ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、教育機関や企業などで講義をさせていただくことがあります。
「ホームレスになる理由」は一つではない
販売者のTさんは、福岡県出身。高校卒業後、東京にある音楽の専門学校に進学しますが、中学時代に失踪していた父親が、病気を発症し実家に戻ったことを機に、専門学校を中退。
その後は大阪で建設業の作業員として20年近く勤務していましたが、職場の人間関係に疲れて離職し、派遣の仕事に就いて1年が経った頃、リーマンショックが起こります。
“雇用の調整弁としての派遣切り”の当事者となり、安定した職に就けなくなります。不安定な日々のなか、次に転機となったのは東日本大震災でした。
宮城県石巻市在住だった友人を心配し、宮城県に足を運ぶことを決心。仙台にある会社で除染作業員として勤務しながら友人の情報を集めるうち、役場から友人が今も行方不明だと知らされます。やるせない思いを抱えつつも被災地の復興に貢献したいと考え、除染作業員としてしばらく勤務した後、地元・福岡に帰省しました。
「自分のできることはやった、と思って帰ってきたんですが、心に穴が空いたようでした。」
結局、長く不在にしていた地元では居場所を感じられず、長く生活していた大阪に戻ってきたTさん。その頃から、ネットカフェや簡易宿泊所で毎日を過ごす生活が始まったといいます。
「いよいよお金がなくなって、公園のベンチで眠っていました。人の足音とか、何かが近づいてくる音が気になって、眠れなかったですね」と、当時の状況を語ります。
路上生活を続けるなか、ビッグイシューの設立について書かれた書籍『ビッグイシューの挑戦』を読んだことを思い出し、事務所へと連絡。そこからビッグイシュー販売へとつながりました。
販売者の体験談「販売を通じて、”人”とつながれることがやりがい」
「販売を始めて良かったことは、お客さんと会話ができること。話が盛り上がると、心に空いていた穴が埋まっていくような気がします。ビッグイシューの販売を通じて、いろんな人に出会っていると思います。自分は、知らない人同士をつなげる”ハブ”のような存在になりたい。そのために、ビッグイシューの読者会を企画したりもしています。ビッグイシューの内容が面白くて、本当に好きなんです。たくさんの人に読んでもらい、さまざまな立場の人の偏見が取り払われるような、多様な価値観が広がればと思っています。」
Tさんのこれまでのお話をきき、会場からは大きな拍手と、たくさんの質問が。
「ビッグイシューの雑誌は、どういう売れ方をするんでしょうか?」という問いに、Tさんが「毎日違います。私の販売場所は、平日の方が売れやすいですね。休日が続くと、人の流れが変わるので売れ行きも変わります。」と回答すると「へえ〜!」と声を揃えます。やはり、企業の視点をもつみなさん。「ものの売れ方」に興味深々な様子がありました。
また会場からは、「毎日いろんな人の動きや流れを見ていると思うので、『自分達の商品に興味があるのはどんな人だ?』というのもわかるのでは」
「販売者の体験談を聞くことで、違う人生を知ることができる。ぜひ、発信してほしい」
「自分もホームレス状態になるかもしれないという世の中で、ビッグイシューの存在を多くの人が知ることで、『大丈夫なんだ、助けてくれるところがあるんだ』と思えるかもしれない」といった、感想も聞かれました。
*今回の講義では、ビッグイシュー日本のスタッフから「ホームレス問題の背景、現状、課題」についての解説や、実際に路上に立っての販売者体験も行われました。
記事作成協力:屋富祖ひかる
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
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