『ファインディング・ドリー』が環境災害を引き起こす?: ディズニー映画人気とペットブームについて知っておきたいこと

ディズニー映画『ファインディング・ドリーの公開により、またもやハリウッド発のペット旋風がやって来る。ただし、今回の主人公「ナンヨウハギ」は体長20-30センチにも成長し、トゲには毒がある。動物愛護団体は、アニメ映画『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズの影響で「亀ブーム」が起きた時のように、育てられなくなって見捨てられるペットが増えることを懸念している。その一方で、野生のナンヨウハギは生態系のことなんてお構いなしに不法捕獲されつづけている。はたして動物映画はヒーローとなるのか、悪役でしかないのか。

*この記事は2016年にThe Big Issue UKに掲載されたものを翻訳したものです。

動物アニメ映画が火付け役となって起こるペットブーム

映画に出てくるようなキュートな動物をペットにしたいとは誰もが思うもの。肩にちょこんと乗っかり夕食の準備を手伝ってくれるネズミ、一緒にピザを食べてくれる亀。映画『ボブという名のストリート・キャット』(イギリスでは2016年11月公開。日本では2017年夏に公開予定。)のように、前足でハイタッチしてくれるトラネコなんてたまらない。ペットにしたくなるのは当然だし、子供たちの夢に登場するのはこんな動物ばかりだ。

この夏は、ピクサー映画『ファインディング・ドリー』の公開で、子どもたちからナンヨウハギのグッズを買って!とおねだりされる親が続出することだろう。しかし現実は、エレン・デジェネレスが声優を務める愛嬌たっぷりのキャラクターのように魅力あるものではない。それどころか、環境災害を引き起こしかねないのだ。

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Actress Ellen DeGeneres attends The World Premiere of Disney-Pixar’s FINDING DORY on Wednesday, June 8, 2016 in Hollywood, California. Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images for Disney

銀幕スター、ニモ(クマノミ)に起きた甚大な影響とは

バンビ、ベイブ、、、かわいい動物が主人公の映画はこれまでにもたくさんあった。しかし、銀幕での名声による強烈な被害を動物界で最初に受けたのはクマノミだ。

2003年公開の映画『ファインディング・ニモ』の人気がオレンジと白の縞模様の魚クマノミの需要を生み出し、絶滅寸前にまでなったのだ。オーストラリアのグレートバリアリーフでは、毎年100万匹以上のクマノミが密漁されており、販売されているものの90%は野生である。

この事態を懸念したオーストラリア南西部フリンダース大学の海洋生物学者カレン・バーク・ダ・シルヴァは、10年前に、捕獲されたクマノミを繁殖させて水族館に提供することで問題解決を目指すプロジェクト「ニモを救う会(Saving Nemo)」を同僚らと共に発足させた。

「映画の公開後、クマノミの需要が劇的に増加しました。今でも、クマノミをペットにしたい人はたくさんいて、水族館の取引でも高い需要があります。数百万ドル単位のお金が動き、数百万匹もの野生魚が捕獲される巨大な産業です」ダ・シルヴァは言う。

映画の人気により甚大な影響がもたらされた野生クマノミだが、サンゴ礁から家庭の水槽へと急激な環境変化を乗り越えさえすれば、あとは水槽の中で快適に生息することができる。しかし、ドリー(ナンヨウハギ)の場合はそうはいかない。

「とりわけ、ナンヨウハギの今後が心配です。ナンヨウハギは100%サンゴ礁で捕獲されていますから、ブームが起こったらそれこそ深刻です。密漁が続けば、種が絶滅の危機に瀕するでしょう。」

ドリーをペットとして飼う覚悟、本当にありますか?

『ファインディング・ドリー』による需要増加を見越して、約30万匹のナンヨウハギが世界中で取引されている。しかしこの魚を一匹買うことは、手痛い過ちになりかねない。

「ナンヨウハギはペットとして飼うには適していません。毒のトゲに刺されるかもしれませんし、一般の家庭用水槽に入りきらないほど成長しますから。」

体長約30cmにもなるドリーを家で飼うには、約300リットルの水槽(90cmほどの水槽が望ましい)が必要だ。もはや、かわいらしいなんてレベルではない。

ペットブームは今に始まったことではない。ニューカッスル大学(イングランド)の地理学者サイモン・ドリューは、1980年代後半に映画『ミュータント・タートルズ』を見た彼の弟が亀を飼いたがったことで起きた災難をよく覚えている。当時は亀をペットショップで簡単に買えたが、世話の仕方についてはほとんど情報がなかった。「結局、世話をまかされた母が餌をやり、小便臭くなった水槽を掃除していました。ある日、僕らが学校から帰ると、母が亀を近所の公園にある池に放してしまっていたのです。」

スコットランド動物虐待防止協会の最高責任者シャーロン・コムリーも、この映画が自身が運営していたペットの里親募集センターに大きなインパクトを与えたと言う。「映画公開後、我々のセンターに保護される亀の数が急増しました。簡単に飼えるだろうと勘違いし、世話にどれほどの時間と責任感が必要かをよく考えずに亀を飼う人が増えたのです。また、亀は散歩に連れていったり、抱っこしたり、一緒に遊んだりができないので、飼い主は退屈してしまうのです。亀は長いと60年も生きますから、軽い気持ちでペットとして飼うものではありません。」

犬や猫でも、一生涯きちんと世話できるのかを慎重に考えて

ブリストル大学とニューヨーク市立大学が2014年に実施した調査によると、人は毛がふさふさした動物に対してはより誠実なのだそうだ。特定の犬種が流行ることは、映画が世に出てから長くて10年ほどだ。イギリス「ケネルクラブ」発表の統計によると、ディズニー映画『101匹わんちゃん』が公開された1961年には906人だったダルメシアンの飼い主の数は、その後10年で3,000人まで増えた。以降も、その数は減るどころか横ばいが続き、実写版が公開された1996年にピークに達したという。

このことは、この冬、映画デビューを果たす『ボブという名のストリート・キャット』には何を意味するだろうか。ビッグイシューの販売員ジェームズ・ボーエンと彼の人生を救った猫の実話を描いたこの作品は、多くの人の心をつかむに違いない。近い将来、裏庭には茶色い子猫があふれるのだろうか?
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「ボブという名のストリート・キャット」は、 猫とともにビッグイシューを販売する青年の物語。

 雑誌「ユア・キャット」のライター、キャロライン・クックは言う。「この映画のように有名になった猫が人の感情を揺り動かし、サポートが必要な猫事情を浮き彫りにする。そのことで、捨て猫や野良猫たちに新たな飼い主が見つかるのなら、それは悪いことではありません。でも映画を見て、単純に『こんなペットがほしい!』と思う人には慎重に考えてほしいですね。その動物の一生涯を、経済的にも感情的にも世話できる覚悟があるのかどうかを。」

ですから、この夏、ハリウッド映画を見た子供たちから「こんな魚を飼いたい!」とせがまれても、ショップでキュートなぬいぐるみ版ドリーを買う方がずっと無難だろう。そうすれば、60年間も水槽の掃除に追われることも、リビングルームに毒針を持つナンヨウハギが生息することも、望まれない子猫や子犬が生まれることもないのだから。グレートバリアリーフの生態系を守り、ペット斡旋団体の仕事を大幅に減らすことにもなるから、大した代償ではない。結局のところ、魚は話しができないこと、ダルメシアン犬は結婚しないこと、亀はピザを食べないことは、誰もが知っているのだから。

(ライター:ルーシー・スウィート)
ISNPのご厚意による/The Big Issue UK

ナンヨウハギの繁殖に世界で初めて成功!

先週、フロリダ大学の海洋生物学者らが、映画『ファインディング・ドリー』の主人公であるナンヨウハギの繁殖に初めて成功したという画期的な報告をおこなった。
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Credit: University of Florida

 これは意義深い発見だ。現在、水族館にいるナンヨウハギはすべて自然界から捕獲されたもので、そのほとんどは違法なのだから。
今回の成功は、「ライジング・タイド・コンサベーション」からの資金提供を受けておこなわれた6年間の研究のたまものだ。繁殖チームメンバーのケビン・バーデンが約5万個の卵を使って研究を進めていたところ、5月下旬、はじめて明るい兆候が現れた。

「未知の領域に足を踏み入れようとしていた。まさにローラーコースターに乗っているようだったよ。」と彼は言う。

卵が次々と死に、数が激減していたなか、6月20日、数百ものナンヨウハギの幼生を発見したのだ。7月4日、幼生のかたまりを水槽の底に置いた。1週間後、そのうちの27匹が「赤ちゃんドリー」と認められるまでに成長したのだ。「ライジング・タイド・コンサベーション」の代表を務めるジュディ・セント・レジェは、この結果を「新しい章の始まり」と表現し、これでナンヨウハギの捕獲に選択肢ができると喜ぶ。

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Credit: University of Florida

繁殖成功により魚とサンゴ礁へのダメージが激減できる

主にサンゴ礁や沿岸部の岩場に生息するナンヨウハギは、東アフリカ、日本、オーストラリア、ニューヨークと広く分布する。輸送中に死んでしまうものを除いても、世界中で年間約25万匹が取引されている。

その多くは違法に捕獲されたものだ。ダイバーらがサンゴ礁にシアン化物を吹きかけて魚を驚かせ、網ですくい上げるのだ。強い毒物は、魚に窒息感をもたらし中枢神経を損なわせる上、サンゴ礁にも甚大で長期的な、時に致死的なダメージを与える。なので、ナンヨウハギを繁殖できるようになれば、魚とサンゴ礁へのダメージを著しく減らせるのだ。

今回、フロリダから届いたうれしいニュースで、野生のナンヨウハギはようやくひと安心できるかもしれない。しかし、映画の中のドリーはニモの時と同様、それまで暮らしていたサンゴ礁から連れ去られ、水槽の中で一生を過ごすことになるというストーリーであることを忘れてはならない。
ISNPのご厚意による/The Big Issue UK

参照サイト
『ファインディング・ドリー』人気でナンヨウハギが危機に?ペットには不向きとディズニー

Finding Dory: UF researchers discover first-ever method to farm Pacific blue tang

▼ファインディング・ドリーの動画


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