2019年の参院選では重度障害者2名が国会議員に選出され、話題を集めた。おかげで国会の物理的なバリアフリー化が急ピッチですすみ、働いている間の介護費を参議院が負担することになるなど、当事者の当選によって環境が大きく変わりつつある。障害者を分け隔てることなく、社会参加を推進する”インクルーシブ”という概念。今回ご紹介するのはダンスの世界で起きている動きだ。
サラ・ラップ(33)は先天性の脳性まひ*を患っているが、ダンスで人生が大きく変わったと言う。踊ることで身体を動かしやすくなったし、何よりも意欲をかき立てられた。バンクーバー拠点の“インクルーシブ”な ダンスカンパニー「オール・ボディーズ・ダンス・プロジェクト」の共同創立者である彼女が、ダンスという表現にかける思いをカナダのストリートペーパー『Megaphone』に語った。
週に1度のプライベートレッスンを終えてカフェにやって来たサラは、車椅子の背もたれを使わず、背筋を伸ばして座ってみせた。ダンスを始めるまでは自力で体を支えることさえ難しかった彼女、こんなふうに体を使えるようになるなんて夢にも思わなかったという。「今ではごく自然に、体の中心でバランスを取ることができます。この状態をずっとキープするのは難しいですが…」
彼女は、カナダ・バンクーバー拠点のダンスプロジェクト「オール・ボディーズ・ダンス・プロジェクト」の共同創立者だ。“さまざまな能力が混じりあうこと(Mixed Ability)” をモットーとするダンスカンパニーだ。踊ったり振り付けをするだけでなく、運営業務もこなし、ダンス教室の指導サポートもおこなっている。
その一方で、指導を受ける側でもある。助成プログラムにより、彼女のメンターであり、同団体の共同創立者であるナオミ・ブランドの個人セッションを週に一度受講している。彼女にとって、このような個人指導はとても価値がある。しかし人からは、ダンサーとして “上達” することをあまり期待されていない、と漏らす。
「障害のある私は、どんなことをしてもそれだけで十分と思われがち。外から見ると、それでいいのでしょう。でも私はもっと上を目指したい。期待をかけられたいんです。ダンサーとして上達させてくれる人が必要なんです」
ダンスのおかげで、この病気に特有の「筋肉のこわばり」も軽くなった、と両手を軽く握った状態から力を緩める動きを見せてくれた。
インクルーシブなダンス教室を立ち上げたワケ
彼女は5歳の頃には、サレー市の自宅近くの屋外スペースで、家族や近所の人たちを前に踊りを披露していた。「仰向けに寝転がって、自分で考えた振り付けで踊るのが私流のダンスでした」
車椅子生活の彼女が、他の子どもたちと一緒に踊れる機会はそうそうなかったが、1994年と1995年に、慈善団体「Variety the Children’s Charity」によるバラエティ番組 でバレエを踊る機会があり、ダンスへの思いを募らせていった。だが高校生になると「ダンスのことはすっかり頭になく、全く踊っていませんでした」と振り返る。
プロを目指すダンサーたちは十代の頃からスタジオに通い、延々と稽古を繰り返すが、彼女はそんな日々を過ごしてこなかった。再び踊り始めたのは、高校を卒業してずいぶんたってからだ。
NPOの顧客サービス部門マネージャーとして働いていた彼女は、気晴らしで、車いすユーザー向けのダンス教室に通い始めた。そこで、2010年のバンクーバー・パラリンピックでの車いすダンスパフォーマンスに参加し、一緒に振り付けを考えてくれないかと声がかかった。
「オリンピックがそもそもの始まりでした。何かしらのチャンスを掴みたいと思っていたところに、その話が舞い込み…とても短いプロジェクトではありましたが!」
その後、通っていたダンススクールは閉校。時々は劇団で踊る機会をもらっていたが、彼女のダンス人生を大きく花開かせたのは、2013年のブランドとの出会いだ。
「Facebookで見つけた地域のダンス教室に参加することにしました。対象は55歳以上でしたが、障害がある方ならどうぞと言ってもらえて。すてきな教室でしたが、座ったまま踊るのは私だけだったので、ちょっとやりにくかったです」
その教室の講師がブランドだった。レッスン後におしゃべりしているうちに、互いに、いろんな能力の人からなるダンスをつくりたいという思いを抱いていることが分かった。
助成金を獲得できた二人は、もう一人の創立メンバー、ミラエ・ロズナーとともに「オール・ボディーズ・ダンス・プロジェクト」を立ち上げた。まず着手したのは、無料ダンス教室を開くこと。コミュニティセンターが場所を提供してくれているおかげで、この取り組みは現在も続いている。
教室は3つのコミュニティセンターで開催され、それぞれ参加者は10~20名ほど。身体障害のある人もない人もいる。各クラスでは最初に自己紹介をして、自分がどう呼ばれたいのか、どんな風にコミュニケーションをとって欲しいかを伝え合う時間をとっている。
「障害については、話したくなければ言う必要はありません。大事なのは、今日みんなで一緒に踊るために、お互いに知っておかなければならないことをシェアすること。私たちとしては、オープンで安全な環境を提供し、そこで自分のことや、まわりの人の動きや創造性を発見してもらいたいのです」
例えば、ラップはこんな自己紹介をする。「ぜひ気軽に話しかけてください。体に触れてもらっても構いません。でも電動車椅子を使っているので、右側の操作レバーにだけは気をつけてくださいね」こんな風に伝えることで、お互いに必要以上に神経を使わなくて済むのだと。
今後は、自分たちで振り付けをしたダンスでツアーに出たいと考えている。そして、さまざまな能力の人たちが一緒になって作り出すダンスのことを、もっと多くの人に知ってもらいたいと願っている。
「私たちの活動によって、人々の見方が変わるきっかけになればと思っています」
「興味を持ってくださる人は少なくありません。でも、プロフェッショナルなダンスとして確立されるには、まだまだやるべきことが山積しています」
By Tessa Vikander
Courtesy of Megaphone / INSP.ngo
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