コロナ禍のデモ参加者が気を付けたいこと6つ ー ニューヨークの感染症研究者からの提言

 「私たちは今なおパンデミック下にある(WE ARE STILL IN A PANDEMIC)」

Twitterにこう投稿したのは、米デンバーで Black Lives Matter 運動を率いる活動家テイ・アンダーソン*1。警察による暴力行為に対して抗議デモを繰り広げる者たちに、自分と一緒にPCR検査を受けようと呼びかけた。



*1 デンバーの教育委員長を務めている。https://www.tayanderson.org

パンデミックの最中にもかかわらず、群衆の多くはマスクも着用せず大声で叫んでいたのだから、多くの人が感染しているリスクがある。恐ろしいのは、自分でも知らないあいだにウイルスを撒き散らしているかもしれないということ。こうした“静かなる感染拡大者(silent spreaders)” にさらされていたかもしれないデモ参加者たちが、自宅や近所にウイルスを持ち込めば、予防策を取っていない家族や友人たちを危険にさらすこととなる。

photo2

マンハッタンでの抗議活動。大勢の人々が広場に集まった
Ira L. Black/Corbis via Getty Images

デモ参加者たちが自分自身、家族、そして地域社会を守るために何ができるだろうか。ニューヨーク州立大学バッファロー校の感染症研究責任者であるトーマス・A・ルッソ教授が、「コロナ禍のデモ活動」について主な疑問に回答してくれた。

Q1. 無症状であれば、家族や友人への感染を心配する必要はない?

これまでに分かっているデータにはなるが、コロナウイルス感染者は発症する6日前から発症後9日目まで感染力を持っているとされている*2。これはかなり長い期間である。

感染の“ピーク” は発症の2〜3日前から発症後2〜3日ではないかと考えているが、いかんせんこの新型コロナウイルスについては我々研究者も学習中である。感染に必要となるウイルス量なども、まだ正確には分かっていない。

つまり、感染しても症状が全く出ない者たちがいること、無症状でも感染を拡大させる可能性があると考えてほしい。これが新型コロナウイルスの厄介な点である。

*2 Contact Tracing Assessment of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods Before and After Symptom Onset

04

2020年5月31日、オクラホマ州議会議事堂の階段の上に立つ抗議者
Photo by Nathan Poppe, The Curbside Chronicle

Q2. デモ活動は屋外なので感染リスクは低いのでは?

一般的には、屋内より屋外の方が感染リスクは低い。これは、空気量が多い場所ではウイルスが分散され、広い空間だとソーシャル・ディスタンスを確保しやすいため。
しかし、大規模なデモ活動ではそうとは言えない状況がある。
大勢の人に囲まれて長時間一緒に過ごす。
デモではノッてくると大声になりがちなので、普通に会話している時よりも多くの気道分泌物を出している。

デモの様子を見ていると、マスクやメガネなどの防護グッズを着けていない者も多い。
こうした条件が組み合わさると、屋外であることもあまり意味がなくなってしまうだろう。

02

2020年5月30日のデモにて、交通量の多い交差点にたむろするオクラホマシティの抗議者たち
Photo by Nathan Poppe, The Curbside Chronicle

また、大勢の人々が集まっているところでどれだけの人が感染し得るかも分かっていない。デモを行っている地域の感染率が低くても、(感染率の高い)外部からの参加者が加われば*3、何が起きるか分からない。


*3 ノースカロライナ州シャーロットでは5月30日(土)のデモで30名が逮捕されたが、およそ4分の1は地元出身者ではなかった。
Jail records: Number of protesters arrested in Charlotte from out of state grew from Friday to Saturday

Q3. デモ活動における「スーパー・スプレッダー」のリスクとは?

大規模集会では、一人が大勢の人を感染させるという大きなリスクがある。
通常、新型コロナの陽性者は、(感染対策を取っていない、感染しやすい人)2〜6人に感染させると見られている。しかし、中には「スーパー・スプレッダー」と呼ばれる人たちがいて、数十人もの人たちに感染させることもあるという。

しかるべき “感染スポット”にいて、近距離で咳をしたり大声を出したりして最大ウイルス量が飛び交うと、誰でもスーパー・スプレッダーになり得るのだろうか?

20

数千人がマーチン・ルーサー・キング・ドライブを平和的に行進するのを見て、拳をつき上げる女性
Credit: Kathleen Hinkel

スーパー・スプレッダーが猛威を振るった事例が、3月初旬、ワシントン州スカジット郡の合唱団で起きた。2時間半ほど合唱練習をしていた中に、無症状のスーパー・スプレッダーが参加していたことで、その日参加していた61人の聖歌隊員のうち52人が陽性または陽性疑いとなり、うち2人が死亡したのだ。

同じくデモ活動のような場でも、条件さえそろえば、一人の感染者が大勢の人を感染させるリスクは常につきまとう。

14

Street Roots, Portland (2020年5月)
Photos by Diego Diaz

Q4. 大声を出すとウイルスは拡散しやすい?

感染者が「普通に話す」だけでも近くの人たちに感染することは分かっている。大声を出す行為は気道分泌物の生成を促すため、デモでは大量の分泌物が撒き散らされていると考えるべき。大声を出していると唾も飛びやすくなるため、感染する可能性も高まるであろう。

photo1 (1)

ミネアポリスにて警官に殺されたジョージ・フロイドの死を受け、全米各地で何日にも渡って抗議活動が巻き起こった Lauren A. Little/MediaNews Group/Reading Eagle via Getty

また、気合いが入ってくると酸素の消費量が増えるため、より激しく呼吸するようになって空気交換量が増える。呼吸数が増えると、感染粒子を吸い込むリスクも高まるだろう。

Q5. デモ活動中の感染を防ぐには?

マスクを着けることとメガネなどで目を保護することが重要だ。

そして、なるべく人との距離を保つこと。ルールとして設けられている「6フィート(約1.8m)」はあくまで目安。たとえ10フィート(約3m)離れていても、しかるべき時にしかるべき場所にいれば、十分に感染する可能性はある。

13

Street Roots, Portland (2020年5月)
Photos by Diego Diaz

デモ隊から離れたところや風上側にいると少しはマシかもしれないが、決して安全とは言えない。デモ隊の動きや風向きが変われば、突如として感染リスクが高まることもありうる。
“絶対安全”な方法でデモを行うのは難しいが、全参加者がマスクやメガネなどの感染対策を徹底すれば、感染リスクを大幅に減らすことはできるだろう。

11

白人警察官に殺された黒人男性ジョージ・フロイド(ミネアポリス)とエリック・ガーナー(ニューヨーク)の最後の言葉が書かれたサインを掲げるシアトルの抗議者 Credit: Mark White

Q6. 家族や友人を感染させないためには、デモから帰宅したら何をすべき?

自分は大丈夫と思っていても、ウイルスを撒き散らす可能性があることを決して忘れないこと。もし本当に感染していたら、家族や友人たち全員を危険にさらすことになる。

ジョージ・フロイド死亡事件が起きたミネソタ州では、抗議活動に参加した全員にPCR検査を受けるよう呼びかけているし*4、陽性者が1人出たミネソタ州警備隊でも、デモ対応にあたった全ての隊員たちを検査するとしている。

*4 https://twitter.com/mnhealth/status/1268260465336971264

しかし、検査をすれば多くの人の感染を確認できるだろうが、まだ誰でも検査を受けられる状況ではない。大切な家族や友人を守る最も安全な方法は、デモ参加後3週間は “ウイルス潜伏期間”と考え、自主隔離ができないのであれば、きちんとマスクを着け続けることであろう。

22

ジョージ・フロイドの最後の言葉が書かれたマスクを着けた女性
Credit: Kathleen Hinkel

著者 Thomas A. Russo
Professor and Chief, Infectious Disease, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, The State University of New York

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年6月4日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

関連記事

https://www.netflix.com/jp/title/80127558








ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

募集概要はこちら