犯罪者たちの更正に有効な平和的アプローチ。水産養殖プロジェクトでギャングたちが改心、人々の食卓を豊かに

南西太平洋地域の島々からなる国パプアニューギニアでは、険しい高地で水産養殖プロジェクトがおこなわれている。この取り組みが元受刑者の人生を変えるとともに、犯罪多発地域として悪名高いハイウェイ沿いの治安改善にもつながっているという。


IPS_Fish farming takes on crime_1

10年前に東部山岳州ブフテ刑務所での刑期を終えた男モクシーは、刑務所で学んだ技術を生かし、州都ゴロカから北西15キロに位置する彼の地元の村で養魚場をつくった。今や村人からは「魚のアニキ」と呼ばれ、自尊心と社会的地位を得た彼は、人々から知恵や知見を求められる立場にある。
「たまに気分が落ち込んだり誘惑に負けそうになると、養魚場のそばに腰掛け、これまでに成し遂げてきたことを振り返るのさ」と彼は言う。

モクシーが大勢の受刑者らとともに参加したのは、パプアニューギニア国立養魚局とオーストラリア国際農業研究センター(ACIAR)との連携による「受刑者向け養魚技術プログラム」だ。受刑者たちに養魚技術を指導し、出所前に生計手段を身に着けてもらうことを目的として、2008年に始まった取り組み。このプログラムを通して、受刑者らは自律性・積極性が養われるとともに、情緒も安定し、再犯を防ぐ効果が期待されている。

今後の成長が期待できる水産養殖

太平洋の島々における「水産養殖」は、まだ発展途上の段階だ。しかしこの地域では、そもそも魚の消費量が多く、世界の年平均魚消費量が一人あたり20.2キロであるのに対し、パプアニューギニアは53キロ、トンガは85キロ、ソロモン諸島は118キロ(*)。食糧・栄養ニーズを満たすものとして、水産養殖は大きな可能性を秘めているのだ。
*日本は2016年で24.6kg。全体としては減少傾向にある(農林水産省)。

fish-2355849_1280
© Pixabay


パプアニューギニアでは、海から遠い内陸部に住む人々の「タンパク質不足」が常態化している。とりわけ高地地域の人々の低栄養状態がすすんでいることを受け、1960年代に水産養殖が導入されたが、つい最近までその発展は遅々としたものだった。

メラネシア地域*全体で見ると、800万以上の人々が “低栄養状態”とされているため、その対策としても養魚業はこれまで以上に重要性が認識されている。パプアニューギニアの「子どもの発育阻害率」も世界で4番目に高く、高地に暮らす子ども達は沿岸部の子ども達よりそのリスクが大きい。


*南西太平洋の島々のうち、180度の経線以西の島々の総称。パプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ、ニューカレドニアなどを含む。人口約1,070万。

こうした状況を踏まえ、この10年で研究・研修プログラム・現場出張サポートなどが大幅に増加、国内の養魚場の数は約1万から6万にまで増えている。

魚には質の高い動物性タンパク、オメガ3多価不飽和脂肪酸、ミネラル、脂肪、水溶性ビタミンが含まれる。国連食糧農業機関(FAO)も、栄養価の高い魚は栄養失調対策としてすぐれていると主張している。

さらに水産養殖は、失業率が70パーセントにもなる村落地域の若者たちに、職業スキル・経済的自立・達成感を味わえる機会をも提供することになる。

ホグ村ではギャングメンバーの改心、犯罪数も減少

東部山岳地域にあるホグ村にも、そのメリットがもたらされている。
ここは、車上荒らし、恐喝、強盗、違法マリファナ密売で知られる犯罪集団「ラスコル」によって、犯罪多発地区になっていたハイウェイ近くの地域だ。ドライバーや旅行者にも“危険な地域”とされていた。

しかし3年前から養魚業の研修がはじまると、ギャングすらもがこれに関心を持ち、状況が一変しているのだ。

ニューサウスウェールズ大学の生態系科学センターの准教授で、オーストラリア国際農業研究センター(ACIAR)の漁業コンサルタントを務めるジェス・サマットは言う。

「養魚業の研修が実施されているのを知り、自分たちの ”縄張り” で何をやっているのかと見にきた彼ら。興味をもったようだったので研修チームもこれを歓迎、一緒に参加することになったのです」

研修では、魚の繁殖、水質管理、養魚池の建設・メンテナンス、安価な餌づくり、有機肥料の使用など、幅広い内容をカバーする。目指すは、「持続可能な食糧自給」と「所得確保」だ。

研修を終えたギャングメンバーたちは(25〜47歳まで)100もの養魚地を作り、テラピア(*)やコイを養殖。村の住民680人以上の食糧を提供するまでになっている。公正な生計手段と村人からの信頼を得た彼らは、マリファナ栽培をやめ、犯罪からも足を洗うようになっているのだ。

*アフリカ原産の淡水魚。

ホグの養魚場で働くミカ・アランカは言う。
「彼らは池掘りや用水路づくりに熱心に取り組みました。自分たちで整備した池で育てている魚を見ていると、心が落ち着くというのです」

太平洋の島国の中で最も人口の多いパプアニューギニア。水産養殖が安定した食糧供給源となっているだけでなく、思いもよらない社会変革の手段にもなっているのだ。

By Catherine Wilson
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo








ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

募集概要はこちら