ミャンマーと日本の学生が貧困問題を考える/IDFC日本ミャンマー学生会議での出張講義

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、各種団体などの勉強会へ出張授業をさせていただくことがあります。
今回の行き先は「International Development Field Camp for Myanmar and Japan Youth Leaders(IDFC日本ミャンマー学生会議)」(以下、IDFC)。社会問題を考える学生主催の団体からの講義依頼をいただいておこなわれたイベントの模様をお届けします。


IDFCは、国際交流機会のほとんどないミャンマーと日本の学生が交流する機会を創出しよう、という思いから、2014年4月に設立された学生会議。さまざまな社会課題に対して、その解決に向けた議論を行い、シンポジウムを開催するなどで成果や見解を社会に発信しています。
この日は日本で行われた交流会議に「ビッグイシュー日本」スタッフ須摩と、新宿駅バスタ前の販売者・ニシさんがお伺いしました。

日本の“見えない”ホームレス問題

はじめに、会場に集まっていただいたミャンマーの学生のみなさんに、日本のホームレス問題の現状から説明していきました。

日本の路上生活者は年々減っていて、2003年には、25,000人以上いるとされていた「ホームレス」数は2018年に5,000人以下となりました。

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ここまで減った要因として、2002年夏に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」の施行、福祉窓口の改善や支援団体の活動の活発化、生活保護を受給する方も増加したことなどが挙げられます。

5,000人というこの数字は、厚生労働省が「特別措置法」でホームレスと定義する「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」を数えたものです。しかし、家がない状態の人は、インターネットカフェにもいます。いわゆる「ネットカフェ難民」です。

「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」では屋外の、公園、道路、アーケードなどの駅周辺、そこで日常生活を営んでいる方のみを数えていて、24時間営業のインターネットカフェやファーストフードなどで生活を余儀なくされている方の数の把握ができていません。また、友人宅や病院、施設などで一時的に生活する人たちも数に含まれていません。

もうひとつの課題は、市町村職員による目視調査である点です。日中どこかで仕事をしている方、転々と移動している方は、数に入りません。そのため、この「ネットカフェ難民」の数は、調査の性質上、ホームレス状態にある人の数には入っていません。

日本のネットカフェ難民の数、つまりほかに住むところが全くないと答えた人の数は、東京都内のみの調査(2018年)で4000人。ミャンマーにも、24時間営業で夜も泊まれるネットカフェはあるということですが、これを聞いたミャンマーの学生のみなさんからは驚きの声が起こりました。

数字だけではなく、貧困問題の原因をより具体的にとらえる

貧困問題というのは、ホームレス問題以外にもたくさんあり、日本では女性の貧困問題、子どもの貧困問題、家庭環境による貧困、障がいのある方の貧困、難民の貧困問題などが挙げられます。また不安定な労働環境が増えているのも大きな問題です。

ホームレス問題というのは、このような様々な社会の課題が複雑に絡み合ったもののため、ひとつひとつの要素を理解し、解決法を考えていくことが大切な第一歩です。

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ビッグイシューの取り組みについて、ミャンマーの学生たちとの質疑応答

雑誌を作り、販売の仕事を通してサポートをしている「有限会社ビッグイシュー日本」。

販売者の生活面のサポートでは「NPO法人ビッグイシュー基金」が生活相談や、住宅、就労の相談、文化的な活動を応援するといった活動しています。また、ビッグイシュー基金は「路上脱出・生活SOSガイド」という冊子を作り、路上生活になってしまった時に知っておくとよい情報や福祉制度について、生活保護の受け方などをまとめて、広く配布しています。

学生の皆さんからは様々な観点で質問が出ました。

学生:競争の激しい雑誌業界で、社会的企業の雑誌が太刀打ちできるのか

「ビッグイシュー日本」としては、雑誌業界に競合相手がいますよね。さらに社会的な事業ということで、誌面制作をはじめとした運用資金というものはなかなか出てこないと思うのですが、どのように対処しているのでしょうか?


スタッフ:

ホームレス状態の方が独占的に販売していることもあり(※)、内容は社会問題だけでなく、幅広いテーマを扱って、いろいろな立場のひとに興味を持ってもらえるように作っています。
※路上で販売するので、書店や取次に支払うコストを販売者に還元している。ただし、会社としては現在赤字。
路上生活者の方(=販売希望者)が減っていることで、販売部数も落ちていますが、販売者のいないエリアでの定期購読や、バックナンバーの通信販売も始めました。

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学生:市場における位置づけは?

市場調査をやったことはありますか?
ビッグイシューは市場調査で、マーケティングの中で、どのような位置づけになっているのか、もし調査されたのであれば、教えてください。


スタッフ:

昨年、マーケティングの会社にプロボノをしていただき、認知度調査を行いました。また、販売者による一定期間の目視調査を行うことはあります。購入者は女性の4、50代の方が多いですね。
20代、30代の方、そして男性の方にもっと知っていただいて購入していただけるように、たとえば、大学とか高校に私たちが出張講義に行ったり、動画を作ったり、SNSを活用したりなどで、より多くの方に認知していただけるように活動しています。「ビッグイシュー・オンライン」という、無料のWEBメディアも運営しています。

販売者の話で「リアリティ」をもって知る

販売者・ニシさんは、ビッグイシューをきっかけにダンスチーム「新人Hソケリッサ!」で活動
後半はビッグイシュー日本の販売者・ニシさんのお話です。
ニシさんは新宿駅バスタ前で販売をされています。

ニシさんはかつてプロのダンサーとして活動をしていたこともあり、現在は販売以外にも、路上生活者の方による肉体表現などをテーマにしたダンスチームに参加しています。

ニシさん:
私は「新人Hソケリッサ!」というダンスグループで活動しています。
メンバーは、現在路上生活を送っている人と路上生活を経験した人。活動中に路上生活を脱出して住まいを得たという人もいます。

通常ダンスというと、そろった動きをした、華やかなパフォーマンスといったものを思い浮かべられると思いますが、「ソケリッサ!」は、自分以外のメンバーは高齢の人が多かったり、ダンスの経験がなかったりします。身体が固くて動けないこととか、いろいろあります。

あえてその特徴を使って、それぞれの独自の踊りを、自分が思うような踊りをやります。それをうちの代表が、上手い具合にひとつの作品として仕立てます。どちらかというと、アートに近いパフォーマンスをするダンスグループです。

・ニシさんが以前お話をされたときの記事はこちら
「野垂れ死のう」と思っていた元自衛隊員の販売者がインターナショナルハイスクールの高校生たちに伝えたこと

現在のニシさんにとって、ビッグイシューが果たせている役割とは何であって、どういう存在となっているのでしょうか?

ニシさん:
私は誰とも関わりたくないという理由で路上に出たので、人に助けを求めたくない、と意固地になっていた路上生活者でした。炊き出しなんかもまったく利用したことがなく、支援団体にも関わることがなく、本当に闇に隠れて生きるという感じで。

販売者登録をして実際に販売する前は、まったくビッグイシューのことは知らず売れるわけがないと私は思っていましたが、1時間くらいで1冊売れて、あれよあれよという間に、10冊売れました。自分は新橋、サラリーマンの街で売っていたのですが、普通のサラリーマンの人がビッグイシューを買ってくれるんです。

購入してくれるお客さんに対しては、募金でもするつもりで買うというイメージがあったのですが、割合としてそういう人は多くなくて、雑誌として好きだ、という人の方が多い。
つまり、私が恐れていた精神的負担を感じることなく販売できるということです。最初は自分の生活のために売っていたけど、だんだんと雑誌を売ることに良いプライドが芽生えてきていることに気づきました。

路上生活者にもそれぞれ事情があって、みんなが一様ではない。路上を脱出できない原因もさまざま。

共通するのは、自分の中ですぐにアクションが取れないということが、一番大きいように思えます。
だから私にはビッグイシューを売っているというのは「時間をもらえている」という感じがします。あくまで自分のペースを守りながら、人としての生活を送ることができる。私にとってビッグイシューは、今後の道しるべというかぱっと現れた道という存在ですね。

ニシさん:
路上に出る前、当時の自分がやりたかったダンスを通じた、面白いこと・楽しいことの実現という目標。ビッグイシューとの出会いがあり、その先で出会った「ソケリッサ!」の存在が、自分の中で大きくなっています。

そこでは不思議と面白い人たちが、いい人たちが集まってきてくれる。ラテン語の格言で「善人は善人を好む(Boni amant bonum.)」というのがありますが、そういう場を通じて自分ができることが何となくわかってきています。

もうしばらくビッグイシューにお世話になりながら、まだまだ時間はかかるのですけども、それで恩返しというか、楽しいこと・面白いことに携わりながら、路上脱出を目指して行くことが現状考えていることですね。

ミャンマーの学生がヤンゴンの貧困問題と解決方法を考える

 当日は、「カフカの階段」という考え方を用いて、ミャンマーでの貧困問題について、どのような原因や課題があるか考えてみました。

学生の発表:
ヤンゴンでどうしてホームレスが多いか、ということについて話しました。
ヤンゴンは大きな都市です。みんな農村から出てきますが、仕事が見つからない。職場を追い出されてしまう、ということもあります。

解決への可能性となることですが、まず農村部での仕事の機会を増やすことではないでしょうか。ホームレス状態の人たちに対しては、職業訓練をおこない、政府が低い価格の住宅を作る、または生活できるような保護策をおこなうということが考えられます。

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スタッフ:
日本でも「ハウジングファースト」いう考え方が広まってきています。まずはハウジング、家を提供するということです。

説明してくださったような、低価格で住める住宅を増やすことですよね。ビッグイシュー基金でも「ステップハウス」という、貯金をしながら住むことができる、賃料の低い家の運営もしています。

学生の発表:
最初に「教育が必要」ということを考えました。教育が充実していれば、解決できる問題も多いと思います。

たとえば性教育なども十分ではないと思うのです。つまり性教育、セックスに対する正しい知識がないために、若くして所得も増えないうちに、子どもをたくさん作る。そうなると生活費が足りなくなって、場合によっては借金に陥る。ミャンマーではこのケースが多いのです。

結局、家を失うことになりかねず、すべてを失って、ホームレス状態になってしまう。政府の支援を期待したいところですが、これがミャンマーでの現状ということです。

スタッフ:
教育による格差の問題は日本でもあり、ホームレスの方のなかには字が読めない、情報にアクセスしづらいということは実際に多々あります。
先ほどの「路上脱出・生活SOSガイド」では、重要なところにはすべてふりがなを打っています。

学生の皆さんからの反応

参加した学生のみなさんからは、ビッグイシューの取り組みや、ワークショップでの話し合いについて非常に興味深いという感想をいただきました。

「ホームレスはいつの時代も存在していますし、日本のみならず世界各地で大きな問題となってきています。ご講演では、BIG ISSUEがホームレスの方々にお金を稼ぐ機会を提供し、貧困の悪循環から抜け出す助けをしていることを学びました。そして、ホームレスの方々自身が問題の一部ではなく、問題の解決の一部となるような支援をしています。BIG ISSUEは日本におけるコミュニティ開発で重要な役割を担っているのだと学びました。」

「自信は生きていくためのモチベーションの源泉だと学びました。ご講演の前はなぜホームレスの方々は政府の支援を利用しないのか疑問に思っていました。ホームレスの方々は生きるために必要なら支援を受けに行くと思っていたからです。しかし、貧困という状況では必ずしも常に生きることに対するエネルギーがあるわけではないということを学びました。BIG ISSUEの取り組みは自信を提供するという点において、ホームレス問題のボトルネックに対する解決になっていることを感じました。」

また、ニシさんのこれまでの経緯だけでなく、「ソケリッサ」についても関心が高く、今後の活動について詳しく聞いている学生さんもいらっしゃいました。

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日本とミャンマーでは文化や人々の置かれた状況は異なるものの、ホームレス問題や貧困問題について興味を持つ者同士で議論、交流という貴重な機会を持つことができました。

記事作成協力:都築 義明

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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