日本全国に約3200館あるという公共図書館。あなたの地域の図書館はどのようなもので、あなたはどのくらいの頻度で利用しているだろうか。
日本の図書館関係者は、利用者のリクエストに徹底的に応えるという形で堅苦しい図書館のハードルを下げてきた。2月1日発売のビッグイシュー日本版・304号の特集では、全国の公共図書館の取り組みから驚きの事例を紹介している。304号から一部読みどころをピックアップ。
日本で最も人口の少ない鳥取県の県立図書館なのに、資料購入費は全国4位を維持
その予算が通る理由は、ヒット商品をも生み出すビジネス支援
鳥取県と言えば最も人口が少ないことで知られている。そのなかの図書館において、資料購入費が1億円と全国4位を維持しているという。
図書館を「無料貸本屋」と捉えたら、この予算はとてもではないが、少ない人口に不釣り合いな資料購入費と思えてしまう。
しかし、鳥取県立図書館は、「県民に役立ち地域に貢献する図書館」というミッションを明確にし、「地元企業のビジネス支援」にも力を入れている。
図書館への継続的な相談が商品開発につながり、東京国際展示場ビッグサイトでも採用されるほどの商品を生んだ事例や、台湾のマンションへの大量納品が決まったエコ商品の開発の相談事例などが紹介されている。
これは「無料で本を借りる場所」というより、まるで「無料コンサルタント」、「無料マーケティング支援サービス」のようなものだ。
どんな相談をしても受け止めてくれる司書がいるなら、市民が利用しない手はない。
利用者が増えてビジネスが活性化すれば、税収も増える。
これは「図書館運営を外注、機械化でコスト削減しました」と言って胸を張るマインドの人たちには決して追いつけない。地方だからこその本気を感じられる本誌のインタビューは必読だ。
人口17,000人の町の図書館「まちとしょテラソ」が、「死ぬまでに行きたい世界の図書館15」に選ばれた理由
長野県の小布施町旧図書館は町役場の調査の3階にあり、手狭でエレベーターもないという、「バリア」ありの不便な場所だったという。それを、町民の意見を受けて<学び・子育て・交流・情報発信の場>という4つの柱を軸にした文化の拠点に生まれ変わった。
館長も公募、旧図書館からの引っ越しは町民がバケツリレーで手伝ったというだけあって、交流を生む、リラックスできる場所に生まれ変わったという。
来館者は旧図書館の6.5倍になったが、スタッフは開館当初の半分以下の7人、資料購入予算は年間350万円。限られたパワーと予算の中で、人々の交流を生む企画が紹介されている。人の少なさ、予算の少なさに苦しむ多くの人に勇気を与える内容だ。
「住みたい図書館」、武蔵野プレイス。
コンビニ前にたむろする青少年を排除するのではなく包み込むその活動の効果は無限大
次は東京都武蔵野市の複合型図書館「武蔵野プレイス」だ。
開館前には行列ができ、この施設が気に入って近くに引っ越す人がいるというほどの施設は、多い日で1日に8000人が訪れる人気スポットだ。
さまざまな企画の紹介のほかに、胸を打つのは青少年向けの取り組みだ。
居場所がなくコンビニ前にたむろする青少年たちを、若者にしか聞こえないという不快な周波数の「キーン」音を流し、寄せ付けないようにする取り組みをする地域があると聞いたことがあるが、この武蔵野プレイスの取り組みはまったく逆。コンビニ前にたむろしかねない青少年を進んで受け入れる場所となった。その設備の豊かさと、職員の構い度は本誌にて紹介されているが、「こういう場所があれば、居場所のない若者が減り、社会課題とそれにかかる対応コストも減るのではないか」と期待してしまいそうな内容だ。
排除より包摂、これからの社会が目指す姿がそこにあると感じられる。
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今回の特集では、ほかにも市民が年間200回のイベントを運営する伊丹市立図書館や福島の、6万人以上が利用した移動図書館の例も紹介。
どの図書館も、「いいなあ、そんな図書館があるなんて」と言いたくなる素晴らしいものですが、その状態は市民からの働きかけがあってこそ。嫉妬している場合ではなく、自分も前向きに声をあげていかねば、と思わせる内容です。
図書館好きの人も、そうでない人も、何かのヒントになりそうです。
ぜひ路上にて、ビッグイシュー日本版・304号、お求めください。
販売者が近くにいない場合も…
ビッグイシューが読める図書館は全国にあります。
ご利用の図書館に扱いのない場合はぜひ、図書館司書にリクエストしてみてください。
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