卵子凍結で母親になれた人は21%:英国の卵子凍結の実態

 晩婚化・高齢出産の傾向が続いている。「女性の生殖能力は30代半ばでガクンと落ちる」と専門家からの忠告がなされる中、加齢が原因で子どもができにくくなることへの「保険」の一つとして「卵子凍結」を視野に入れる女性が増えている。


英国の「ヒト受精・発生学委員会」の最新データ(2018年度)*1 によると、英国では不妊治療の方法として「卵子凍結」は年々増えており、2013年度の1,500サイクル*2 から 2018年度は約9,000サイクルと523%増だった。凍結技術の向上もあり、より一般的なものとなってきている。


*1 Fertility treatment 2018: trends and figures (2020年6月30日発表)
*2 1サイクルは排卵誘発剤の投与から採卵までを指す。

ロンドンの2つの不妊治療専門クリニックの調査から

卵子凍結をした後、子どもを持ちたいからと自身の凍結卵子を使いにクリニックを再訪する女性たちの「その後」はどうなっているのか。一体、卵子凍結した人の何%がこの「セーフティネット」に戻ってくるのか、戻ってきた人の中で実際に母親になれる人は何%なのか、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの「女性の健康インスティチュート」が実施した調査が初めてその実態を明らかにした*3。

ロンドン最大規模の不妊治療クリニック2ヶ所において、2008〜2017年のあいだに卵子凍結をしたすべての女性、および凍結卵子の使用を試みたすべての女性に関する情報を調査対象とした。


*3 論文:For whom the egg thaws: insights from an analysis of 10 years of frozen egg thaw data from two UK clinics, 2008–2017 (2019年5月発表)

この期間に、自身の凍結卵子を使いたいとクリニックに戻ってきた女性は129名、卵子凍結した女性の約5分の1だった。この129名のうち、いわゆる「社会的適応」(加齢に伴う生殖能力の衰えなど)で卵子凍結した人は3分の1超(36%)、残り3分の2(64%)はさまざまな「医学的適応」(抗がん剤や放射線などの治療前におこなう場合など)からだった。

クリニックに戻ってきた女性のうち、成功率(妊娠率)は21%、つまり、自身の凍結卵子を使って母親になれた人は5人に1人しかいなかった。「社会的適応」で卵子凍結した人に限ってみると、この数字はさらに低く17%だった。しかし、(受精に)挑戦したがうまくいってない人の26%以上は、まだ他にも卵子または胎芽が保存されているため、今後、出産に至る可能性があることは留意しておきたい。

卵子凍結した女性の年齢は25歳〜45歳と幅があり、平均で37.7歳だった。「社会的適応」で卵子凍結した人のほぼすべて(98%)が、卵子凍結の時点では独身で、凍結卵子を「融解」したいとクリニックを訪れたのは約5年後、平均で42.5歳だった。

「社会的適応」で卵子凍結した女性の多くが、その主な動機として「家族になりたいと思えるパートナーと出会うまでの “時間稼ぎ”」を挙げたが、クリニックを再訪した時点で約半数が独身のままだった。結果として、社会的適応で卵子凍結した人(約46名)の48%が「提供精子」を使って受精を試み、パートナー探しにさらに時間を費やすよりも、ひとりで母親になることを選択していた。

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社会的適応で卵子凍結した女性の48%が提供精子を選ぶ。 
Sebastian Kaulitzki/Shutterstock.com

母親だけで家庭をつくる決意

アリは自身の凍結卵子と提供精子を使って妊娠し、双子のモリ―とモンティーを授かった。そもそも卵子凍結をしようと思ったのは、この人となら、と思える人とまだ出会っていなかったから。しかし年月が経つうち、考えが変わったのだと言う。

「ひとりで母親になることを考えるようになりました。いい母親になりたかったし、保存しておいた卵子で子づくりに挑戦しなかったら、この先ずっと後悔するだろうなと思えて。子どもを授かることができたのは精子提供者のおかげ、とても感謝しています」

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 体外受精 vchal/Shutterstock 

美しい双子は5歳になり、アリは卵子凍結の技術にとても感謝しているが、クリニックを再訪するまでは妊娠することがこんなに難しいとは分かっていなかったと振り返る。「凍結保存した27個の卵子すべてを使って、最後にやっと双子を妊娠できたんです。もうダメかと思いました」

しかし、卵子凍結したからといって子どもを授かれる保証はない。現在の成功率でいくと、実際に母親になれる「勝算」は決して高いとはいえない。「凍結卵子の数」と卵子凍結した時点の「女性の年齢」が影響するうえ、他の不妊治療と同じで「偶然性」もついてまわる。

卵子凍結した女性の多くが、凍結卵子を「使う」ことにまだ挑戦していない。自然妊娠したためクリニックに戻ってくる必要性がなくなったのかもしれないし、「子どもを持つ」ことへの考えが変わった、または何かしらの理由で凍結卵子は不要と判断したのかもしれない。とはいえ、いまでも「そのとき」が訪れるのをただ待っている人たちもいるだろう。

英国では、「社会的適応」による凍結卵子は最長10年間保存でき、「医学的適応」になると最長55年間保存できる。そのため、卵子凍結した女性たちがどんな判断に至ったのかについて最終的なデータは、保存期間が切れるまで得ることは難しい。

今後はより多くの女性(特に近年卵子凍結した女性たち)が凍結卵子を使うと考えられる。クリニックに戻ってくる女性が増えれば増えるほど、もっと大掛かりな研究がおこなえるし、そうあるべきだろう。

卵子凍結は一つの選択肢になりうるし、すべての女性が自分に合った選択ができるようサポートを受けられるべきだ。それだけに、卵子凍結という技術を使って実際に母親になれる可能性はどれくらいなのか、実態をもっと多くのデータから明らかにしていく必要があるだろう。

著者
Zeynep Gurtin Lecturer in Women’s Health, UCL

※ こちらは『The Conversation』掲載記事(2019年5月23日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。数字データは2020年9月時点での最新版を反映しています。

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