台湾とアイスランド政府のコロナ対策における共通点ー国民からの信頼感・支持率も高水準

 新型コロナウイルス対策が効果的だったとして世界から称賛されているのが台湾とアイスランドだ。両国とも、初期の段階で「協力的戦略(cooperative strategy)」を取り入れ、多数の組織を連携させることでウイルスの封じ込めに取り組んだという共通点がある。

この協力的戦略は、組織が他の組織の協力を得て目標達成を目指す場合に有効で、その意義は我々の最近の研究からも明らかである。政府と民間企業が協力し、互いに必要な資源や専門知識を補完し合う、そうすることで課題解決に要する時間を短縮することができるのだ。同じような戦略を取った国は他にもあるが(韓国やドイツなど)、台湾とアイスランドでは特にこれが重要な役割を果たした。

スピード感あふれる台湾モデル

台湾の新型コロナ対策は模範的だ。人口約2,380万人のうち、累計感染者は476名、死亡者は7名のみ、441名がすでに回復している(8月5日現在)。

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コロナ対策で高い評価を得た台湾 David Chang/EPA 

台湾政府は早い段階から出入国制限を実施。1月20日には、さまざまな政府省庁間、および政府と民間部門の調整役として「中央感染症指揮センター(CECC)」を組織、ビッグデータを用いた分析・検査・隔離・接触者追跡の連携・調整を担わせた。

また国立健康保険局と入国管理局も連携。国民の医療情報と出入国情報を1つのデータベースに統合し、検査対象者の特定に活用した。3月下旬以降は、すべての新規入国者に14日間の自主隔離を義務付けた。

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5月下旬、台北の寧夏夜市 で手の消毒液を配布する医療従事者 David Chang/EPA 

CECCは警察・自治体・通信会社とも提携し、携帯電話の追跡システムを使って自主隔離状況を強化し、自治体職員は隔離中の市民に電話で健康状態をチェックし、必要に応じて日用品の提供を行った。台湾疾病管制署はテクノロジー企業のHTC社とLINE社と提携、通常の24時間ホットラインとは別に、自分の健康状態を入力するとウイルス対処方法を助言してくれる「チャットボットサービス」を始めた。

官民の検査所や認可検査施設の協同ネットワークにより、1日に約5,800件のPCR検査を実施できる体制を整えた。

またマスクの買い占めを防ぐため、台湾政府は全国民にマスクを配給*、その間に新規生産ラインを拡大させた。政府は2月に、工作機械の業界団体・台湾区工具機・零組件工業同業公会(TMBA)の各メーカーと提携し、手術用マスクを製造する新しい機械に投資を行った。その見返りとして、マスク製造メーカー各社は政府と合意した価格でマスクを販売するという条件がついた。これら政府主導の効果的な連携戦略により、通常であれば数ヶ月かかるマスクの生産ライン60本の確立を、25日間で成し遂げた。生産ラインはさらに増設され、現在では1日に約2,000万枚のマスクが生産できるまでになっている。

*台湾ではマスク配布に Name-Based Mask Distribution Systemの導入を発表(2月6日)、当初は薬局にて1人あたり週2枚まで購入可にするとともに、マスクの在庫状況をスマホからモニタリングできるようにした。その後システムはバージョンアップされ、ver.2.0ではeマスク・ウェブサイト又はアプリからの購入が可能に。4月末にリリースされたver.3.0では、コンビニエンスストアでも購入可に(2週間で9枚まで)。台北では4月初めに認証システムを取り入れたマスクの自動販売機も登場した。

さらに台湾には、「v台湾(vTaiwan)」という市民が立法プロセスに参加できるオンライン討論プラットフォームがある。マスクの在庫状況をリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」も、ここに寄せられた提案から生まれたもの。迅速なアプリ開発は、デジタル総括省と起業家やハクティビスト*たちが連携することで実現した。

*政治的・社会的なメッセージ性をもってサイバー攻撃を行う者たち。ハッカーとアクティビストを組み合わせた造語。

アイスランドの連携戦略

アイスランドも、官民の協働戦略で新型コロナ対策に成功した国である。人口約34万1千人のうち、累計感染者は1,918人、死亡者は10人のみ、1,825人がすでに回復している(8月5日現在)。

政府は1月31日に新型コロナ対策に特化した国家危機調整センター(National Crisis Coordination Center)を設置、大規模な検査、隔離、濃厚接触者追跡を指揮させた。また2月以降の積極的な検査を可能にしたのは、アイスランド国立大学病院とバイオテクノロジー企業デコード・ジェネティクス社の連携によるものだ*。

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アイスランドの検査数(アイスランド国立大学病院とバイオテクノロジー企業デコード・ジェネティクス社による) Government of Iceland 

*OECD(経済協力開発機構)によると、アイスランドは人口あたりの検査数では世界トップクラス(人口1000人あたり約135人の割合で実施)。一方、検査数の少なさが顕著なのはメキシコ(0.4人)、日本(1.8人)、ギリシャ(5.8人)。(数字は4月26日時点)
参照:These are the OECD countries testing most for COVID-19

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自主隔離と濃厚接触者追跡においても、この官民連携が重要な役割を果たした。
2月には、政府の衛生管理局が「国民保護および危機管理部(DCPEM)」と連携し、警察の捜査員や医療従事者から構成される60人の濃厚接触者追跡チームを結成した。警察が持つ捜査手法の専門知識で、自主隔離のルールを強化させた。また民間企業グループとも提携、データ保護機関と協議の上、濃厚接触者追跡アプリ「Rakning C-19」を開発した。

政府が迅速に開かれた対応をすれば国民の信頼はついてくる

このように、政府が新型コロナ対策に首尾よく対応した台湾とアイスランドでは、国民の政府に対する信頼度が高まっている。インターネット調査会社ユーガブ社(YouGov)が5月に実施した世論調査では、政府と医療従事者に対する台湾国民の信頼度は80%以上と非常に高い数字が出た。アイスランドの新型コロナ対策における透明性と有効性は、4月の世論調査結果からも見て取れる。国民の84%が「感染拡大予防につながるなら自らの人権を多少犠牲にしても構わない」と回答したのだ。

両国の事例から言えるのは、政府が「迅速な対応」で医療の専門家がリーダーを務める危機管理・指揮センターを組織し、官民の連携をすすめ、国民に対して透明性の高いコミュニケーションを実現したこと。それにより国民の信頼が高まったということ。

これは「協力的戦略」を選択することの一般的教訓とも一致する。すべての関係者間が開かれた関係であること、それが信頼関係の土台となるのだ。

著者
Linda Hsieh
Reader in Strategy and International Business, University of Birmingham
John Child
Professor of Commerce, University of Birmingham

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年6月29日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。


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