小説『杜子春(とししゅん)』に出てくる名ばかりの友人たちの「手の平返し」を彷彿とさせる。
一方、故リカルド・チェイニー容疑者(享年32)は、オレゴン大学で人類学を教えていた教授の成人した息子だったが、離婚後に自暴自棄的な生活を始め、ホームレスになった。
軽犯罪に手を染め、自ら制作したポルノを売って生計を立てるなどした後、14年3月に同大学で教えていた知人である先住民の講師を射殺して北カリフォルニアに移動、公安と銃撃戦になって保安官1名を撃ち殺した末、射殺された。
彼の死後、前妻や親族に地元紙が取材を試みたが、全員コメントを拒んだ。彼がいかに孤立し、疎まれていたかが明白だった。
ゴールドシュタイン氏にせよ、チェイニー容疑者にせよ、「ろくでなし」であったことは疑いない。だが、たとえどんな人でも完全に見捨てず、孤立に追いやらないことが、社会全体の安定につながるのではないか。