——支援活動のきっかけは?
トム・モレロ:幾つかあります。そもそもギタリストになることは自ら選んだのではなく選ばれたと思っているのですが、ギタリストとしてやっていくことになって、自分の世界観や思いといったものをどうすれば自分の活動に取り入れられるかと模索してきた結果、このような道を辿ってきたのです。
——デビュー以来、ヒップホップは変化しましたか?
チャックD:ヒップホップが元来の意味から変化してきたことのひとつは、グループ性が消え、個人により趣が置かれるようになったことでしょう。当初、ヒップホップはパフォーマンスアートとしてみなされ、グループとして見られていましたが、レコード会社や経営者らが個人と契約した方がやりやすいとプロデュースし始め、「俺たち」から「俺」をフィーチャーしたヒップホップへと変わっていったのです。その分、魅力も失われました。
さらに、音風景や見た目の変化として、ラップやヒップホップ界に女性が増えたこともありますが、現状のプロモーションやプロジェクト的に彼女たちは有利な状況にあるとは言えません。
チャックD (左)とポーズをとる、ストリートペーパーの販売者でラッパーのロナルド・ダドレー。
Credit: Rodney Choice
——この時代のホームレス問題についてはどう思いますか?
トム・モレロ:僕らにとってはとても身近で大切な問題です。これまでに8回ライブをしましたが、そのひとつはロサンゼルスのスキッド・ロウの住民向けでした。チケット代からTシャツ販売までライブの売上は全額、その街のホームレス支援団体に寄付してきました。今夜のライブだと、収益の一部はわたしたちのパートナーNPO「ブレッド・フォー・ザ・シティ」に寄付されます。
トム・モレロと会話する『ストリート・センス』販売者でラッパーのロナルド・ダドレー
Credit: Rodney Choice
——ご自身や身近な人がホームレス状態になったことがあるのですか?
トム・モレロ:長年、ロサンゼルスのホームレス支援団体「ピープル・アシスティング・ザ・ホームレス(PATH)」を支援してきたので、そこにいる多くの家族をよく知ってます。わたしの家族も休日のほとんどをそこで過ごしていました。
チャックD:アメリカの黒人は親戚の6割がホームレス状態ぎりぎりの生活をしている状況にあります。職を失い、銀行からは冷たくあしらわれ、一方で、無人のビルや住宅が路上生活者よりも多いのです。大きな問題です。
DJロード:(同意のうなずき)
チャックD (左)とポーズをとる、ストリートペーパーの販売者でラッパーのロナルド・ダドレー。
Credit: Rodney Choice
——誰が大統領になるにせよ、ホームレス問題を解決するには何をすべきでしょうか?
モレロ:まあ僕が大統領なら、この国におけるホームレス状態は一切容認しないということを最初の仕事にするだろうね。ホームレス問題というのは自然発生するものではなく、ホームレス状態を放置することはもはや犯罪。非情さという意味では戦争犯罪と似たようなものですから。
この国では戦艦に巨額の国家予算が割かれ、大統領や議会選挙戦に数億ドル単位の資金が費やされている一方、路上生活者が存在するというひどい状況がある。まともで、人間味ある社会なら、まず何よりも優先すべきは、誰もに住む場所があり、空腹を満たし、教育が受けられるようにすること。そして、すべての人にチャンスを与えることではないでしょうか。
——「アメリカに再び怒りを」というスローガンを掲げ、選挙で投票するだけではダメだと主張されています。私たち一人ひとりにできることとは何でしょう?
チャックD:このスローガンが意味するのは、アメリカを再び自分で考える国に、自分以外のことすべてにも関心を向けてほしいということ。まず僕ら一人ひとりにできることは、自分以外のことを考え、誰かを助けるために自分はどのような発言をしたり行動をしたりできるかを考えること。誰かを啓発するのはそんなに大変なことではありませんが、人にどう思われるかなどくだらないことが幅を利かせる昨今では、人々の関心は低く、誰かを助けることについて話しても誰も気に留めないように思えるのです。対象が名の知られていない人で、助けても対価が得られないときは特にです。本当は、「ひとりひとりが教えあい知恵を分け合う(Each one teach one)」という格言の通りなのですが。
— ひいきにしている慈善団体はありますか?
モレロ:特にありません。今回のツアーで対象としているのは、この国のホームレス問題や飢えの問題、つまりグロバリゼーションから取り残された人たちです。この地球では、たった62人のトップ富裕層が持つ資産が貧困層36億人の財産をあわせたものに相当するといわれています。62人の男女がこの地球上の半分の富を独占しているという非道な状況なのです。
DJロード:非道というよりイカれちまってる。
——バンド結成は短期間で?あなたがチャックDを招集した決め手は?
トム・モレロ:ドナルド・トランプの選挙戦が「レイジング・アゲインスト・ザ・マシーン(権力組織に対する怒り)」といわれているのをずっと聞かされ、「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ」となったのは確かだね。「権力組織に対する怒り」とはどんなものか、俺たちが見せてやろうじゃないかってね。
プロフェッツ・オブ・レイジ:革命的ミュージシャン集団がホームレス問題に挑戦する
Credit: Danny Cinch, Courtesy PMK-BNC
——大統領選の数週間前まで、ほぼ毎晩どこかで公演予定が入っています。ものすごい数ですね。ツアー終了後の予定は?
トム・モレロ:大統領選については特に予定はないけど……
チャックD:湿布薬の出番だな(笑)
トム・モレロ:温かい風呂に浸かって!
DJロード:グルコサミンもな!
——ホームレスの人々が前向きな気持ちを失わないようアドバイスがあればお願いします。
トム・モレロ:どんな時も抜け出す道はあるってことを伝えたいですね。ホームレス状態には自分ではどうしようもできないことが原因でなることもあります。心の病や薬物・アルコール依存症などはサポートが必要ですから、どんなかたちであれ、利用できるサービスがあれば遠慮なく使うべきです。
ホームレスではない人々にも言いたい。ホームレスの人たちを自分とは違う人種、自分より劣った生き物のように扱うのはやめろってね。人間とホームレスの人々が別物かのようにみなすなんてバカげてる。僕らはみんな同じ人間、お互いの面倒を見る責任があるのです。
——あなたのギターに書いてある「Arm the Homeless(ホームレスの人々に武器を)」とはどういう意味ですか?
トム・モレロ:僕が頭の中で考えていることの半分でも知られたら、グアンタナモ湾にぶち込まれるだろうな。(肩をすくめて)おっ、つっかからずに言えた!
DJロード:次の質問をお願いします(笑)
トム・モレロ:兵士は武装して戦争犯罪を犯し、警察官は武装してあちこちで黒人を殺してる。だから、まあ平等にいこうぜってね。俺は口先だけなとこがあるけどさ。
チャックD:ホームレス社会はすでに危害を受けてるんだから、ホームレスの人たちにも武器を与えなくちゃ。武装した民兵や警官や軍隊がいて、人々が集団をつくって食べ物や衣服をもらえないか、保護施設に入れてもらえないかと要望をしただけで殺すんだから不公平だよな。こんなにも厄介で気のめいることってあるかよ。
——プロフェッツ・オブ・レイジの歌はどんな人たちに聴かせたい? あなたたちの歌を必要としている人たちとは?
プロフェッツ・オブ・レイジ
Credit: Michael Amico, Courtesy PMK-BNC
チャックD:自分には発言権がないと感じている人たちが大勢いる。アメリカのホームレスの人々は明らかに金融機関より発言権は小さいさ。なら、ホームレス状態になったらどう行動すべきか。州都、市庁舎、州立銀行に行って、仲間と団結してそこに留まるのだ。そうすればニュースになる。
インタビューは以上。
プロフェッツ・オブ・レイジのツアーにはエイウォルネイション(Awolnation)や ワクラット(Wakrat)も同行している。ツアーの全日程および8月27日リリースのアルバム詳細はウェブサイトを参照。ProphetsOfRage.com
メンバーたちの経済観念を踏まえ、全公演のチケットは20ドルから。ライブ会場やメンバーの顔ぶれを考えると破格の値段設定だ。
RATMはロックの殿堂入りにふさわしい最後のバンドとなるだろう。今年の初め、トム・モレロはロックの殿堂で開催中の政治と音楽をテーマとした展示についてインタビューを受けた。同展示は2017年1月にニュージアム(Newseum)*3 にも巡回する。
パブリック・エナミーは2013年にロックの殿堂入りを果たした。彼らの楽器の一部は、9月24日オープンのスミソニアン博物館アフリカ系米国人歴史文化博物館に展示される。
(訳注)
*3 ニュージアム:ワシントンD.C.にあるニュースとジャーナリズムに関する双方向型の博物館。
Street Senseのご厚意に感謝して / INSP.ngo
翻訳監修:西川由紀子
2017年9月15日に発売予定日のファースト・アルバム『プロフェッツ・オブ・レイジ』
ドキュメンタリー映像作家のマイケル・ムーアが監督したアルバムからの先行シングル「Unfuck The World」のミュージック・ビデオ。バンドのメッセージがミュージック・ビデオの最後に記載されている。「世界は勝手には変わってくれない。あなた次第だ。」
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