新型コロナウイルス感染症のワクチン開発が進んでいるものの、パンデミック終息までにはまだしばらくかかるだろう。 長期化が避けられないコロナ禍に私たちはどう耐え忍べばよいのだろうか? ウォータールー大学心理学准教授イゴール・グロスマンが実施中の「ポストコロナ社会」に関するプロジェクトを紹介したい。
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が一部の人には進められても、大半の人は今後しばらくはパンデミックのストレスに対処していく必要があるだろう/Shutterstock
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「コロナ後の世界」については、感染拡大が始まって以来、数え切れないほどの予測がなされてきた。 起こり得る未来を考えることで、今を賢く生き抜くための知恵が見えてくる。だとすれば、人間の社会ならびに人類の行動を研究する専門家らは、私たちにどんな助言をするだろうか。
社会への影響
この問いに答えるべく、筆者は「ワールド・アフター・コロナ」プロジェクト*を立ち上げた。世界各地の著名専門家に依頼し、コロナ禍が社会に与える影響について意見を頂戴した。 プロジェクトは現在審査中だが(他の研究者による調査デザインおよび結果の検証は完了していない)、ソフトウェア開発のプラットフォーム「ギットハブ(GitHub)」上で公開されている。
参加を依頼する科学者は、諮問委員会が専門分野を踏まえて推薦。 150人挙がった候補者のうち、100人が調査表に回答を返し、57人が意見ヒアリングに参加してくれた。 科学的心理学会、米国精神医学会、米国心理学会の代表者(現在または過去)のほか、未来学者や災害マネジメントの専門家などの面々が揃い、3分の1以上が北米以外からの参加となった。
参加した専門家らにはそれぞれ5つの質問に答えてもらい、コロナ禍を乗り切るために必要な知恵について助言をしてもらった。同じ質問をすることで回答を比較でき、 比較作業を繰り返すことで、すべての回答からテーマを割り出していった。
*World After Covid プロジェクト https://worldaftercovid.info
パンデミックをやり抜くために今必要な知恵/著者提供
不透明な先行き
結果、コロナ禍を乗り切るためのアドバイスにはかなり不確定要素が大きく、専門家の意見も多岐に渡るものとなった*。とはいえ、多くの回答に共通していたという意味で際立っていた、4つの助言を紹介しよう。
1.専門家らが勧めるのは「楽観的な態度」だ。
「人類はこのようなパンデミックを何度も経験し、その都度なんとか乗り越えてきた」のだから、今回もそうなるだろうと*。*Optimism / Positivity(World After Covid)
2.また、「長期的な視点で物事を考えるべき」という意見も多かった。 「すぐに得られる満足感よりもずっと大切なのが未来です」との発言もあった。
*Long-Term Orientation(World After Covid)
3.最も多かった助言は「主体性をもって生きよ」だった*。 先行き不透明なコロナ禍にあっても、自分の日々の生活をしっかり管理できる方法を見つけよと。 そのように精神を集中させることで不安な中にあっても自分の感情をコントロールしやすくなる、というのは心理学の研究でも明らかだ。
具体的には、パンデミックを「管理可能な課題」と捉え直し、ある専門家の言葉を借りるなら「ベッドから飛び出してでもやりたい何か」を見つける。外出自粛で在宅ワーク中であるなら、通勤のある世界にあったような(気を引き締める)仕組みや習慣を設定する等。
*Agency & Control(World After Covid)
4.「社会的なつながり」に関する助言も多かった*。 「身近な家族内で些細でもよいので習慣を作る」、「大切な人、友人、隣人を守る」などだ。 社会的なつながりの重要性が指摘されたことは、“社会的なつながりは、災害時などにもメンタルヘルスを保つ役割を果たす”という実証研究の結果*とも一致する。
つながりを持ち続けること
ポスト・コロナ社会に見られるであろう“ポジティブな変化”で最も重要なものは何かとの質問に、専門家らは再度「社会的なつながり」を挙げたのは興味深い。 ネガティブな変化を訊くと、社会的なつながりとは正反対の「不信、疎外、偏見」などが挙げられた*。後者はパンデミック前から世界の多くの地域でみられた傾向ーー「家族の絆の弱まり」や「個人主義の強まり」ーーと合致している。この結果をどう解釈すればよいだろうか。
パンデミックという破壊的な力によって私たちは「社会的なつながり」をいやというほど意識させられたが、それは格好のチャンスともいえる。先行き不透明な状況と社会経済的な困難が立ちはだかる中、より良い人間を目指すこともできれば、それが不信や疎外につながる可能性もある。後者のパターンに陥らないために、今すぐ社会的なつながりを育む行動を取るべしというのが専門家らの意見なのだろう。
著者提供
パンデミックについては、科学的根拠のない意見も幅を利かせがちだ。そんな玉石混交の議論とは一線を画した、行動科学者や社会科学者の視点を分析することで、より具体的な助言を導きだせるのではと考えて始めたこのプロジェクト。現在進行中の世界的危機があらためて浮き彫りにしたのは、人類を決定づける特徴の一つ「社会性」に焦点を当てる必要性である。
著者
Igor Grossmann
Associate Professor of Psychology, University of Waterloo
https://igorgrossmann.com
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年1月8日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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