ホームレス問題や活動の理解を深めるため、ビッグイシューでは路上でビッグイシューを販売する体験と、ビッグイシューのスタッフと販売者の講義がセットになった研修プログラム「道端留学」を学生や社会人向けに提供しています。
高校生が路上でビッグイシューの販売を体験
最初に2つのグループに分かれて“研修会場”へ向かいます。JR大阪駅桜橋口近くの販売場所に到着し、販売者のうえださんと合流しました。
お互いに自己紹介をして、まずはうえださんから販売の仕方や雑誌のディスプレイについて説明。4名の生徒さんも、ビッグイシューのベストやキャップを着用し、販売の準備をします。
いよいよ販売開始。ある生徒さんからは「売り方とかわかんないよ〜」との声や「立っているのも緊張します」との言葉が。「立っているだけ」と思われがちなビッグイシュー販売ですが、実際にやってみるとなると戸惑い・緊張・躊躇などいろいろな感情が沸き起こるようです。
しかしそこはさすが若人、お互いに「スマイル、スマイルでやっていこう!」と声を掛け合って販売を始めました。
うえださんからは「大丈夫、笑顔もいいし!深呼吸しとく?」とエールを送ったり、「電車の音で声が聞こえにくい場所だから、笑顔が大事かな」とアドバイス。
どの生徒も、道行く人に期待を込めて視線を送りますが、多くの人々が素通り。そこで雑誌を掲げる高さを変えてみたり、立つ位置を変えてみたりと、試行錯誤。
今回の路上販売体験は30分。いろいろ試してみたり、うえださんと常連のお客さんとのやりとりを見たりしているうちに、あっという間に終了時間となりました。
最後に“先生”のうえださんからビッグイシューを購入して、販売の工夫を体感してもらいます。
雑誌のディスプレイを見せながら相手の興味や好きなことを聞き、「生き物に興味があります」「かっこいい人が載ってるのがいいかな」などの何気ない一言をきちんと捉えておすすめの雑誌を紹介するうえださん。
思っていたより気さくで普通のトークに、「ホームレスの人」へのイメージが変わっていく生徒も多かったようです。
事後のアンケートでは、いろいろな感想が寄せられました。
上記のように「実際やってみたら常連さんや話しかけてくる人がいて、とても明るい場だった」という声や、「売り上げを伸ばすには、日々の試行錯誤が大切だと思った」「見てくれる人はいても、購入まで踏み出す人はなかなかいない。お互いに、一歩踏み出すのは簡単じゃないと思った」と販売者とお客さんの双方の立場になり、初めて気づくことがあったようでした。
ホームレス状態にある人たち、その状況や人柄はさまざま
体験を終えた後は、スタッフによるビッグイシューとホームレス状態にある人たちの現状について説明の時間。スタッフからの「ホームレスのイメージは?」との問いかけには、「どういうふうに接したらいいのかわからない人」「子どもの頃、大人から『ああいうふうになっちゃいけない』と言われてきていたので、そういうイメージだった」と率直な意見が出ます。
スタッフからは、「ホームレス状態」にある人といってもひとくくりにはできず、その人柄や状況はさまざまであることや、ホームレス状態になってしまうこと、また一度ホームレス状態になるとそこから脱出しづらいことは個人の問題というより社会的な制度に問題があるということをお伝え。
「今日、実際にうえださんと話してみて、イメージが変わったんじゃないでしょうか?」との問いかけには、皆さん笑顔でうなずいていました。
販売者の体験談「終わるほうではなく、頼るほうを選んだ
続いて、販売者のうえださんが体験を語るコーナー。
ビッグイシューの販売者になる前、IT企業にてエンジニアとして勤務していたうえださん。海外出張にも出かけ、休みなく仕事をこなす毎日でした。
「ある日突然、仕事に行こうと思っても体が動かなくなったんです」と、体の異変を感じ、医療機関を受診。うつ病の診断を受けました。
「体が悲鳴を上げていたのかもしれません。でも、周囲が心配しても『大丈夫です』って言ってました。」と、当時の働き方や考えを振り返ります。
その後、休職と復職を繰り返しましたが、安定した職場復帰は難しかったといいます。早期退職制度を使い、会社を退職。その後、療養とリハビリのため、就職はせず貯金で生活していました。
貯金が底をつき始めたとき、「路上に出るしかないな、と覚悟はしていました。でも半分くらい、どうしたらいいかわからない気持ちもあった」そんな気持ちを持ったまま路上生活に至ったものの、所持金はなくなる一方。
「いよいよやばい。このまま終わるか、どっか頼るかの選択肢しかないなと思って。そのとき、頼るほうを選んだんです。」
“何かを頼りながらでも、路上生活から抜け出したい”。
インターネットで無料宿泊所などを検索し、さまざまな情報を得ていくなかで、「路上脱出・生活SOSガイド」に出会います。これを機にビッグイシューの存在を知り、販売を始めました。
「最初は体がしんどくて一時間も立てなかった。あとは、街の人が誰も見てくれないこともつらかった。でもお客さんが一人でも来てくれた瞬間、元気になります。今でもそういう気持ちです。」と、販売を始めた当時を振り返りながら、販売への思いを語ります。
現在うえださんは、認定NPO法人ビッグイシュー基金の運営するステップハウスを利用中。ほかのビッグイシュー販売者とともに、自立生活に向けた活動を継続しています。
最後にうえださんから、高校生の皆さんへ向けこんなメッセージが。
「家族とも友達とも離れて、1人になろうと思ってたんです。でも、ビッグイシューに出会って、お客さんや販売者やスタッフとつながって、いま自分は生きているんだなと思います。楽しいし。人とのつながりは目に見えない財産だと思います。社会人になっても、ぜひ、つながりを大切にしてください。」
これまでの経験を通じて、お客さんや仲間をはじめとする”人とのつながり”が活力になったといううえださん。生徒の皆さんにも暖かなエールを送りました。
高校生からの質問「ホームレスを見かけたら、どう接したらいい?」
うえださんの体験談を聞いた生徒の皆さんからは、たくさん質問が寄せられました。
Q:うえださんがホームレス状態になる前は、ホームレスに対してどう思ってましたか?
うえださん:視野に入らなくて、それどころじゃないって感じでした。無知、無関心な状態。今は逆に、街の人を見ていて自分のことが見えてないのもわかる。「忙しくしてて、今それどころちゃうんやなあ」と思います。路上に立ってからは、献血や募金活動をしている人など、いろんな人が見えるようになりました。
ホームレスの方を見かけても接し方がわからないのですが、どう接して欲しいですか?
うえださん:挨拶してくれるだけでも嬉しいです。声をかけなくても、少し目を合わせて、会釈するだけでもいいと思います。
家の近所にホームレスの方がいるのですが、ビッグイシューに連絡をしたら訪問してくれるのですか?何かできることはありますか?
スタッフ:場所によっては訪問も可能です。ホームレス状態の方は情報がなくて困っている場合もあるので、「路上脱出・生活SOSガイド」を近くに置いておくなど、無理なくできることで構わないです。
「生徒が自分の考え方を振り返る機会になってほしい」
今回、道端留学を企画してくださったのは横山幸三先生。和光高校の道端留学は、5回目です。貧困問題を取り上げる授業の目的や生徒さんへの想いをお聞きしました。
「ホームレス経験のある方の体験談を聞いたり、実際にお話する機会があったらと思い、ビッグイシューに依頼したのが始まりです。今では修学旅行に欠かせない企画となっています。ホームレス状態にある方々や貧困問題について学習しているなかで、「人に対して無意識に偏見を持っていたり、差別的な見方をしていないか?」と、生徒が自分自身の考え方をふり返る機会になって欲しいと思っています。素直に自分と向き合っていく生徒たちを見ていると、教員である自分のことも見つめ直すことがあります。自分のことをとらえ直すってなかなかできないことだなと、生徒たちへ尊敬の気持ちを抱くこともあります。」
さまざまな状況にある人を知ることで、生徒さんの価値観の広がりを感じるという横山先生。引き続き、こうした機会をつくっていきたいとのことでした。
高校生の感想「BIG ISSUE に誇りをもって生きていると思った」
高校生たちはどう受け止めていたのでしょう?
許可をいただき、アンケートの内容を一部紹介します。
上記のように「見たことがないのではなく、見てなかっただけ」という感想や、ビッグイシューに誇りを持って生きていると思った」など、視座に変化があったことが伺われます。
他にも、ホームレス状態にある方々に対する印象が変わっただけでなく、「他人事ではなく自分のこととして受け止めようと思った」「自分にできる行動をしたい」といった感想も寄せられていました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
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