ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで出張授業をさせていただくことがあります。
ビッグイシュー入社2年目のスタッフが現場で大切にしていること
販売サポートスタッフは、仕入れの際に販売者の皆さんと顔を合わせ、様々なお話をします。
その際、大切にしていることについてスタッフの須摩は「自分の想像力のもう一回りだけ大きな想像力を持ってみること」と語ります。
例えば、皆さんはこんな方が相談に来られたらどう考えるでしょうか。
Aさん(55歳・男性)によると「なかなか、お金が貯められないんだよね」「最近、すぐ怒っちゃう」「飽きっぽくて長続きしない」「やろうと思っても、いろいろ忘れちゃうんだよね」。
(ビッグイシューの販売冊数について)「毎日、記録するのって面倒くさい」「集団行動が苦手なんだ」「昨日もパチンコで生活費を使ってしまったよ」。
…こんな方がいらっしゃったら、須摩は「言葉だけではなくて、想像力を膨らませてじっくりお話を聞きたい」と話します。
例えば、この男性の言葉には、こんな背景がある可能性があります。
「なかなかお金が貯められないんだよ」の背景
「家が貧しくて子どものときは、家賃の取立てに怯えていたんだよね。すごく怖かったんだよ」「中学生から働いていたけど、全部、親にお金を取られてたんだ」という方もいます。お金を貯められないのではなく、お金を持っていると取られてしまう環境にずっと置かれていた。すぐに使わないと怖い目にあうという気持ちが植えつけられているという方もいます。
「記録をつけるのが面倒くさいんだよね」の背景
「学校の勉強って全然分からなくて、通信簿はいつも1か2だった」「いつも遅いって言われていたんだよね」など、本当は知的な障がいがあるけれど、それを「面倒くさい」という言葉で隠していた方もいました。
「パチンコ屋に使ってしまう」の背景
「家に自分の居場所がなくて誰かに肯定された記憶がない」などと、寂しさを紛らわすためにパチンコ屋に行ってしまうという状況の方もいらっしゃいます。
「最近は、記憶が長続きしないんだよね」の背景
話をよくよく聞いてみると、55歳でしたが認知症の症状だった方もいます。家族がいないから誰も気づくことができなくて、やっと事務所のスタッフで気づくことができたという方も。
このように、言葉面だけ受け止めると分かりづらいですが、様々な状況が人生に影響を与えて、今のAさんがいらっしゃる。「それらをふまえて想像力を働かせながら接していきたい」と須摩は話します。
このような背景を考えることで、下記のようなことも想像できます。
例えば、安心できる幼少期を過ごせなかったことで、自己肯定感や自分を大切に想う気持ち、頑張って続ける・踏ん張るっていう気持ちが育ちづらかった、人間関係の構築方法が分からないなどで、なかなか仕事を続けられない方がいらっしゃいます。
また、家族が一緒にいたら障がいに気づいて、障がい者手帳を取ったり、その方に合った仕事を探したりといったことができるのですが、家族も貧困状態にあって気づく余裕がないなどで気づかない場合は「うまくいかないのは自分のせいだ」と思われる人も多いのです。
その場合、ご自身は障害じゃないと思って就職されてもなかなかうまくいきません。そしてビッグイシューの事務所で判明して、障がい者登録手帳を取得、いまは障害者雇用枠で元気に働かれている方もいらっしゃいます。
「労働環境で酷使されて、生活環境が整っても心が満たされなかった」など、安心できる人間関係を築けなかった方は、心の埋め方を見つけられないため依存性の問題が出てくることも。
「このように想像することで、様々な目線からネットワークでできることも広がります。
ビッグイシューもそうだし、お客さんももちろんだし、医療関係の方とか、あとは福祉事務所の方とか、その方のいろんな可能性を想像しながら、いろんな方とネットワークを持ってサポートしていくことが大切だと思っています。」と話しました。
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当日は、販売者も自分の体験を話す時間も。
恵比寿の西口で販売をしている鈴木敏明さんは69歳。
恵比寿で4年前にビッグイシューの販売を始め、売上が安定して行政の支援アパートに入居。自分でアパートを借りる準備をしている日々です。
築地で仲卸の仕事を約30年。年齢による体力の低下で仕事ができなくなり…
鈴木さんは高校を卒業した後、築地の仲卸の青果の会社に入社。45歳ぐらいまで約30年、築地で働きます。その後、北足立の市場に転職。3年ぐらい働くも、年齢で体力が落ちてしまい、仕事の負担がきつくなっていきます。
「市場は、みなさんが寝ているような状態のときに行かなくちゃいけない。出社は早くて夜の10時です。で、夜中じゅう、市場の中の品物を仕入れなくちゃいけない。当時いた会社は、スーパーの注文が多いもんですから夜中の早いほうが取りやすい。だんだん年を取ってくると、それが体に負担がくる。もう辛いですよね。」
年齢を重ねていくにつれ、生活はだんだん苦しく落ち込んでいったと言います。
そして7年ほど前にホームレスに。路上生活になる前は、ホームレス状態になるということなど想像できず、実際に路上生活になっても「(自分が)本当にホームレス?」と驚いたそう。しかしそのまま恵比寿公園で5年ほど路上生活をすることになります。
「冬場は寒いから大変ですね。雪が降ったりして凄く寒いんで、寝袋は2つぐらい必要になるんです。でも寝袋以外にも、ご飯も食べなくちゃいけない。それと温かい飲み物を買わなくちゃいけないので、アルバイトしないとしょうがない。」
生活保護を検討したこともありますが、生活保護のルールやソーシャルワーカーからの細かい確認が性に合わず、「だったら自分で稼いで、自分で何とかしたい」と考えていたところに、ビッグイシューと出会います。
初めて路上に立って販売したときの気持ちは「楽しくてたまらなかった」
「恵比寿で知り合った方がビッグイシューを売っていた。話を聞いたら、『僕は辞めるから、やりなさいよ』って。それで『やってみようかな』と思って。」
そしてはじめて路上に立った日のことを鈴木さんは嬉しそうにこう語りました。
「それはもう、楽しくて楽しくてたまらなかったですね。やっぱり、やって良かったと思いました。市場で働いていたから売り方は分かるわけ。恵比寿では赤い帽子と赤いシャツを着て売って、それでお客様が、雑誌を買ってくれる。『いいお客さんがいるんだな』と思うんですが、なんと10冊も買ってくれる人もいる。」
鈴木さんは、市場での商売経験の賜物でしょうか、朝が早いそう。
「朝はだいたい5時30分ぐらいに起きるんですよね。それでご飯を炊いて食べて、だいたいビッグイシューの事務所に(仕入れに)行くのが7時ぐらい。」
仕入れを済ませ、恵比寿駅に9時前に着き、そこから遅くて夜の7時30分まで販売するのが日課。休みは月に1回程度とのこと。
販売中、鈴木さんは常に笑顔でいることを心がけています。「いってらっしゃいませ」「おはようございます」といった挨拶はもちろん、「本当にありがとうございます」と帽子を取って頭を下げます。
その姿を見てリピーターになってくれるお客さんが増え、まとめ買いをしてくださるお客さんもいらっしゃるとか。結婚式の引き出物用に100冊購入してくださったお客さんの話は感謝の気持ちが溢れた様子で「ありがたくて、たまりません」。
ビッグイシュー販売者になって4年。
路上生活だった頃は、身ぎれいにしたくてもなかなかできませんでしたが、徐々に460円の銭湯に週に3回通えるようになったそう。
「いまはきれいな格好もできるようになりまして、自分で服も買えるようになってきて。ありがたい。」とニコッと笑い、仕事をしていることのやりがいについて、「被災地支援をしてくださるところに寄付も出来るようになりました」と語ります。
いまは家族とはたまに電話もしており、今年は息子さんの結婚式に行きたいと思っているとのこと。「僕はビッグイシューを売ってて、毎日が楽しいです。本当にビッグイシューをやって良かったと思います。本当に良くなるとは、自分でも思っていませんでした。」と嬉しそうな様子です。
学生さんへのメッセージはありますか?と聞くと、
「恵比寿に来たときはいつでもお話しができますので、どうぞお立ち寄りください。これから、みなさんも大学を卒業して就職活動に入っていくと思いますけど、稼ぐということ大変ですから、頑張って。」
「お客様はいろいろ教えてくれるんで、この年寄りでも成長します。若いみなさんがよりよい多いものをつかむと、もっともっと嬉しくなると思いますよ。」と話しました。
そんな鈴木さんの次の夢は、カナダに旅行へ行くことだそうで、パスポートも取得済みだそうです。
学生の皆さんは、終始驚いた様子で鈴木さんの話に聞き入っていました。
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当日は、学生の皆さんからの質疑応答も行いました。
福祉を学んでいる学生さんだけあって、その他の講義とは少し違った角度からの質問が寄せられました。
<ビッグイシューの販売について>
Q「障がいがあってもビッグイシュー販売はできますか」
A:基本的にはお釣りのやり取りだとかが、しっかりできる形であれば、販売をしていただきます。
しかしビッグイシューの仕事だけが全てではないので、その方に合ったお仕事につきやすいような支援団体にお繋ぎすることもあります。
また、東京のビッグイシューの販売者さんの最高齢が83歳の方ですが、高齢で体力的に難しそうな方がいらっしゃったら生活保護をご案内するなど、いろんな選択肢をご紹介した上で、ご本人の意思を大切にしています。
<ビッグイシュースタッフの仕事について>
Q「なぜビッグイシューの仕事に就きましたか」
A:須摩の場合は、2社目で、サポート関係の仕事に就きたいなと思って転職しました。
どうせ違う仕事に飛び込むなら、自分の好きで知っている会社が良いと考えて。
自分も読者で、新宿の販売者さんに元気をもらっていたんですよね。ホームレス状態の方が元気に笑顔で販売をされていることが衝撃で、この方がこういうふうになるようにサポートしている会社って、どんなことをしているんだろうって凄く興味がわいて選びました。
Q「生活保護申請の手伝いをする事はありますか」
A:ビッグイシューで同行のお手伝いは、多くはありませんが、あります。本来は、路上生活も含め、どこで生活されていても生活に困難な方は生活保護を申請することができるのですが、生活保護の方を増やすとその自治体の負担が増えると考えるためか、「この地域に住所が無いと受けられないよ」と言われてしまうこともあります。そのため、同行支援が専門の団体にご紹介したりもしています。
Q「ビッグイシューの販売者が病気になったときは?」
A:まずは健康第一なので、その方に合った医療機関とか、路上生活の方の支援団体の医療サポートだったりとかを紹介したりしますね。
※無料でかかれる病院もあります。
参考:NPO法人ビッグイシュー基金 路上脱出 生活SOSガイド
Q「販売者が、手元のお金が無くなってしまったらどうしますか?」
金銭管理の状況をお伺いするようにします。雪が降って路上では寝られなくてネットカフェに泊まったんだっていう人もいれば、依存性の問題で使ってしまったっていう方もいらっしゃいます。原因がはっきりしている場合は、まずはそこの原因をどうしたらいいかご本人とお話しをして、サポートを受けたいという方がいればお繋ぎしています。
<ボランティア活動について>
Q「サッカーの活動には一般人も参加できますか」
ビッグイシュー基金でやっている「ダイバーシティカップ」は、ボランティアの方もたくさん参加していただいています。興味がある方は、ボランティア説明会を月1回やっています。そちらに来ていただいたらボランティア登録ができます。
サッカーのプログラムは月2回やっています。いろんな方とお話したり関わりを持ったりするのが、参加者にとって意味のあることなので、ストレッチとかだけでも来ていただけたら嬉しいです。
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「排除と包摂」の理解を深めるため、当事者と支援者の話を聞く機会が欲しかった/久田先生より
学生たちは社会福祉士を目指していますので、「排除と包摂」について理解を深めるために福祉サービスを利用している当事者の方として子ども、障害者、高齢者の方々や、その支援者をお招きして話をしていただく機会を設けています。
ホームレスの方々は、様々な福祉サービスや支援につなぐ必要性があることが多いことから、その当事者として販売者の方とビッグイシューのスタッフに来ていただきたいと考えました。
授業後のレポートから、学生たちからは
「望んでホームレス状態になったのではないと分かった」
「自分の状況をどうにかしたくても一人ではどうにもならないハードルがいくつもある。そのため、ホームレスの人は、自分の状況を理解しているにも関わらず、自ら動くことのできないジレンマを抱えて生活していると感じた。」
「ホームレスの抱えるニーズは、家がないことだけではなく、その他に社会とのつながりの復活もまた重要な支援だと考えた。」
など、排除されるに至った過程や包摂の重要性を学んだ様子が伝わってきました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
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