寄付の決定プロセスに変化/パートナーに相談しない寄付が増加:寄付大国アメリカの最新調査より

 米国の個人寄付総額は30兆円規模、日本の40倍近いと言われている*1。そんな寄付大国で、寄付者にある変化が起こっているという。アメリカの一般家庭のチャリティー寄付について、インディアナ大学傘下の女性慈善研究機関(Women’s Philanthropy Institute)で副所長を務めるジャクリーン・アッカーマンらが行った最新の調査結果を紹介する。

*1 日本ファンドレイジング協会『寄付白書2017』より。

2020年5月に女性慈善協会(Women’s Philanthropy Institute)はオンラインで「慈善事業への寄付行為」に関するアンケート調査を実施した。回答者は全米で3,500人、うち結婚しているかパートナーと同棲している「カップル」に該当するのは2,115人(60.4%)だった。

今回の分析では、ジェンダーの差異が最も現れやすいこれらの「カップル」世帯に焦点をあてる(独身者や、他の成人がいる世帯については言及しない)。本調査における「カップル」の定義は「性別の組み合わせを問わず、結婚または同棲している人」とし、LGBTQ+のカップルも対象とした。
LGBTQ+世帯は全回答者の11%、分析対象である「カップル」の8.2%だった。

2,115人のうち、2019年度に慈善事業へ「寄付をした」は1,693人(80%)だった。それらの寄付が、

  • 「2人で相談して決定」
  • 「男性が主導権を持って決定」
  • 「女性が主導権を持って決定」
  • 「(相談せず)各々で決定」

の4パターンで分類した*2。

*2 LGBTQ+の回答者については、男性回答者がゲイで、「どちらかが決定」と回答した場合、「男性が決定」でカウントした。

分析の結果、「2人で相談して決定」が約62%、前回調査(2005年)の73%から大きく減少していた。「2人で相談して決定」の内訳は、年配のカップル、18歳未満の子どもがいるカップルの割合が多かった。

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地元のフードバンクへの寄付を相談するカップル
Zinkevych/iStock via Getty Images Plus

一方で、カップルのどちらか1人が決定する世帯の割合は増えていた。どちらが主導権を握るかは、女性(15%)の方が男性(12%)よりやや多かった。(前回調査ではそれぞれ7%と4%)
残る11%のカップルは「(相談せず)各々で決定」で、前回調査の16%から減少していた。

寄付額でみると、男性が主導権を握っている世帯で最も大きく、「相談せず各々で決める」世帯が最も少なかった。


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米国のカップルが慈善事業への寄付を決定する方法

慈善事業への寄付について「2人で相談する」カップルの割合が減少し、カップルのどちらかが主導権を握る割合が増えている。https://theconversation.com/

相談なしに寄付を決められる金額とは?

「これ以上の金額ならパートナーに相談するべき」という基準は人それぞれであろう。寄付額が2,000ドル(約20万円)なら、20ドル(約2千円)の場合よりパートナーに相談する人が多くなるのは当然だ。

相談なしに寄付を決められる金額は、「(相談なく)各人で決定」する場合で平均$1,180、「男性が決定する場合」で平均$901だった。「女性が決定」で平均$311、「2人で相談して決定」で平均$239と、ぐっと低かった。

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CarmenMurillo/ iStockphoto

また、全カップルの4分の3が寄付金額やその目的に「賛成している」と回答し、寄付行為に関する高い満足度も見てとれた。

全寄付額の70%以上が個人から

女性が果たす役割は、労働力としても家庭においても徐々に変化し、今や一家の生活を支えるケースも増えている。こうした変化が、世帯単位の寄付行為に与えうる影響を理解することが重要だ。「ギビングUSA財団」と「インディアナ大学慈善学院」の共同調査によると、過去40年間における慈善事業への全寄付額の70%以上が、財団や法人ではなく、個人からだった。

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米国における寄付額(拠出元別)米国の寄付の多くは個人からのものだ
赤:個人 黄:遺産 緑:財団 青:企業 https://theconversation.com/


筆者らが調査したのは「お金」という形の慈善行為だが、「与えられるもの」はお金に限られない。お金に余裕がない場合などは特に、ボランティア活動や権利擁護活動などのかたちも考えられる。慈善活動を研究している筆者らも、人々がどういったかたちで社会に「お返し」しているのか、把握しきれていないところもあるだろう。

【補足】
今回のアンケート調査が実施されたのは2020年5月。コロナ禍に突入し、各家庭の状況も変化が激しかった時期である。その事実がどこまで調査結果に影響したかは分からないが、ひとつの考慮点であるかもしれない。
*参照:How do households make giving decisions?

調査結果をまとめたインフォグラフ
https://scholarworks.iupui.edu/bitstream/handle/1805/25382/women-give2021-infographic.pdf

著者
Jacqueline Ackerman
Associate Director of Research, Women’s Philanthropy Institute, IUPUI

Jon Bergdoll
Applied Statistician of Philanthropy, IUPUI

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年3月18日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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