ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。
「Kインターナショナルスクール」では幼稚園から高校3年生まで、国際バカロレア(IB)に準拠したカリキュラムが提供される学校。ふだんは英語で授業がなされるため、今回はいつもよりゆっくりめに、平易な日本語で説明を行いました。
長崎友絵 大手人材派遣会社を経て、2010年よりビッグイシュー日本で販売サポートの仕事を務める。現在東京事務所長として、販売サポートのほか企画・マネジメント・広報等幅広く活動。 ▼長崎による販売サポートの仕事紹介 |
日本にはどのくらいのホームレス状態の人がいるか
厚生労働省は、日本にホームレスの人たちがどれだけいるかという全国調査をしています。調査開始の2003年当時は、25,000人いました。今は5,500人くらいいて、5分の1くらいに減っています。
このまま順調に減って「もうすぐこの問題が解決するんじゃないか」と感じるかもしれません。でも、この調査は問題点を抱えています。
厚労省の調査の問題1:調査対象が「屋根のない状態の人」に限られている
一つ目は、調査の対象が限定されていること。英語の「ホームレス」は、住む場所がない人全体のことを指しますが、この調査の対象は駅とか公園とか川だとか、屋根のないところで寝起きしている人たちに限られています。でも、本当は「ホームレス」状態にはネットカフェとか、ファーストフードみたいに24時間お店があいている屋根のある建物で過ごしている人たちも含むのです。
先日も東京都のネットカフェで寝起きしている人が、4000人くらいいるという調査結果が出ました。でも、その人たちは、さっきの5500人の中に入っていないわけですね。
「ホームレス」の定義は日本と海外を比較するとかなり異なります。
英語で「ホームレス」状態というのは「野宿生活」をする人だけではありません。
「野宿生活をしている人」は「ホームレス」ではなく「ラフスリーパー」という言葉で表現されるのです。
アメリカやイギリスの場合は、友達の家にいるとか、もうすぐ追い出されそうだとか、そういう人もホームレスという言葉の定義に含めて考えていくんですね。そのように対象を大きく捉えることで、予防的な政策を打つことができるわけです。これが日本と大きく違うところです。
厚労省の調査の問題2:調査は通常業務時間内に行われている
二つ目は調査方法。国から各自治体に「こういう形で調査してくださいね」と、調査が委託されます。そうすると、各自治体の職員の人たちは、通常の業務時間内でカウントします。
でも、例えばビッグイシューの販売者さんは、夜6時とか7時まで仕事をしています。その後、もしかしたら野宿をするかもしれませんが、人によってはネットカフェに行くかもしれないし、ファーストフードかもしれない。そうすると、その人たちは、この調査の対象に入って来ないんです。
失うものの( )の中に入るものとして例えば、仕事。
それから、住まいを失う。寮付きの仕事をしていて、仕事がなくなった瞬間に路上に出ないといけなくなった、という人もいます。
仕事がなくなれば収入もなくなりますので、最終的にはお金を失う。
あと、見落としがちなのが健康問題ですよね。元々、健康が優れない状態で生まれ育った人もいますし、仕事とか事故とかで健康状態を害してしまった人もいます。
こういったいろんな要素を失いながら、最終的には誰かに頼ったり、相談したりすることができずに路上生活をする人が、とても多いです。
各段階に平行に点線があります。全部失った一番下からではなく、ひとつふたつ失った段階、早い段階でハシゴをかけられるような社会であれば、もっとやり直しがしやすいんじゃないか、と考えています。
ビッグイシューは、何もない状態からでもその日からに始められる仕事を紹介していますが、それ以外にも、例えば家を失いそうなときは家賃補助の申請が簡単にできて仕事を続けられてやり直しをしやすくするなど、各点線ごとにセーフティーネットが幾重にも張られていると、やり直しがしやすい社会になるのではないかなと考えています。
ロンドン発祥のビッグイシュー
ビッグイシューはイギリスのロンドンで、ジョン・バードさんという人が始めた仕組みです。「社会的企業として、ホームレスの人びとに働く機会を提供する」、これを使命としています。日本では、ジョン・バードさんに「ビッグイシューっていう名前を使っていいよ」という許しを得て、2003年に大阪で始め、今年の9月で15年になります。
生きづらさを少しでも持っている人にはつらく感じがちな社会だからこそ「自分が生きていくのに本当に必要なものって何だろう?」っていう感覚を研ぎ澄ましていけるような記事を作りたいと考えています。
社会問題とか人間の問題だけじゃなくて、動物とか植物とか自然科学も紹介しています。それから、生きていくのが楽しくなるような誌面にしたいと思っているので、ちょっとホロッとするような人生相談のコーナーや、あとはアートとか映画とか、幅広く取り上げています。それから、販売者さんとの関わりの中から見えてきた問題だとか、販売者さんが主役のコンテンツとか、そういうのもビッグイシューならではの切り口だなと思います。
ビッグイシューの仕組み
最初は、ビッグイシューの販売者になりたいと言ってこられる方に10冊無料でお渡しします。
10冊売れれば、3,500円が手に入ります。11冊目からは1冊170円で雑誌を仕入れて350円で雑誌を売って、180円が手元に残ります。それを毎日繰り返していくことで、例えば、ずっと野宿だった方がネットカフェに泊まれるようになったという人や、シェアハウスやアパートに入れた人もいます。みなさん、稼ぎと自分の目標とのバランスを見ながら生活をしていきます。そうして安定した仕事を見つけられたら、そこでビッグイシューは卒業になります。
半月で200冊弱くらいの雑誌を売る販売者さんが多いです。そうすると、半月で100人から200人くらいの人と毎日、毎日接するわけですよね。そういうのがココロの栄養分になって、だんだんその人らしさを取り戻すのかな、と感じています。
実は、販売者がそう感じているだけではなくて、お客さんも、販売者さんから力をもらっていると言う人もいるんですね。一人暮らしの方が「誕生日だ」って言ったら、販売者さんから「ハッピーバースデー」を歌ってもらったお客さんや、ちょっとしんどいときに会社から販売者が見えて、それですごく力づけられたと話してくれたお客さんもいました。販売者さんと、お客さんの双方に、応援し合う気持ちがあるのかなって感じます。
・地域の子ども食堂に行ってみる
子どもの貧困があるってことは、その子どもを産み育てた大人の貧困もあることなので、子どもの貧困を切り口に、社会で貧困問題に取り組むっていう支援が生まれてくれるといいなと思っています。
・「山友会スタディーツアー」
寄せ場である山谷の街を歩きながら、地域の歴史も学びながら、地域での取り組みを一緒に学ぶツアーをしています。高校生でも参加できると聞いたので、もし興味があったら行ってみてください。
・「ARCHストリートカウント」
終電が終わった後に市民が集まって、「野宿状態の人は何人いるか」を、数えています。この夏には、1000人でカウントしようというプロジェクトがありますので、親御さんの同意書が必要だと思いますが、興味があったら参加してみてください。大学院生が中心になって活動しています。
自衛隊で働いていた西さんの語る、これまでの人生とこれから
「人の役に立つことを」という気持ちと、「普通に生きろ」という親のはざまで
西さんの生まれは東京。父親の事情で九州の佐賀に引っ越し、両親には「普通に生きろ」「公務員になれ」と言われて育ちましたが、自分が公務員になるとういことには違和感があり、親の顔を立てるために自衛隊に入ったそう。
その後、ダンスの仕事を目指して転職するも失敗してしまい、沖縄で路上生活をしたのち、東京に辿りつき、2017年にビッグイシューと出会います。
そんなニシさんが、生徒の皆さんに話しました。
ニシさん 2017年よりビッグイシュー販売者。ダンスチーム「ソケリッサ」のメンバー。 参考リンク:333号「今月の人」 |
ビッグイシューの販売をして思うこと
ビッグイシューを販売するまでは、ほぼ0円生活をしていたので、1日10冊売って1,800円というお金が入るようになってくると、精神的に落ち着いてきました。あとは、買ってくれたお客さんと会話をしていく中で、だんだん自分の壁がなくなってきているなと思っています。
高校生の皆さんに伝えたいこと
ビッグイシューをホームレスの生活者を支援するために買っている人もいるかもしれませんが、よかったらビッグイシューを読んでほしいなと思います。
雑誌を読んで「この人に会いたいな」とか「これ、やりたいな」って思うのが生きる力になったらいいな、と思います。
夢を追いかけることは大事なことですけど、そればっかりにとらわれてしまうと、本当に壁にぶつかったときにどうしようもなくなってしまいます。
生きがいとか、やりがいとか、もっと広い範囲で見えてきたなら、失敗しても何とかなると思うんです。
僕は、精神的な弱さと、心が折れたことで路上生活になってしまったので、そういうのを防ぐためには、“大きな考え方”をすることが大事だと思います。
広い考え方と、広い付き合いを
あとは、別に真面目な話なんてしなくていいから、周囲の人と気軽に話をできる関係を普段から作っていくと、いざっていうときも話ができると思います。自分も路上生活になって、いろいろ学ぶことができましたが、やっぱり人間関係は凄く大事です。困ったときにすぐリカバリーできるので、できるだけ広い考え方とか、広い付き合いをしているといいなと思います。とくに大人になると、どんどん視野が狭くなっていくので、若いうちに人とのつながりを大事にできるとすごくいいと思いますね。
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講義を終え、生徒の皆さんからは「雑誌を読んで“「会いたいな”って思っていたのでうれしかった」「波乱万丈な人生で、そこから立ち直れるっていうことはすごい」などの感想をいただきました。
▼他の販売者の講義でのメッセージもチェック!
・小学生からビッグイシュー販売者へ鋭い質問!/大阪市立八幡屋小学校6年生の”キャリア教育”の出張講義
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小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
まずは学校でビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
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