ジンバブエ東北部のネマイレ村で農業を営むエイモス・チャンディリンガ (43才) は毎年、タバコの苗床への水やりに苦労している。じょうろを使っての作業はとてもきつく、他の家事をする気力や時間もなくなってしまうほどだ。
「ダムの近くに住んでいるので水はたっぷり使えるのですが、作業を機械化できるほどの技術力がないので、この方法しかないのです。 電気やディーゼル式の給水ポンプを考えたこともありますが、価格が高くて…」と彼は言った。
ジンバブエ農村部で初となる太陽光発電機器の展示会 – 最大の課題は知識の欠如
2018年2月、チャンディリンガは自分の農場で、フィールドデイ(*)と太陽光発電機器の展示を行う合同イベントを主催する機会に恵まれた。この地域にとっても、彼の農家人生においても初となる試みだ。
*農業関係者が集い、新品種の発表や品評、最新機器の展示などを行うイベント。
彼のような農家が太陽光エネルギーを使った給水ポンプを導入すれば、作業を軽減できて収穫量も増えるだろう、と太陽光発電分野の起業家アイザック・ニャクセンドワは言う。
ルサペなどジンバブエの農村部ではほとんどの人が農業に従事しているが、太陽光発電の利用は照明や娯楽用途に限定されているのが現状だ。
政府・太陽光発電事業者・開発法人は、太陽光発電を灌漑用ポンプ、収穫プロセス、作物の保存に利用すれば、収穫量が増え、収入も増え、農作業にかかる肉体労働を軽減でき、農村部の暮らしを一変させられるとみている。
ネマイレ村のサム・マウングウェ議員によると、この地域の農家は主にタバコ栽培でしっかりした収入を得ているものの、稼ぎをオーディオ機器や家具の購入に費やしてしまっていると言う。
「この地域の農家の多くはタバコ栽培に従事しており、地域全体がタバコの乾燥処理用と薪用の木々伐採の負担を受けています。太陽光発電を取り入れれば、耕作期を延長でき、収入も増やせるでしょう。それに、タバコの乾燥プロセスに太陽光発電を導入すれば、無節操に木々を伐採している現状を食い止められます」
農業普及員のペトロネラ・カリマも、農家のほとんどは太陽光発電の可能性を知らないだけなので、きちんと教育して、この安価な新技術に触れられる機会を提供すべきと言う。
「太陽光発電を娯楽目的に使っている人は多くいます。なかには、自宅に大規模な太陽光システムを設置している人もいるのですが、それを作物や家庭用の給水に利用できるとは知らないのです。展示会で情報を提供すれば、農作業にも応用する人を増やしていけるでしょう」
市場普及率はわずか3%、メリットを伝える展示会やキャンペーンを展開中
開発支援団体「プラクティカル・アクション」(*)の ジンバブエ支部でエネルギー普及を目指す ‘Power for All’ キャンペーンのマネージャーを務めるチーザ・マザイワナも、再生可能エネルギーを利用したソリューションへの認知度はかなり低く、太陽光発電の照明や家庭用システムの市場普及率はわずか3%に過ぎないと言う。
*途上国への草の根支援をおこなう英国に本部を置く慈善団体。
https://practicalaction.org
「送電網が行き渡っていない農村部には莫大な可能性が眠っていますが、市場開拓において最大の障壁は知識の不足。太陽光発電技術の最新の動向、価格が下がっていること、分割払い制度 (pay-as-you-go)など新たな支払い方法があることを農家の人たちが知らないのです」
過去に悪質業者が低品質な製品を流通・設置してきたことで人々の信頼が損なわれ、市場展開を阻んでいるという嫌いもある。だからこそ今、政府、再生可能エネルギー事業者、開発法人は手を取り合り、展示会のような機会を活用して、太陽エネルギーでいかに暮らしを改善していけるか、メリットをアピールしている。
展示会以外にも、メディア・キャンペーンやオピニオン・リーダー(首長、校長、宗教的リーダーなど)を起用する手法も取っており、これはとりわけ東アフリカ地域では効果があったという。
太陽光発電事業を取りまとめる「ジンバブエ再生可能エネルギー協会」のニャクセンダ会長も次のように語った。
「太陽光エネルギーとその可能性に関する知識の欠如が、市場拡大を妨げている一因です。私たちは展示会において、農家の皆さんに高品質な太陽エネルギー製品および優れた企業を紹介・購入いただける貴重な機会を提供します」
「分割払いモデル (pay-as-you-go) なら、わずかな頭金と少額の月賦払いで希望の製品を購入いただけます」
村落コミュニティの所得アップ、女性の権利向上をもたらす可能性も
展示会では、若い男女らは太陽光発電による照明、娯楽システム、コミュニケーション用ガジェットに興味を持つ一方、女性陣は太陽光で調理できるコンロを、年配男性は給水ポンプを気に入っていた。
Tonderayi Mukeredzi/IPS
太陽光発電の展示会でパラボラ型調理器具に見入る女性(ルサペ、ジンバブエ)
プラクティカル・アクションのジェンダー責任者トニー・ジバニは、太陽光技術を導入することで、男性の3倍もの仕事量を課せられている女性たちを楽にすることができ、家庭内での男女格差による暴力的な状況をも減らしていけるでしょうと述べた(*)。
*補足:ジンバブエの女性たちは身体的・性的暴力の被害に遭う率が高いうえ(15才以上の3人に1人が身体的暴力を経験していると回答)、多くの雑事に追われ教育や健康がないがしろになりがち。中等教育を受けている女性は暴力被害に遭う率も低いことから、雑事に取られている時間が浮けば、自身の教育に時間を割くことができ、男女格差を縮められ、暴力の被害に遭うケースを減らしていける(参照:UNFPA)
ジンバブエでは人口の6割以上がエネルギー供給を受けられていない。電力供給は高所得世帯や都市部に偏っており、農村部では薪や木炭といった固形のバイオマス燃料、調理には灯油コンロを使っている。いずれもこの地域の環境では供給が不安定なうえに高価なため、持続可能とは言い難い。
© Pixabay
「誰もがエネルギーを利用できるようにするには、電力供給の分散化こそが最速で費用対効果も良く、持続可能な方法です。その上、村落コミュニティにビジネスチャンスをもたらせるのですから」とマザイワナは力説した。
By Tonderayi Mukeredzi
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo
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