ホームレス問題や活動の理解を深めるため、ビッグイシューでは学生や社会人向けに「道端留学」という研修プログラムを提供しています。
今回は報徳学園高校の生徒さん・総勢68名が校外学習の一環で、数ある企業のなかからビッグイシュー日本を選び、企業訪問。大阪駅周辺でチームに分かれ、人生初の路上での雑誌販売体験にチャレンジしたあと、スタッフ・販売者による講義を受けました。
販売してみて実感する、路上の“透明な存在”
大阪駅で、報徳学園高校2年の男子たちが集まりました。
スタッフから販売の説明を受け、数人のチームに分かれて大阪駅周辺の販売者の元へ。
生徒さんが販売した売り上げは、一緒に販売した販売者に寄付されることになっているため、各チーム、ドキドキしながらもやる気満々の様子。
売り場へスタッフが案内しながら、生徒さんにいくつかの企業の候補の中からビッグイシューを選んだ理由を聞きました。すると、「雑誌やホームレスの仕事づくりに興味があったから」「ビッグイシューが一番とがっていたから(笑)」など、それぞれの考えを話してくれました。
売り場では、販売者とお互いに自己紹介をし、販売者から売り方のレクチャーを受けます。
この販売者は、スーパーでの勤務体験を生かし、時間帯や通行人の属性・目線から、ポップのキャッチコピーから、配置まで細やかなところまで気配りをしています。
「こんなに細かい配慮がされていたとは…」と生徒の皆さんも驚くばかり。
こちらの販売者からは、販売時の姿勢などについてレクチャーを受けます。
「路上に立ってモノを売るって、けっこう大変なことなのでは…?」と、生徒さんたちも神妙な様子に。
レクチャーを受けた後は、いざ、販売体験。
「けっこう素通りされるもんなんですね…」「ちょっとだけこっちを見ても、その後何もなかったように見て見ぬ振りをされたのがショック」と、路上に立つということだけで世間から「透明な存在」とみなされがちな体験に驚く生徒さんは少なくないようでした。
また、この日は天気が良かったのですが、それだけに直射日光を浴びる場所での販売は厳しそうでした。「暑くて大変やった…」との感想や、その中でもシャンと姿勢よく腕を伸ばして長時間販売し続ける販売者を見て「販売者さんの頑張っている姿が印象的やった」という感想がありました。
中年の女性から「あんたら何してるん?」と質問を受け一生懸命説明するも、「そんなん知らんわ」と言って去られるというシーンも…。
また、外国人に英語で道を聞かれる体験をしたグループや、通り過ぎる外国人に対し英語で「Hello! Excuse me?」と外国人に声を掛けたのはいいものの、話を聞いてくれる相手にいざ説明しようとしてもうまく英語が伝わらない…という、「留学」体験をしたグループもあったようです。
しかし、さすがは現役高校生。販売に慣れてくると「ビッグイシューいかがですかぁっ⁉」「内容の濃い!ビッグイシュー、350円でーす!」と声を威勢よく張り上げ始めます。
販売者からは「いやぁ、若さに圧倒されたね」「あの子、販売者にスカウトしたいわ(笑)」などの感想も飛び出し、販売者にとっても刺激的な時間となったようでした。
いくつかのグループで雑誌が売れ、これまでの人生で体験したことのないような大変な思いと、うれしい思いを短時間に体験できました。それぞれの胸に、ホームレス問題や「働く」ということはどういうことか、感じるものがあった「道端留学」だったようです。
ホームレス状態の当事者が目の前で体験談を話すという「生きた教材」
会議室での講義では、「人はどのようなきっかけでホームレス状態になるのか」という事例や、そこから自力で這い上がることが難しいというホームレス問題、それらを解決するためのビッグイシューの取り組みについての説明があり、販売者が自らの体験を語りました。
その後、各自が気になるバックナンバーを手に取り「6分間リーディング」。
それぞれ特集を6分間読んだうえで、その内容や感想についてチームでシェアします。
ある生徒さんは321号の「フードバンク」の特集で扱った「無料スーパー」の取り組みに驚き、ある生徒さんは329号の「オノマトペ」の医療分野での実用化に興味津々。
普段自分たちのスマホにタイムラインで流れて来る活字の情報量とは異なる、未知のテーマにそれぞれ気づきや刺激があったようでした。
講義の最後の質疑応答では、大阪周辺で販売する販売者が素朴な疑問から、大きなテーマまで、様々な質問に回答。
Q:手持ちの雑誌が売り切れになったらどうするんですか?
-ビッグイシューの事務所に戻って、売れると思う号数を自分で考えて仕入れています。(販売者)
編集部補足:少なすぎるとまた仕入れに戻らねばならず、また、多すぎると在庫を抱えてしまうことになるので、各販売者は自分でよく考えて仕入れをする必要があります。
誰かが決めたノルマを強いるのではなく、本人が考えて行動するということが「自立」の第一歩だとビッグイシューは考えています。
Q:ライバルの販売者はいるか?
-販売場所により通行量や、販売者とまちの相性もあるので他の販売者と競うという気持ちはないですが、あえていうなら同じ場所にいた前任者ですね。自分と同じ条件のはずなので、前任の販売者よりは「売りたい」という気持ちはあります。(販売者)
Q:ホームレス問題において、一番必要な支援とは何だと思いますか?
-いろんな支援が必要だとは思いますが、ホームレス状態の人たちの高齢化が進むことを考えると、単に金銭や住宅を支援するというよりは、高齢者が独占できる、特別清掃のような仕事のあっせんかなあと思います。(販売者)
など、生徒の皆さんからだけでなく先生からも質問が飛び出し、「生きた教材」に対して参加者全員が刺激を受け、自分なりの課題設定や問題への探求ができたようでした。
道端留学を企画した先生の企画意図と、振り返り
今回の校外学習を企画された報徳学園高校の松田先生に、企画意図と実施までの流れ、生徒さんの反応を伺いました。
Q:今回の校外学習のどういう目的で企画されたのでしょうか?
生徒たちが進路決定をするときに、社会問題を知っておくことが大切だと考えまして、そのために進路を考えられる素材となる体験ができればと思い、企画しました。
Q:その校外学習でビッグイシューを選ばれた理由は何ですか?
まず生徒たちに、自分が気になっている新聞記事やネットのニュースを集める課題を出しました。いろいろな記事が集まりましたね。それらをどういった種類があるのか、生徒たちに分類してもらいました。
旅行業界や研究などいろいろな分野が挙がってきましたが、その中に出版社がありました。
「出版社×社会問題」という軸で考えたときに、学校近くの駅でも販売しているビッグイシューさんが浮かびました。訪問先は大阪か神戸で考えていたのですが、調べてみると、ビッグイシューの本社が大阪にあったので、コレだな、と思いご連絡しました。
Q:ビッグイシューを訪問先にするときに、何か懸念点はありましたか?
事前にビッグイシューの大阪事務所で担当スタッフの方と打ち合わせをさせてもらいました。お話を聞くと、ビッグイシューさんは今回のような高校生の受け入れプログラムをお持ちでしたので、特に懸念はありませんでした。
Q:校外学習の前、どれくらいの生徒たちがビッグイシューに興味を持たれていましたか?
僕自身、ビッグイシューでの事前の打ち合わせが楽しく興味深かったんですね。その話を生徒たちにもすると、多くの生徒たちが関心を持ってくれました。
Q:事前の準備は大変なところはありましたか?また工夫されたことはありますか?
事前授業で、ビッグイシューの映像を生徒たちに見せ、資料としていただいた雑誌を班に分かれて読み合うという準備をしていました。その後、せっかくスタッフさんや販売者さんにお話を伺うので、気になったことや質問を考えさせました。
Q:全体の運営で、大変だったことはありますか?
担当スタッフの方とやりとりしながら進めましたので、最後まで特に問題はなく、スムーズだったと思います。
Q:生徒さんの反応はいかがでしたか?
事前授業で雑誌を読んだとき、「確かに薄いけど濃い内容だなぁ」と感想を漏らす生徒もいましたね。道端留学では「通行人は見てくれるのに、意外と買ってくれないんだなぁ」という生徒たちもいて、実際に路上販売体験をさせていただいたり、販売者の方からお話を聞かせていただいたりと普段できない充実した体験ができたように思います。
高校の人権・道徳の授業、大学での貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義・道端留学のプログラムを提供いたします
ビッグイシューでは、高校・大学その他の団体に向けて道端留学や出張講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本または特定非営利活動法人ビッグイシュー基金までお問い合わせください。
出張講義
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
道端留学
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/training/